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10:覚悟の時(3)

 扉の前で、アイラは十分近く動けずにいる。腕を上げたり下げたりを繰り返して、扉を叩こうか叩くまいかずっと悩んでいた。


 覚悟を決めたと言い、勢いでこの場まで来たは良いが、その勢いのまま部屋に突入することはできずにいた。


「あー、うー、よし!行こう!」


 もうここに来るまでに十分悩んだのだから、うだうだするのは終わりと思い、腕を上げて扉に向けた。


 ガチャリ


 いざ扉を叩こうと思ったその時、ふいに扉が内側に開かれた。思ってはみなかった状況に、アイラはバランスを崩しかけるが、ぽすりと柔らかいものに優しく受け止められた。


「えっ、アイラちゃん?」


 一瞬何が起こったのか分からなかったが、驚いた声が頭上から聞こえてアイラもはっと顔を上げた。


「シオン様!え、あれ、何でここに?」


 驚いて疑問を口にするが、よく考えたらシオンの自室なのだから現れる事もあるだろうと思い直し、アイラは恥ずかしくなった。それと同時に、よく考えたら突然来てしまったと、はっとして再度シオンを見上げた。


「そうだ、急に来てしまってごめんなさい!今お時間大丈夫でしたか?」


 そうアイラが尋ねると、シオンがあれっと言う顔をした。何かおかしな事を言っただろうかとアイラの表情にも疑問が浮かぶ。


「うん?大丈夫だよ。アイラちゃんの侍女から事前に聞いてたし……」

「えっ、あ、そうなんですね……?」


 そう言ったあたりで、ニナが少しだけ用事を済ませて来ると部屋を出て行ったのを思い出した。たぶん色々と察して悟ったニナが、気を利かせて言付けを依頼してくれたのだろうと、アイラの中で全てが繋がった。


 色んな運の悪さで、なんとなくお互いに変な空気が流れてしまったが、アイラは笑って誤魔化した。それを見たシオンは、何らかいつもと様子が違うアイラに目を丸くした。


「……とりあえず、中に入ろうか?」

「はい!失礼します!」


 なぜこうも元気なんだろう、なんとなく活気に満ちている気もする。どことなく、いつもより着飾っている気もする。なんだろうか、このまま家に帰るために恥ずかしくない格好をしたのか、晴々しい気持ちでいるためにそんな雰囲気が出ているのか、シオンは嫌な想像ばかりが膨らむ。


「今日はなんだか、いつもより明るいね」


 そんな気持ちが直球で言葉に出てしまった。さすがに嫌味に聞こえたかな、でもまあ最後だからいいかとシオンは思う。


「本当ですか?ちょっとニナにお願いして張り切ってしまいました」


 しかしアイラは、そんな言葉を気にしていないのか気づいていないのか、恥ずかしそうに微笑みながらそう言うだけだ。


「……そうなの?まあ、座ってよ。ゆっくり話そうか」

「はい!ありがとうございます」


 吹っ切れたように明るいアイラと、重たく苦しい自分の思いの差に、シオンは気持ちが追いつかないでいる。


 何なんだこの状況はと思いながらも、窓際に置かれた奥のソファにアイラを通した後、その対面にシオンも座り言った。


「それで、用事って言うのは、あれだよね?返事を聞かせてもらえるのかな?」

「……はい、そうです」


 どうせ聞かなくても分かってるけどと思いながらシオンは少し冷たく言ったが、いつになくアイラは真っ直ぐ目を見て返事をし、一息吐いて話し出した。


 「その、何と申し上げていいのか、上手くまとまっていないのですが……」


 真剣な表情をしているアイラに、シオンは唇を固く結び次に出てくる言葉を待つ。聞きたくない、今すぐこの場から立ち去りたい、そんな事を思いながら。


「あの、シオン様がご迷惑でなければですが……私、このまま、お別れはしたくありません!」


 意気込んで言われた言葉は、シオンの想定とは真逆のものだったため、理解が追いつかずに思考停止する。


「…………………………え?」

「ごめんなさい……その、やっぱり、嫌ですよね」


 言われている意味が分からず、曖昧な返答をしたシオンの返事を聞いて、アイラは悲しそうに顔を下げた。


「私が悪いのは分かっているんです。ただ……正直な気持ちは、お伝えしたいと思いまして……」


 辿々しくも言葉を繋いでいくアイラに、徐々に思考が働いてきたシオンが焦って聞き直す。


「え?え??どういう事?」


 そんなシオンな対してアイラは、やっぱり駄目かと言わんばかりに少し涙ぐみながらまた話し始めた。


「そうですよね……あ、もし可能であれば、王国の隅っこの方に、住まわせて頂くとかも嫌ですか……?全然、他に正妻の方を作って頂いても構いませんので……」


 泣きそうになりながら、そんな事を伝えてくるアイラに、シオンは本当に意味が分からなくなった。


「え?あ、もしかして、自国に帰れないとか?国同士の関係性を考えてる?それならまあ、悪いのはこっち側になると思うから心配しなくていいよ」


 利害関係をふまえてだろうかとシオンが言う。しかしながら、それに対しても小さく首を振りただ寂しげに俯くアイラがいるだけだ。


 やっぱり、自分の思いは叶わないのだろうか。アイラは泣きそうになるが、ここで泣いてはいけないとぐっと涙を堪えてシオンの方を向いた。

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