15:気がかり(2)
城内の至る所に吊るされたシャンデリアの明かりも、フォークと皿が当たる高い音も、廊下を歩くたびに心地よく当たる風も、今のアイラには全てが煩わしかった。
明かりはいつもより眩しく感じられ、音は頭痛に響き、風があたれば肌がざわついた。
アイラは今、シオンと向かい合って昼食を取っているところだ。何気ない会話を続けている、穏やかな光景に見えるが、どうにも食が進まない。こんなに美味しいのに、アイラは小さくため息を吐いた。
「アイラちゃん、大丈夫?なんだかいつもより元気がないような気がするんだけど……」
いつもは幸せそうに食事をしているアイラだが、皿の中身の減りが悪いため、シオンは心配して言った。
「えっ、いえいえ、大丈夫です。ほんとに、あのっ、元気いっばいですよ!」
アイラはこれでもかと大袈裟に手を振り、なんともないとアピールしてみせるが、余計に怪しまれてしまう。
「……何か気になることもない?心配事とか、不安な事とか、本当に何にもない?」
そんな問いに、アイラはどきりとする。パーティーの日から、アイラはどうにも自分に自信が持てずにいた。聖女であれば誰でも良かったのでは、それならばもっと都合のいい人がいたら、自分はやはり邪魔になるのではないか。
シオンの態度からは、そんな様子は微塵も感じられないのだが、自分の未熟さは十分に理解しているアイラは、どうしても自分自身を信じることができないのだ。
「いえ、本当に何もございません。……その、ご心配おかけして申し訳ございません」
アイラはそう言って、眉を下げながら微笑んだ。何か壁を感じるようなその顔は、シオンにはとても弱々しく見えたため、すっきりはしなかったがそれ以上追求もてきなかった。
「そうなの?まあ、それならいいんだけど……」
お互い本心を隠してしまっているからか、最近は和やかな空気が流れていた二人の間にも、どこか気まずい雰囲気が漂ってしまう。
それを感じ取ったアイラは、良くない返事だったかと後悔したが、それをフォローできるような技量もなく、黙り込むしかなかった。
「まあ、少しでも何かあったら教えてね?いつでも俺が力になるからね」
そんな空気を変えようとしてくれたのだろう、シオンは優しくそう言ってくれた。
「……はい!ありがとうございます」
アイラもそんな言葉に、やはり自分の被害妄想でしかないだろうと思い直し、少し元気を取り戻した。
その後は、再び楽しく会話を続けていたのだが、騎士団から緊急の案件だとシオンは呼び出され、アイラだけが残ってしまった。
このまま食べようか、どうしようかと考えたが、元々それほど食べられそうになかったため、無理して食べるのもと思いナイフとフォークを置いた。
「……ごめんなさい、私も今日はこのくらいにさせて頂くわ」
そう言いメイドに食器を下げさせて、アイラは部屋を出た。ここ数日間、アイラは部屋に引きこもってずっと仕事を続けていた。
体力的に疲れてはいたのだが、ぼんやりしていると、余計な事を考えてしまうため、色々な仕事を一手に抱えて作業をしていたのだ。
そんな事もあってか、睡眠も十分には取れておらず、頭痛は収まる気配はないし、最近は眩暈すらしてきた。このままではダメだと分かっていながらも、気持ちの整理が付かず、こんな状況を続けているのだ。
今日はとうとうシオン様にも心配されてしまった。なんとかしないと……。
アイラはそう思い直し、少し外の空気でも吸って気分転換をしようと、自室に向かうまでの道のりを少し遠回りして、庭の方に向かって行った。
「………………聞きましたか?王子の噂」
この角を曲がったら庭に出られると言うところで、アイラは思いがけない言葉を聞きぴたりと立ち止まった。
「ええ、ご結婚されたのに、何も変わっていないのではと……どうも、遠征のたびに、遊んでいらっしゃるらしいですね」
誰もいないと思ったのだろう、まさかアイラがすぐ近くにいるとは知らず、侍女たちがヒソヒソと話を続けている。
これ以上聞いてはいけない、あれはあくまで噂話だと思ってはいても、アイラの足は動かない。
「最近、アイラ様にお仕事を任せたと思ったら、そう言う事だったんですね」
急に自分の名前が出てきて、アイラはどきりとする。仕事を引き受けると言ったのは自分であって、任せられたわけではない。シオン様にそんな意図はなかった。
そうは分かっていても、もしかしてと思ってしまっていた。
――全て王子の掌の上だったのかもしれません。
パーティーの時に男から言われた言葉が、脳裏に甦る。シオン様は本当に優しい。こんな私にも嘘みたいに優しくしてくれている。
本当に嘘だったら?全て、演技だったら?
ありえない話だと頭では理解しているが、そんな考えが次々に出てきてしまう。
「姫君もお可哀想に……」
「ええ、もしかしたら、時間の問題かもしれませんね」
会話がひと段落ついたのだろう、侍女たちはアイラに気づくことはなく仕事に戻っていった。
やっぱり私ではない方が良いのかもしれない。
聖女としての力があれば良いだけで、結婚は他の人がいいのかもしれない。
アイラはそんな考えを拭うことができないまま、呆然としながら自室に戻っていった。
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