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4:予想外の反応(2)

 差し込む太陽の光を背後に、着々と支度が進められていく。勝手を知るニナ程ではないが、その様はどこにも違和感も不快感もなかった。


「今日のご予定ですが、まずは旦那様と御朝食をお楽しみください。その後は少し休憩された後に、両陛下様とのご挨拶がございます」


 つらつらと説明されていく予定に、アイラは分かったと頷いていく。頷いてはいるが、良いとは思っていない。うまく男の人と話せるとも思っていない。さてどうしようか、アイラは一人思い悩む。


「その後ですが……旦那様同席の上で騎士団の方々と今後のお打ち合わせがございます。私共も内容は存じ上げませんが、魔物と浄化のお話になるかと」


 アイラがどうでも良いことを考えていると、少し深刻な空気感を出して侍女が言った。聖女の力を活用することになるため、どこまで踏み込んでいいのかと気を遣っているのだろう。そんなに大したことじゃないのに、とアイラは心の中で思う。


「ああ、そうね。私もそのお話は聞きたいと思っていたの」


 彼女達に余計な心配はさせまいと、アイラはなんてことないかのようにそう言った。実際、アイラの聖女の力は並大抵ではないくらい強いため、一国の浄化を任されるくらいは本当に大したことないのだが、それは言葉では伝わらないためアイラも深くは言及しなかった。


「地形だけ知りたいから、この国の地図…大きめのものを一つとペンを用意してくれないかしら?朝食の後に少し見させてもらうわ」


 打ち合わせの前に、大枠だけ頭に入れた上で話を聞きたいと思い、アイラはそうお願いした。突然の結婚ではあるが、そんな事はこの国の国民には関係がない話だ。国民の安心と平和のために、聖女の力を最大限使いたい、使わなければといった責任感くらいは持ち合わせていた。


「かしこまりました。すぐにご用意致します」


 そう言ってくれた次女にアイラは礼を言う。そして、世の中がみんな女の人だったらもっと生きやすいのにと、くだらないことを思った。


「ありがとう、宜しくね」


 アイラがそう言うと、地図の用意をするためだろう、侍女の一人であるミカが一度失礼致しますと下がった。


 アイラは軽く頷いた後鏡を見ると、支度はほとんど完成していた。昨日とは違い、長い髪はハーフアップで纏められており、毛先はくるりと綺麗に巻き上げられていた。


 ドレスは薄いグレーのもので、花柄の刺繍がいくつか施されている上品なものだ。それに合うシンプルなアクセサリーとグローブ、細いヒールが用意された。どれも昨日とは違うものだ。どれだけ衣服とアクセサリーが準備されているのだろうかとアイラは、少しだけげんなりした。


「アイラ王女、お支度以上でございます。お気に召さないところはございませんか?」


 すっと一歩下がりそう聞かれたが、もちろんどこも気になるところなんてない。


「いえ、大丈夫よ。とっても素敵ね、ありがとう」


 アイラは、その名の通り聖女の微笑みでふふっと笑いながらそう言った。その顔と言葉に、侍女も嬉しそうな顔をしてありがとうございますと頭を下げた。

 

「では、朝食の準備もできておりますので、ダイニングまでご一緒致します」


 そう言われてアイラは、ああそうだったと思い出す。猫をかぶることに必死で忘れていたが、これから男の人とご飯を食べなければいけないのか。何年前かも忘れるくらい昔、立食パーティーなどで軽食を口にしたことはあるが、しっかりと腰をかけご飯を食べたことは生まれてこのかたない。


 何も喉を通る気がしない。アイラは少しだけ目眩に襲われた気がして額を押さえた。


「いかがされましたか?」


 侍女が心配そうに聞いてくるが、まさか昨日結婚したばかりの自分の主人とご飯が食べたくなさすぎて目眩が起きたなんて言えるはずもない。


「いえ……なんでもないの。行きましょうか」


 必死に笑顔を作りアイラは言ったが、絶対に顔が引き攣っていたと確信が持てるくらい、うまく笑えている自信はなかった。


 場所は変わり、ダイニングには既にカトラリーや前菜が綺麗に並べられていた。椅子にはシオンが腰をかけており、どこか緊張した面持ちでアイラを待っていた。


 今まで数え切れないほどの女の子と食事はもちろん、様々な経験をしてきたが、こんなに落ち着かなかったことはない。


 なぜか浮き足立つような、心がそわそわするような、嬉しいようなそうではないような、不思議な気持ちになる。


 そう、それはまさに恋する乙女のような心持ちなのだが、シオンは自分の気持ちに気づくことなく、ただ言葉に言い表せない感情に整理を付けられないまま座っている。


 実感を伴わないまま経験だけを積み上げた結果ではあるのだが、シオンの生い立ちを考えると致し方なかったのかもしれない。


 ガチャリ。

 当然ではあるのだが、扉の開く無機質な音が部屋に鳴り響く。一人は恐怖心で、もう一人は感じたことのない感情で鼓動が嫌に高まっているのだが、もちろんそんなことは誰も知らない。知る由もない。

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