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14:見据えた先(4)

 会場に戻った矢先、やはりシオンの姿は探されていたのだろう、二人は再び囲まれてしまった。シオンもうまく抜け出そうとしたのだが、関係上どうにも無碍にできないところが多く、シオンはアイラの手を離さざるを得なかった。


 それを見るや否や、強かにも側室狙いの令嬢たちが、すっとアイラとシオンの間に入り、二人の距離も離されてしまった。


「あっ、ちょっと……」


 シオンはアイラを呼び戻そうとしたのだが、さすがに周りにいる女性たちを押し退けることはできなかったのだろう、そのまま飲み込まれてしまった。


 一方でアイラはと言うと、あまりに突然の出来事であったため、あらあらと思っているうちに、輪の外に出されてしまったのだ。


 どうしたものかと思ったが、その中心にいるシオンが申し訳なさそうにこちらを見たため、アイラは心配させまいと首を振った。


 大丈夫です!


 そう身振り手振りでなんとか伝えて、アイラは無駄にシオンに心配をかけさせないようにと、テラスの外からガーデンに出ることにした。外の空気は、パーティードレスでは少し肌寒くはあったが、人の熱気にやられるよりはマシだとアイラは思った。


 王太子妃として出席すると、こんな視線を浴びるのね。


 アイラは伸びをしながら考える。誰もが顔を覚えてもらおうと群がってきたが、そんな事しても意味ないのに。


 外から見ていた時は、王太子や王太子妃はすごい実権を握っているように見え、恐怖すら感じていた。しかし、実際この立場になってみると、さして何もできないことに気づいた。


 独裁者ならまだしも、正常に働いている国で、たとえ王族であろうとも私情で動くわけないのに。シオン様が呆れていたのも分かるわ。アイラはため息を吐いた。


「おや、こんな所にお一人でいらっしゃいますか」

「えっ!」


 誰もいないだろう。そう思いぼんやりとしていたアイラは、突然話しかけられたことで驚いて声を上げてしまった。


「いやいや、失礼いたしました、王太子妃様。驚かせてしまったようで」

「いえ、こちらこそ、ぼんやりしていまして……申し訳ございません」


 アイラが振り向くと、目鼻立ちがはっきりとした背の高い男が立っていた。アイラと同い年くらいだろうか、赤色に近い茶色の髪は、暗闇の中でも燃え盛る炎の様に見え、何故か胸騒ぎに近い感覚がした。


「あー……えっと、はじめまして、ですよね?」


 アイラは頭を回転させて、どこかで会ったことがあるか思い返すがどうにも思い出せない。もし会っていたら申し訳ないと思いながらも、その時はその時で致し方ないと懸けに出たのだ。


「ええ、そうですよ。もちろん私は、存じ上げておりましたが」


 そう言って男は、アイラの目を真っ直ぐに見下ろした。その表情はどこか冷たく思え、アイラの足はすくみそうになったが、こんなところで引き下がるわけにはいかないと、震える足にぐっと力を入れた。


「そうですね……私のことは、ルベルト家の親戚の一人、とでも覚えて頂ければと思います。王太子妃様の前で名乗るほど、地位のある人間ではございません」


 アイラの心臓はぞっと騒ついた。今まではずっと、男の人からの見定められるような視線が怖いと思っていたが、この人からそれとは違う感じがあった。


 トラウマなどではない、殺気にも似た気配を感じてアイラは、すぐさまこの場から逃げ出さなければと本能的に思った。


「……怖がらせてしまいましたか?」

「えっ、いえ、そんな風に見えましたか?ごめんなさい、そんなつもりはなかったのだけど」


 嫌な予感が駆け巡り、どう立ち去るかを考えていたアイラは、つい口を結び固まってしまっていた。そこをまた威嚇するかのように突いてきた男に、アイラは威圧されそうになるが、なんとか持ち直して返事をした。


「それは何よりだ。ところで王太子妃様は、ルベルト家と聞いて、何か思い当たる節はございませんか?」


 追い詰められるような問いかけに、アイラは手足が冷たくなっていくのを感じた。国内最大手の武器メーカーである事も、浄化用のクリスタルを製造していることも知ってはいるが、そんな事が聞きたいのだろうか。さっきから何が言いたいのか、アイラは考えを巡らせるが意図を全く掴めないでいた。


「ええ、もちろん。浄化用のクリスタル製造を受けて頂いたんですよね。急なお願いでしたのに、迅速な対応で感謝しています」


 とりあえずは返事をしなければ、と発した言葉に対してその男は、少し蔑むような目をしてアイラを見つめ返した。


「そうでしたか……いやはや、素晴らしい聖女の力をお持ちだと言われている、王太子妃様のご命令とあれば当然のことですよ」

「……そんな、言い過ぎですわ」


 アイラは嫌味が言いたいのかと思い、顔を顰めたくなったが、なんとか堪えて言った。


 それよりも、アイラは疑問でしかなかった。国内最大の工場を持っているからと言って、ここまであからさまに敵意を剥き出しにできるのは何故か。嫁いできたばかりとは言え、仮にも王族に失礼だと思わないのだろうか。


 女だから舐めているのか。それともただの無礼な人間なのか。驕り高ぶりたいわけでも、プライドがあるわけでもないが、理由の掴めない対応に、アイラは怪しいとしか思えなかった。

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