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15:気がかり(4)

 城内の廊下を、シオンは未だかつてないスピードで走っている。現役で騎士をしているくらいだから、もちろん走るのも慣れてはいるが、どうしてか上手く足が回っていないような気がする。


 どれだけ足を動かしても、深い沼に一歩が沈んでしまうような、嫌な感覚が拭えない。それくらい、シオンは焦っていた。


 もっと自分が注意していたら――


 シオンは後悔でいっぱいだった。

 視察も終わり帰ろうかとしていた頃、突然アイラが倒れたとの連絡が入った。


 容体までは詳しく聞けなかったため、馬車の中では生きた心地がしなかった。医者にはかかっているだろうか、間違ってもヤブ医者が来ていないだろうか、とてもよくない状態ではないだろうか、悪い想像ばかりが働いてしまい気が気ではなかった。


 城に着き、馬車を降りた時に、今は落ち着いてベッドに横になっているとの話は聞いたが、この目でみないと信用できないと、シオンは今走っているのだ。


「アイラちゃんは!?」


 シオンは応接室の扉を勢いよく開けて言った。そこにいた侍女たちも、いつもより慌ただしくしてはいたが、あまりに焦ったシオンを見て驚き、一瞬固まってしまった。


 それを見たシオンは、何だこの温度差はと腹立たしく思ったが、ここで怒っても何の意味もないと気持ちを落ち着かせて再度確認した。


「あの……アイラちゃんが倒れたって聞いたんだけど、今どこにいるのか分かるかな?」


 その言葉を聞いて、侍女たちもああそうだったと思い出し、すぐにシオンの問いに答えた。


「先程お医者様に診てもらいまして、今は落ち着いたご様子です。自室でお休みですがいかがされますか?」

「わかった、ありがとう」


 どうするかと聞いた侍女の問いにも適当に返して、シオンはさっさとアイラの部屋の方に向かっていった。


 落ち着いているとは言っても、どんな様子か確認しないと心配でしかたがなかった。苦しくはないだろうか、痛いところはないだろうか、気分はどうだろうか、どうしてもっと早く気づいてあげられなかったのか、いくつもの不安と後悔が頭に浮かんでいた。


 あれこれと考えている間に、アイラの部屋の前まで着いた。すぐに扉を開けようとするが、そんな事をして驚かれてしまったらどうしようと、ここにきてシオンは躊躇してしまった。


 引き返そうか、いやでも少しは慣れてくれたし大丈夫なはず、でもいきなりは怖がられるかも、いやいや妻の体調不良に駆けつけない方が良くないだろう。


 ああでもない、こうでもないと葛藤を繰り返した後、シオンは覚悟を決めて扉に手をかけた。起こさないように、音を出さないように、怖がらせないように、そう思いながらそっと扉を開いた。


「…………はい?起きてるから大丈夫よ?」


 なるべく静かにを心掛けたシオンではあったが、何の意味も持たなかったのか、アイラに気づかれてしまいどきりとした。寝ているところをそっと確認しようと思っていたため、顔を出しにくい思いはあった。しかし、ここまで来て帰ることもできないと、シオンは申し訳なさそうにアイラの前に出た。


「あの……ごめんね、いきなり来てしまって……倒れたって聞いて、どうしても心配で……」


 弱々しく言葉を紡ぐシオンに、アイラはと言うと、ベッドの上できょとんとしてしまっていた。


 そんなアイラ本人は、貧血と少々の過労により眩暈がして一瞬倒れたが、横になってすぐに落ち着いていた。


 ずっと胃が空っぽのまま過ごしていたため、胃痛も起きたが、医者に薬を処方してもらったらすぐに治った。今まで健康第一で生きてきたアイラの体調不良など初めて見たニナは焦ったが、医者に状況を聞いてすぐに呆れて仕事に戻ってしまった。


 そのため、ほぼ良くなったのになあと思いながらも安静を言い渡されたため、ベッドの上でぼんやりとしていたアイラは、そっと現れたシオンを見てどうしたのかとキョトンとしてしまったのだ。


 そんなアイラを見て、体調が思わしくないのかと不安が煽られたシオンは、アイラより青ざめながらまたしても口を開いた。


「や、やっぱりまだ調子悪いよね?大丈夫?もっと良い医者を探そうか?どこか痛いところある?」

「えっ!いえいえ、大丈夫ですよ!もうどこも何ともないですよ!」


 矢継ぎ早にシオンに質問され、ぼんやりとしていたアイラもこれは誤解を生んでいると慌てて否定した。


「そんな事言って、また無理してるでしょ。いつ聞いても大丈夫って言うけど、もう少し……本当の事を教えて欲しいよ」

「シオン様………………」


 何気なく大丈夫だと答えていたアイラは、まさかこんなにもシオンに心配させてしまうとはと思い反省していた。


 ただ迷惑をかけたくなくて、役に立たない奴だと思われたくなくて一人で耐えてきたが、たしかにそれによってこんな事になり、心配までかけさせてしまっては本末転倒だ。


「まだ、俺のことなんて全然信用できないかもしれないけど、もう少し頼ってくれると嬉しいな」

「そんな、つもりはなかったんですけど……」


 でも確かに、全て受け止めてくれると思えていたら、何もかも話していたのかもしれない。いやでも、これは自分に自信がないせいで、けしてシオン様を信用してないとかではないような気もする。


 自分の気持ちもいまいち理解できていないアイラは、なんと答えていいやらと悩んでしまった。


「体調は、本当に大丈夫なんだよね?」

「はい!それはもう本当に大丈夫です。ちょっと根を詰めて働きすぎてしまいまして……あっ、でも仕事が多いとかではないのですよ、ただ、その色々思うところがあって……」


 ああこれは、余計に良くない方向に会話を持っていってしまったとアイラは後悔した。シオンもいつもより真剣な顔で話を聞いていた。

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