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14:見据えた先(2)

 煌びやかな会場の中を、アイラとシオンはゆっくりと歩いている。シオンとしては、とりあえず会場の空気に慣れてもらうために、全体を見ておこうと思っている。アイラもそれに大人しく従っているが同時に、止まったら誰かに話しかけられるのではないかと思うと、とてもじゃないが歩きを止めることはできなかった。


 そんな二人の様子は、通りがかるほぼ全ての人のが振り向いて見ていた。見目麗しい二人が、仲睦まじく歩いているのを微笑ましく見ている人、一国の王子と親しくなりたいとタイミングを伺っている人。

 そして、あの遊び人と揶揄されていた王子と結婚した相手はあれかと、興味本位で眺める人など様々だが、とにかく二人は注目の的だった。


「……見られていますね、私たち」

「あ、やっぱり気づいてた?なるべく人のいないところを選んで歩いてたけど、まあ……そうだよね、ごめんね、どうにもできなくて」


 二人は手持ち無沙汰にならないように、シャンパンを受け取った後、とりあえず一息付けそうな場所に並んで立ち、小声で話しはじめた。


 こうやって話している間も、話しかけに行くタイミングは今か、誰から行っていいものかと、様子を伺われているのが分かるが、二人はなるべく隙を見せないように努めていた。


「いえ、そんな、シオン様のせいではないですし……たぶん私の方が、あれは誰だと目立ってしまっているような気がしますし……」

「うーん、まあ、アイラちゃん可愛いからね、みんな見惚れちゃうよね」


 シオンはそう言うが、アイラとしては、それだけではないだろうと思っていた。この会場にいる令嬢たちは、自分こそがシオンと結婚したいと思っていただろう。


 適齢期だがまだ相手は定まっておらず、性格良し顔良し家柄など申し分なしと来たら、シオンの隣は誰もが夢見た場所ではないだろうか。そんな所に、誰かも分からない女がひょっこりと立っていたら、それは嫉妬憎悪も入り混じった視線をこちらに向けるのは、当然のことだろう。


「……アイラちゃん、大丈夫?辛くなったらすぐに教えてね、一緒に帰ろうね」

「ありがとうございます。でも、まだ大丈夫ですので、もうちょっと頑張りますね」


 色々と考え込んでいたアイラに、シオンは心底心配そうに聞いたが、アイラは小さく首を振って否定した。少しずつ会場の空気に慣れてきたのもあるが、同性から向けられる明らかに悪意のある視線に、なんとなく負けたくない気持ちが湧いたのだ。


 口に出してはいないが、誰だあいつは、名乗ってみろと言っているのがアイラには分かった。そして、威圧するためにこちらを見ているのも分かっていた。


 それを分かりながら退散するのは、負けを認めるようで嫌だった。そもそも、負けてなどいない。そんな思いすら湧いてきていた。そんなアイラの思いを知ってか知らずか、シオンはそっかと頷き微笑んだ。


「あ、そうだ。今日は主催者さんの息子さんの誕生お祝いでしたね。そろそろご挨拶に伺いませんか?」

「ああ、そうだね。ずっと立ってるわけにもいかないし……行こうか」


 思いがけないアイラからの提案に、シオンは驚きはしたが、たしかにと納得した。そして左右を見渡して、主催者を探し始めた。


「うーん……あっ、いたいた。ちょうど誰とも話してないね」


 そう言ったシオンの視線の先には、長い黒色の髪をオールバックに整えた背の高い男性と、その横には妻だろうか、ブラウンの髪を一つにまとめた細身の綺麗な女性が並んで立っていた。


 女性の腕には、母親譲りのふんわりとした茶色の髪をした、まだ首の座っていない赤ん坊が抱えられていた。


「良い人だからね、大丈夫だよ」

「はい、ありがとうございます」


 アイラはそう答えると、シオンの腕を組んで前を向いた。その瞬間、周りの空気が一瞬ざわついた気がしたが、知らないふりをして歩き出した。


 歩きながらアイラは、なるほどと思っていた。今まで一人でいたから、数多の探られるような視線に晒されなければいけなかったが、パートナーが横にいるとこうも違うのか。


 おまけにそれが夫であり、王子であり、なおかつ貴族令嬢憧れの男性であるためか、同性からの嫉妬の視線ばかりだ。


 アイラにとって、男性からのじっとりとした目は恐怖でしかなかったが、少々悪意が入り混じっていようが、同性からの目はさして気になるものではなかった。


「……無理しなくていいからね」

「はい、大丈夫ですよ?」


 シオンもそんな視線に気づいているのだろう、アイラが心を痛めていないか、嫌な思いをしていないかと気遣うが、アイラは何食わぬ顔で返事をするだけだった。


 いつになく強気な様子を見て、シオンは心配しながらも、それならいいけどと自分に言い聞かせるように答え、主催者である公爵の元へと近寄って行った。


「これは、王子殿下!わざわざご参加くださりありがとうございます」

「いや、こちらこそ幸せな会に呼んでもらえて嬉しいよ」


 公爵とシオンはにこやかに会話を始めた。たしかに、話した感じも何ら敵対するような様子も見られない。王家と友好関係を築いてもう長いのだろう、とアイラは思った。


「アイラ妃殿下も、息子の誕生のためにお時間頂きありがとうございます」

「とんでもないですわ。お誘い頂けて嬉しいです」


 唐突に公爵からそう言われ、アイラも表面上は何ら違和感のない返事をした。しかしながら頭の中では、名前を呼ばれたがどこで会っただろうかと必死に考えていた。


 そもそも社交界に出たのは初めてで、仕事柄それほど貴族と会ったことはないはずだけれど、もしかして知らない間に会ったのかな。でも顔見知りだから、初めましてとは言われていないのよね。この間、僅かコンマ数秒。


 次の会話をするかしないかくらいで、アイラはピンと来た。そっか、結婚式に来てくれていたのかもしれない。誰の顔も見れなかったほど緊張していたため、全く覚えてはいないがきっとそうだ。アイラはそう納得させて、シオンと一緒に形式ばった会話を続けた。

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