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12:千里の道も一歩から(2)

 軽やかに足を踏み鳴らして駆けていく馬とは違い、アイラの心臓はずっと変な鳴り方をしていた。風を切る心地よさも、高い目線で走っていく爽快感もたしかにあった。


 しかし、後ろから抱きつくかの様に手綱を持ち座っているシオンが、揺れに合わせて不意に近づく度に鼓動が早くなり、離れると落ち着きを取り戻しと言うのを繰り返していた。もう不整脈を起こすのではと、アイラの息は途切れそうだった。


 このままだと、次は馬の上で倒れかねないと思った頃、ようやく目的地の街が見えて来た。


「あ、アイラちゃん、もうすぐ着くよ」


 必然的にそうなってしまうからどうしようもないのだが、耳元で聞こえたその声に、アイラは息が止まりそうになったが、あと少しだと気を持ち直して前を見据えた。


 なんでもいいから早く着いてくれと思って見上げたそこには、ピンクやエメラルドグリーン、淡いベージュなどパステルカラーの可愛らしい家が立ち並ぶ、名画に描かれたかのような街が現れた。


「綺麗なところですね……」


 重厚なレンガ造りの家がひしめき合っている都市部とは違い、淡い色合いでまとめられたその街の美しさに、アイラはただぼんやりと見惚れてしまった。


「うん、芸術の街でね、デザイナーだけじゃなくて、腕のいい画家や音楽家なんかもここに集まってるんだ」


 そんなシオンの説明と共に、全貌が明らかになっていくその街は、たしかに活気に満ち溢れていた。路上ではたくさんの画家が、美術館に置いてあってもおかしくないような絵を売っていたり、広場では劇場で聴いているのかと思ってしまうような音楽が奏でられていたりと、まさに芸術の街だった。


「街中まで馬で歩くと目立つからね、この辺りで降りようか」


 街の入り口に着いた頃、シオンはそう言って馬を止めて軽々と飛び降りた。そんなふうに降りられるだろうかとアイラが思ったその時、シオンはアイラの方を振り返りふわりと笑って言った。


「アイラちゃん、おいで?」


 両手を広げたシオンに、アイラは戸惑って固まる事しかできない。


「ほら、ここに足かけて、ここ掴んで……はい」


 どうしたら良いのかと悩んだアイラを見て、シオンは笑いながら指示をしていく。言われるがままに手足を動かして、少しずつ降りる態勢を取れたと安心していたアイラは、またしても自然にシオンの手を取ってしまった。


 後は飛び降りるだけというところで、いかにも自然に伸ばされた手に、アイラは躊躇することなく掴めてしまった。繋いだ手の体温を実感したあたりで、あっと思ったが、不思議と嫌ではなかった事にアイラが一番驚いた。


 昔の嫌な思い出が蘇ることもなく、体が強張ることもない、これはどちらかと言うと、恥ずかしい、そう思ったあたりで急にくすぐったいような気持ちが湧き上がってきた。


 そうは言えど振り払うこともできないため、アイラは沸騰しそうな頭を、ただ俯かせるしかなかった。


「ありがとうございます……」

「いえいえ、楽しんでくれたみたいで良かったよ」


 そう言うとシオンは、繋ぎ場に馬を停めて、礼を言うかのように馬の背を強めに撫でた。嬉しそうに目を細めた馬とシオンは心が通っているようにも見え、アイラはこの馬は自分よりも賢いかもしれないと、何となく思った。


「うーん、確かこの辺りだと思ったんだけど……」


 シオンはキョロキョロとあたりを見渡しながら、洋服店を探して歩いて行く。アイラもそれに続くが、王子がふらふらと歩いていたら何事かと思われるのでは、と不安に思いシオンに話しかける。


「あの、勝手に動いてしまって大丈夫でしたか?護衛の方とかつけなくても……」

「うん?ああ、平気だよ。この街は治安も良いし、まあ万が一何かあっても俺が守るから、大丈夫だよ」


 そんな事を言われてしまったアイラは、そうですかと納得して目を逸らすしかできなかった。心臓の裏側がくすぐられるような、悲しいわけでも苦しいわけでもないのに、何故か叫び出したいような、不思議な気持ちになったのだが、その理由は分からない。


「あ、あったよアイラちゃん」


 シオンはそう言うと、淡いブルーの綺麗な屋根を乗せた、他の家よりも二回り程大きな建物を指差した。さすが王室御用達といったところだろうか、外からも高そうな服が何着も置かれているのが分かった。


 これ一着いくらくらいなんだろうと、アイラは恐ろしい気持ちにもなったが、シオンは何食わぬ顔で扉を開けた。


「どうぞ、アイラちゃん」


 慣れた手付きで扉を開け、何の不自然さもなくエスコートする様子は、女性を店に連れて行くのに慣れているんだろうなと思い知らされた。


「よく、来られるんですか?」

「まあパーティーがあるからね、定期的に作ってもらってるけど……言われてみれば誰かを連れて来たことはないかな?」


 そんなシオンからの返事に、アイラはどこかほっとしていた。別に、誰を連れて来ていたっていいのに、過去の事は気にならないはずなのに、感じたことのない感情に疑問が浮かぶ。


「あ……そうなんですね!」

「うん、そうだよ?まあとりあえず入ろうか」


 シオンは何だろうかと言う顔をしながらも、アイラを店の中に入れた。アイラもどこか気分がふわっと軽くなったのを感じながら、店の中に入った。

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