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6:聖女のお仕事(1)

 広く長い廊下に、カツカツと言う二人分の足音だけが鳴り響く。シオンの重厚な靴から出る音と、アイラの細く高いヒールから響く音の二つが、微妙に違うテンポで響いている。


 謁見前とは違い、どちらも無言を貫いている。険悪な雰囲気ではないが、なんとなく気まずい空気感が二人を包む。


 なんて切り出そうか、話しかけられるのを待つべきか、会話の主導権を握るために自分から話し出すべきか、答えが見つからず黙り込む。そんな空気に耐えられず、シオンが口を開いた。


「あ、アイラちゃん、」

「申し訳ございませんでした」


 気を遣ってくれたシオンの言葉を跳ね返すかのようにアイラが口を開いた。深々と直角に頭を下げて。


「失礼な真似をしてしまい大変申し訳ございません。お叱りの言葉は……しっかりと受け止めます」


 先ほどまで王妃に啖呵を切っていた姿とは全く違い、顔色は少し青ざめてすら見える。そのギャップに、シオンの方がどうして良いか分からなくなり戸惑ってしまう。


「いやいや、そんな、あれはこちら側も失礼だったと思うから……」


 王妃相手に言い返すのは如何なものかと思うが、たしかに来たばかりのアイラに向けて、親子間の確執のような場面を見せるべきではないだろう。ましてや、嫌味まで付け加えてだ。


「いえ、何であれあのような態度をするべきではございませんでした。本当に、あの……シオン様にまでご迷惑をおかけしてしまって……」


 顔が下げられているため表情全ては見えないが、アイラの長いまつ毛が小さく震えているのが分かった。シオンとしても、自分のために言い返してくれた事も理解しているため、ここまで反省されてしまい罪悪感が生まれている。


「いや、迷惑とかはないよ!本当に全然!どちらかと言うと……嬉しかった、かな?」


 嬉しいと言う表現が正しいのか分からなくなり、シオンも少し途切れながら言葉を紡いだ。


 そんなシオンの言葉に対して、何の返答もせず頭を落としてしまっているアイラに、どうしたら良いのかとシオンはまだ戸惑っている。


「俺のことより、アイラちゃんは大丈夫?これから、なんかその、不安とかない?会いにくいとかあったら、俺もできる事はするけど……」


 とりあえず落ち込んでいるところを慰めたあげたいと、シオンは必死に頭を働かせる。働かせて出た言葉がこれでいいのかとシオンは内心で少し後悔しながらも。


「それは問題ございません。私、こんなんですが聖女ですので。誰も何も言えないはずです」


 アイラは落ち込んでいた顔を上げて、はっきりとそう言った。弱気な子なのか強気な子なのか分からなくなり、シオンはまた混乱する。


 頭の中は疑問でいっぱいではあるが、シオン自身もその言葉に何も反論することはできない。確かにそうなのかもしれないと思い始めた頃、悔しさに満ちた表情で震えていた王妃を思い出して、シオンは小さく笑い出してしまった。


「ふっ、ははっ、アイラちゃん、すごいよ!王妃のあの顔覚えてる?なんだか俺、すごくすっきりしたよ」


 目尻を抑えながら笑うシオンに、アイラは驚いた。勝手なことをと怒られるかと思っていたが、まさか笑われてしまうとは。それなら良かったと思うことはできないが、少しだけ安堵している自分がいた。


「いえ、そんな……」


 どう返答したら良いだろうかと、アイラは困った様子でいる。いまだ笑いが止まらないシオンはそれを見て、ごめんごめんと言い逆に謝っている。


「アイラちゃんはやっぱりすごい子だよ。本当にありがとう、俺と結婚してくれて。この後よかったら……」

「あっ、思い出しました!この後騎士団の方々とお話があるんですよね?」


 唐突にシオンの言葉を遮る。その切り替えにシオンは驚きながらも、そう言えばそうだったと思い出す。


「ああ、そうだね。今の国の現状とか、これからどうしていくのが良いかとか、まずは簡単に話せたらと思ってるけど……」


 どちらかと言うとそれは後回しでいいのだけどと、シオンは思う。聖女の仕事を積極的に進めてくれるのは国としては嬉しいが、まずはこの国と自分に慣れて欲しい気持ちの方が強い。


「そうですよね!でしたら私、もう少し確認したいことがございますので、時間まで部屋に下がらせて頂きますね」


 ではまたと言って、アイラは颯爽と部屋に戻って行った。次は何の違和感もなく立ち去れたと、脳内でガッツポーズをしながら。


 その後ろ姿を見て、またしても呆気に取られたシオンは、聞こえるかどうかくらいの声で、またねと言うしかなかった。


 そんなシオンの様子も知らず、さくさくと歩いて数分、アイラは自室に戻っていた。先ほどまで頭を抱えて首を落としていたソファに座り、ペンを片手に用意された地図を読み込んでいるところだ。


「さすが大きな国ね。農地も豊かで河川も十二分にある。ここまで発展するのも納得ね」


 アイラは感心しながら、まるで他人事の様に独り言を呟く。この国の唯一の王妃候補だと言うのに、それには全く興味がない。


「気になる所は……森の中の魔物の様子と、クリスタルの数量と状況と、全体的な魔物の発生頻度、かな?」


 ガナンシェ王国の国境は、森や崖、河川などを境としているが、そのような自然豊かな場所は魔物が発生しやすい。そう言う場所にクリスタルを置くことで、遠隔でも土地の浄化ができるようになるため、それを丁寧に整備する必要がある。


 この国は軍事力が強いことから、大半の魔物は力技で討伐し、抑えきれなくなったところで各国の聖女を定期的に派遣させると言う、局所的な対策しかしていないなんて噂も聞いている。


 それでも何とかなっているから良いのだが、騎士団の方々の殉職率も高いのと、抑えきれなかった魔物が民家に現れる事故も時々起きている。


 自分が来たからには、誰も怪我をして欲しくない。この国を世界有数の安全な国にしなければと、アイラは意気込み地図を握りしめるのだった。

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