15:気がかり(5)
シオンのするどい視線に耐えられず、アイラはさっと視線を逸らして俯く。このまま有耶無耶にして会話を終わらせてしまおうかと思ったが、それを許してくれないのがシオンだ。
「うん、それで?」
「それで、その……あれこれと仕事をしているうちに、ちょっとだけ無理をしたのかもしれないと、お医者様からは言われていまして……」
しどろもどろになりながら、アイラが説明をしているのを、シオンは嫌に大人しく聞いている。何を言われるのかと、アイラは冷や汗をかきながら俯き次の言葉を待っている。
「気になることって?」
「……えっと、いや、それは、」
これを話すべきか、話さないべきか、どちからと言うと話したくはないような。なんとか誤魔化せないかと思っているが、シオンの方が何枚も上手なため、それは許してくれそうもない。
「俺に言えないようなこと?」
「いえ、そんな事はないのですが……」
言えなくもないけれど、どうなんだろうか。弟の駆け落ちなんて家族内のゴタゴタを、シオンの口から聞いていないと言うことは、もしかして知られたくないことだったのでは。
それを不可抗力ではありながらも聞いてしまって、良かったのだろうか。ここは何か嘘をついておいた方がいいのでは。人のための嘘というかなんというか。
「そう、そんなに俺は信用できないんだ……」
「いえ!違うんです!その、何と説明しようかと頭の中を整理していまして」
嘘を考えようとしていたところ、シオンががっかりしたような口振りを聞き、咄嗟に否定してしまったアイラだが、何を言うかは全く決まっていない。
え、どうしよう。何から話出そうと一瞬考えたが、とりあえず口を開かなければとまとまり切る前に話し始めた。
「あの、聞いてしまいまして……たまたまなんです、相手の方がお話しされたんですが、」
シオンは、ゆっくりと話し出すアイラの言葉を無言で聞いている。そんな状況に、もう正直に言うしかないとアイラは覚悟を決めた。
「ごめんなさい、たぶん、知らない方が良かったんだと思うのですが……その、弟さんが、公爵家の方と、駆け落ちをされたと聞いてしまいまして……」
そこまで言って、シオンはどんな反応をしているだろうかと、アイラは恐々視線を上げてみた。ショックを受けていたら、嫌そうな顔をされていたらどうしようと思ったが、そこには想定外に特に何も変わっていないシオンの姿があった。
「………………え?あの、え??」
「うん、聞いてるよ?」
アイラの発言にも何とも思っていなさそうなシオンを見て、あれっと思いつい声を上げてしまった。しかしながらシオンは、まだ続きを求めてくるように待っている。
「あの、あれ?聞いても良かったんですか……?」
戸惑った顔をしながらそう言ったアイラに、シオンも何か噛み合っていないと気づき始める。
「………………あれ?俺言ってなかったっけ?」
「き、聞いてないです」
シオンは難しい顔をして、少し考えこむような素振りをしている。そんなシオンに対して、次はアイラが追求するような目でじっと見つめている。
「……ごめん」
ぱっとアイラの方を見て、何を言い出すのかと思いきや、開き直って謝ってきたシオンに愕然としてしまった。
「えっ、じゃあシオン様が王様になるつもりはなかったとか、信じてないですけど、弟さんが優秀だったとか……聖女の力が欲しくて……結婚されたとか…………」
驚いて全て口に出した後、アイラはしまったと思った。こんな、答えにくい質問までするつもりはなかった。おまけに、肯定されてしまったらどうしていいのか、自分の中でもどう反応できるか分からないのに、こんな事まで聞くべきではなかった。
「え、ちょっと待って、何か色々誤解と言うか噛み合ってないところがあると言うか……いや、ちゃんと全部説明するけど、その前に、誰?そんな事アイラちゃんに言ったの」
「……名前は言われなかったのですが、ルベルト家の親戚、だと言われました」
そう言ったアイラの言葉に、シオンがまた考え込む。そして、誰がそんな訳の分からない事をと珍しくシオンの顔に青筋が立ったように見えた。
「なるほどね……まあ大方、弟側に付きたかった人間が俺を貶めようと、まあ事実に色々脚色して言ったんだろうね」
「そう……ですよね。ごめんなさい、私も全部が事実じゃないとは思っていたんですが、あまりに予想外の話だったので、驚いてしまって……」
アイラはしょんぼりとしながら言った。誰だか知らない人の話に踊らされ、事実ではないと一蹴できなかった事にしょげているのだ。
「えっ、いやいや、俺も説明不足なところがあったからね。そりゃあ誤解してもしょうがないよ」
「……シオン様」
シオンはそう言ってにっこりと笑ってくれた。そして、ベッドの横に置いてあった椅子に腰掛けて、アイラの目を見て言った。
「そうだなあ……どこから話したらいいのか分からないけど、まあ安心してよ。俺がアイラちゃんを好きなことに変わりはないから」
そう恥ずかしげもなく言うと、シオンはどう話そうかと少し考え込んだ。
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