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4:予想外の反応(1)

 カーテンの隙間から、キラキラと朝日が差し込んできている。窓の外からは小さく鳥の鳴き声が聞こえる。


 豪華絢爛な家具に囲まれた、天蓋付きのベッドの上で、アイラはこれが現実だったかと愕然とする。昨夜は一人で寝られることに安堵してベッドの中に入り、またそのベッドが柔らかくふわふわとして寝心地がすこぶる良かったため、夢見も良かった。


「ああ……ここから出たくない」


 アイラはぽつりと呟く。このベッドの暖かさから抜け出したくないのが一つと、起き上がったら朝食から夕食まで男の人の側で過ごさなければならないと言う思いが一つ。二つの意味が込められての呟きだった。


 とは言えいつまでもぼんやりしているわけにもいかない。たしか今日は、両陛下との謁見の予定があったはず。嫁入り早々に遅刻するのはまずい。引きこもりのアイラだが、それくらいの常識はある。


 でも、ああ嫌だ、でも起きなければ、そんな葛藤をしていると部屋の扉がゆっくりと二回ノックされ、アイラは突然の音に驚きながら返事をした。


「は、はい……」

「アイラ王女、朝のお支度に伺いました」


 品があり優しげだが、どこか畏まったその声は、毎日聞いていたニナのものとは違い、あれと疑問に思う。


 たしかに王妃候補の筆頭として嫁入りしてきて、付く侍女が自国から連れてきた者一人と言うのもおかしい。たぶんガナンシェ王国側がなんらか気を利かせてくれたのだろうが、この何年もニナ以外侍女は付けていなかったため、戸惑いの方が大きい。


 どうしよう断ろうか、断りたいなと思っていると、疑問に思ったのだろう再度声をかけられた。


「王女様?失礼しても宜しいでしょうか?」

「えぅ、あ、はい!どうぞ!」


 当然のように聞かれたため、ついうっかりどうぞと返事をしてしまった。やっぱり今のなしとは言えるはずもなく、またそんな間もなく、侍女達はお辞儀をした後に部屋に入ってきた。


 一人は長い黒髪を一つにまとめた背の高い侍女で、もう一人は小さくウェーブのかかった茶色の髪を肩より少し短く揃えている背の低い侍女だった。


 どちらも顔立ちが美しく、また動作にも違和感がないことから、良いところの貴族令嬢だと思われる。侍女の人選まで完璧かと、もてなされ過ぎてアイラは少し申し訳なくなり始める。


「はじめまして。今日からアイラ王女のお世話をさせて頂きます、ハンナと申します。宜しくお願い致します」

「ミカと申します。宜しくお願い致します」


 はじめに黒髪の侍女が、次に茶髪の侍女が話した。どちらも嫌な印象はなく、突然来た余所者のアイラを悪くも思っていなさそうだ。


「初めまして。分からない事ばかりだから、色々と教えてくれると嬉しいわ」


 よろしくねと、にこやかにアイラも返事をした。男の人でなければ表面上の会話はできるのだ。侍女達二人も、これから仕える主人が嫌なタイプでなかったことにほっとしたような顔をしている。


「もちろんです。なんでもお申し付けください」


 そう言い微笑む二人は、たしかにどこに出しても恥ずかしくないくらい教育も教養も受けているように思えた。彼女達のお話もいつか聞けたらいいなとアイラは思いながら、ありがとうと返す。


「では王女様、朝のお支度をさせて頂きます」


 二人の育ちの良さに感心して油断していたが、その言葉で支度に来たことを思い出す。


「えっ、いいわ、そんなの大丈夫よ。自分でもできるから」


 アイラは手を顔の前で振り、侍女たちの提案を断った。彼女たちが嫌なわけではないが、これ以上余計な所で気を使いたくないのが正直なところだ。


「ですが、旦那様から申し付けられておりますので……」


 他意はなく断ったが、侍女達に申し訳なさそうな顔をされてしまい罪悪感が湧く。たしかに王子から派遣された侍女が、その命に従えないとなると本人達も問われた時に困るだろう。


 侍女達の気持ちを察して、アイラもうっと返答に戸惑う。たしかにいつまでもニナだけに頼っているわけにもいかない、彼女達もたぶん良い人だし、変に悪い噂を流されるのも嫌だし、と色々考えてアイラは分かったわと首を縦に振った。


「そうよね、じゃあ申し訳ないけど、宜しくお願いするわ」


 アイラは、あくまで初めから申し訳ないと思って断ったと言う体で会話を終わらせることにした。それに二人もにこやかに笑い、はいと返事をしてくれたため、何とか収まったと安心する。


「では、まずはバスルームへどうぞ。」


 昨夜入ったんだけどな、まあでも普通の王族なら朝晩入ったりするのかな。とりあえず従っておこうかなと、色々と考えながらも有無を言わず分かったと言い後ろを付いていく。


「朝食から旦那様とご一緒かと思いますので、念入りにお支度致しますね」


 今日は白いプルメリアの花が浮いているお湯に浸かり、髪をとかれながら恐ろしい一言を聞いたアイラはぴたりと固まってしまう。そうだった、忘れてた、いや起きた時まで覚えてたんだけど嫌すぎて本能的に記憶から消してた。


「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。シオン様はとてもお優しい方ですから」


 そう言うことじゃないと訴えたかったが、もちろんそんな事ができるはずもなく、アイラはただ空笑いをするしかなかった。

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