表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

7:王子の思い(4)

 真っ白な視界の中、アイラは暖かい体温と優しく、どこか懐かしい香りを感じた。


 幼い頃、暗闇が怖くて眠れないと泣いていた時に、優しく背中を撫でてくれた母親の姿が甦る。そっと支えてくれた暖かい手も、石鹸の様な柔らかい香水の香りも、何故か鮮明に蘇ってきた。


 ――なんだろう、寂しかったのかな。ホームシックなんてないと思ってたけれど、本当は実家が恋しかったのかな。


 アイラはぼんやりとした意識の中でそう思った。割と楽しく過ごしてるけどな、年末には一度実家に帰らせてもらおうかな、いやそんな出戻りみたいなことしない方がいいかな、そんな事を思っていると、ふわりと体が浮いた気がした。


 突然の浮遊感に疑問を感じ、目を開こうかと思ったが、どうにも瞼が重たく、億劫になりそのまま眠ってしまった。


 ――あったかい、ふわふわ、ベッドの上かな。なんだろう、まあ気持ちいいし、このまま眠ってしまおう。


 アイラはそのまま深い眠りに落ちた。懐かしい暖かさに安心したせいか、夢も見ないほどぐっすりと眠ってしまった。


 ぐったりとするアイラを抱きしめて、生きた心地のしなかったシオンを置いて。


 遡ること二時間前。

 シオンが馬車に乗り込もうとすると、頭を押さえて立ちすくんでいるアイラがいた。やはり無理をさせてしまっただろうかと心配になり声をかけるが、なんの反応もない。


 その姿を見て、あれと嫌な予感がしたその時、彼女の細い体がぐらりと傾いた。


「アイラちゃん!!」


 危ないと思い、急いで駆け寄りなんとか体は支えることができたが、どれだけ呼びかけても何の反応もない。だらりと力なく落ちた腕は、血が通ってないのかと思えるほど白く、それがまたシオンの不安を煽った。


「殿下!どうされましたか!」


 倒れ込むアイラと、座り込んで支えているシオンを見て、後から着いて来ていた護衛の騎士が慌てた様子で駆け寄って来た。


「誰か…誰か医者を呼んでくれ!」


 シオンの切羽詰まった呼びかけに騎士達も焦り走り出す。このまま目を覚さないのではと思えるほど固く閉じられた瞼を見つめ、シオンの心臓は凍りそうになった。


 ただ笑っていて欲しかっただけなのに、彼女とだったら穏やかに生きていけると思ったのに、何故こうも自分の手から何もかも滑り落ちてしまうのか。俺が、彼女を不幸にしているのだろうか。


 そんな悪い想像が膨らんできた頃、街の医者だと言う老齢の男が走ってきた。


「王子殿下!失礼します!」


 医者はそう言うと直ぐ様、シオンの腕の中でぐったりと意識を失っているアイラの容態を確認した。


 脈を測り、体温を確認し、呼吸音と心音を聞き、深刻そうに少し考え込んで医者は言った。


「よく、眠られております」

「…………うん?」


 医者の言った言葉が信じられず、シオンは訝し気な表情と声色で聞き返す。だって、こんなにもぐったりとしていて、呼吸だって静かで、顔色も良くはなくて、その辺りではっとした。


「ですので……あの……暫くしたら目を覚されるかと……」

「なるほど」


 ぐったりとして見えるのも、静かな呼吸音も寝ているからか。顔色が良くないと言うより、彼女は元々色が白かった気がする。


「手を煩わせて申し訳ない。城に帰って休んでもらうよ」


 シオンはさっきまで天変地異が起きたかのように慌てていた自分が恥ずかしくなり、アイラを抱きかかえてすっと立ち上がった。


「とんでもございません。念のため、戻られましたら再度診察をされた方が良いかと思います」

「ああ、ありがとう。そうするよ」


 街の医者も気を遣っての事だろう、そうは言ってくれたが、素人目に見ても確かによく眠っているだけな気がする。


 安堵の脱力が同時にきた、何とも言えない面持ちで、シオンはアイラを抱えたまま馬車に乗り込んだ。

面白かったらブックマーク・評価して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ