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6:聖女のお仕事(2)

 広い真四角のテーブルの三面に、三人それぞれが神妙な面持ちで座っている。


 一人は精悍な顔立ちをしている男だ。鍛え抜かれた肉体に、騎士団の制服をきっちりと着込んでいる。騎士らしく勇ましくはあるが、悪く言うと笑顔の少ない無骨さが顔に出ている。


 もう一人はそれと正反対に、キラキラとした金髪を輝かせた碧眼の王子であるシオンだ。口の端は親しみ深く上げられ、人の良さと育ちの良さが滲み出ている。


 その二人に対して、ただひたすら怯えているのがアイラだ。一方は煌びやかな男、もう一方は男を極めた様な男。男の人が一人いるだけでも怖いのに、それが二人も目の前に座っている上に、どちらも別の意味で威圧感がある。嫌な汗がアイラの背中を伝う。


「シオン王子、アイラ姫、この度は誠におめでとうございます」


 騎士の男が堅苦しい面持ちでそう言った。アイラの心臓はそれに意味もなくびくりと震えたが、それを誤魔化すかのようにぎこちなく少しだけ頭を下げて礼を言った。


「あ、ありがとうございます……」


 反対にシオンは、その言葉に対しても変わらずにこやかに人好きする表情をして言った。

 

「ありがとう、キール。君は相変わらず真面目だねえ」

「有難いお言葉です」


 軽く返したシオンにも面白味のない返答をしたキールに、少しため息を吐きながらも、まあいいやとシオンが諦めたかのように言葉を続けた。


「アイラちゃん、この堅物な男は騎士団の第一隊長兼副司令官のキール。面白味はないけど実力は一番だよ」


 くるりとアイラの方を見て、シオンが紹介をした。急に自分の方を振り向いたシオンに、アイラはまたしても驚き体をびくつかせた。


「よろしくお願い致します」

 

 そんな様子も気にしていないのか、気づいていないのか、キールは座りながらではあるが深々と頭を下げた。


 その様子にさすがのアイラも、いつまでも黙っていても気押されていてはいけないと、ぐっと気合を入れ直して言った。


「こちらこそよろしくお願いします……さっそくですが浄化の体制について教えて頂けますか?」


 聖女の仕事、これは聖女の仕事、私にしかできない仕事と必死に自分に言い聞かせて、ポーカーフェイスを装う。そして、こんな男の人二人に囲まれた部屋からは一刻も早く逃げ出したいから、さっさと話を進めてしまおう、そう思って怪しまれない程度に話題を繋げた。


 幸運にもそんな思いに二人が気付くことはなく、それどころか、お互いが顔を見合わせて少し気まずそうな表情をしている。それを見たアイラは疑問に思い首を傾げる。


「えっと……?」


 いつまでも、うーんと何とも歯切れの悪い二人に対して、聞いてはいけない事だっただろうかと少し焦る。


「いやあ、それがね、とても言い出しにくいんだけど、俺達もどうやって浄化してるのか、そもそも浄化できてるのかも知らないんだよね……」

「…………えっ」


 シオンが明後日の方向を見ながら、大層申し訳なさそうに言ったが、その言葉の衝撃にアイラは咄嗟に出た驚愕の声しか出すことができなかった。


「はい……お恥ずかしながら、今までは魔物が出たら討伐、どうにもできなくなったら各国の聖女様に協力をお願いしており……私達もどうなっているのか理解できておらず……」

「……ええっ?!」


 生真面目そうなキールまでもが、どうしようもない発言をしたため、アイラはさっきよりも大きく声を上げてしまった。


「ごめんね……こんな国の聖女をお願いすることになってしまって……」

「……本当に申し訳ございません」


 大の男二人が申し訳なさいっぱいに謝るため、アイラもどうして良いか分からなくなり、暫くはぽかんと口を開けていたが、はっとして首を振り我に帰った。


「えっと……では、浄化の仕組みとか、クリスタルの設置状況とか、そもそも魔物の発生条件とかも、ご存じでは……ないですよね……?」


 恐る恐ると言った様子でアイラは二人に確認した。まさか、こんな基本的なこと知らないはずがない。これを知らずして国が保てるわけない。さすがにそれはない。アイラはそんな思いで二人を交互に見るが、どちらも首を落として難しそうな顔をしているだけだ。


 そんな、まさかと思いアイラは息を呑む。


「なんか、本当にごめんね……」


 シオンはなす術なく、ただひたすらに気まずそうに謝るしかなかった。そんなアイラも、その言葉で止めを刺されたかのように、目を見開いて固まるしかなかった。

 

「アイラ姫、こんな状態で申し訳ないですが、私共にとっては大切な、守るべき国です。どうかお力添え頂けないでしょうか」


 キールが先ほどよりも深く頭を下げて言った。それを見たシオンも、深刻な顔をして言葉を続けた。


「こんな事言う資格なんてないんだけど、俺からもお願いしたい。もちろん、できる限りのサポートははさせてもらうよ。来国して早々こんな状況で申し訳ないけど……」


 二人の言葉にアイラは、自分が何とかしなければと強く思った。聖女として、現状はこの国の姫として、国を救いたい気持ちはある。しかし何より自分のためにも何とかしなければならない。こんな不安定な国で過ごすなんて、生きた心地がしない。


 男の人と関わらなければいけない事以外は、食事も美味しく過ごしやすい素敵な国だ。今更、自国に出戻ることもできない。今後の穏やかな生活のためにも、自分がなんとかしなければ。


「分かりました。私にできることは何でも致します。と言いますか、私が来たからにはこの状況から脱却させます」


 アイラは強い口調と、確固たる覚悟でそう言った。そして、まずは説明からだと意気込んで言葉を続けた。


「ではまずは、浄化の仕組みからお教えしますね」


 それにしても、なぜこんな適当な状況でこの国の人達は生きてこれたのかと疑問に思いながら。


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