鳥群からはじまる 04
ラトスの駆けていく先には、柱があった。石畳の道の両脇に延々と並んでいる、白い柱のひとつである。ラトスはその柱を避けることなく、真っ直ぐと駆けた。
「ラトスさん! 前! ぶつかってしまいます!」
メリーの叫び声が飛び込んでくる。視線を向けることはしなかったが、目端に銀剣の輝きが映った。必死に戦いながらも、こちらを案じているらしい。まだ多少の余裕があるようだなと、ラトスは駆けながらわずかに安堵した。
前方に迫る、柱。
後方からは、夢魔の殺気が押し寄せてくる。
ラトスは柱の手前で振り返り、白剣の柄頭を足元へ向けた。そうして眼前に迫っている夢魔を見据え、距離を測り、寸でのところまで引き寄せた。
「ぶつかるのは、こいつらだ」
言って、ラトスは白剣の柄を一気に伸ばした。柄頭が石畳に勢いよく当たり、反動でラトスの身体が浮きあがる。ラトスはその勢いを落とさず、柄が伸びる白剣を掴みながら上方へ飛び上がった。直後に夢魔の群れがラトスの足元を過ぎ、次々に柱へ激突していく。
飛び上がっていくラトスの身体の下で、黒い塵が溢れた。激突の衝撃で、幾匹か散ったのだろう。見下ろすと、数十の夢魔が黒い塵を搔き乱しながら悶えていた。
柱の高さまで白剣を伸ばしたラトスは、とんと柱の上へ飛び乗った。
柱の直下で身悶えている夢魔の群れとは別の、勢いあるふたつの群れが見える。そのうちのひとつはセウラザとメリーを襲っていた。小さく砕けた紅い刃を回収しきれていないセウラザを、メリーが補助している。忠告通り、長期戦に備えて魔法の力を温存しつつ戦っていた。
もうひとつの群れは、薄暗闇に混ざって飛び、ラトス目掛けて突進してきていた。
ラトスはすぐさま白剣を伸ばして振り、突進の勢いを殺していく。同時にゆっくりと後退し、見計らって柱から飛び降りた。落ちながら黒剣を構え、真下にいる夢魔に剣先を合わせる。幾匹かが激突の衝撃から回復していて、落ちてくるラトスに備えはじめているようであった。
「もう少しくたばっていろ」
羽ばたく動きをしている幾匹かの夢魔を選び、ラトスは黒剣で斬りつける。翼か頭を切り裂き、確実に祓っていった。黒い石畳へ着地すると、夢魔から溢れでた黒い塵が波打ち、散っていく。ラトスはわずかに漂い残っている塵も腕を振って払うと、周囲をぐるりと見回した。
未だに動きが鈍い夢魔が、身体を震わせながらラトスを見ている。攻撃を仕掛けようという気概はあるらしく、翼と身体を何度もよじらせていた。
「ラトス。その辺りのを祓っておいてくれ」
セウラザの声が通ってきた。見ると、紅剣の刃が元通りになっていて、すぐにも次の攻撃を放つことが出来そうであった。
「言われずともそうする」
「頭上から襲いかかってきている夢魔も忘れるな」
「なんだと?」
返事をすると同時に、ラトスの頭上から風切り音が複数聞こえた。見上げる暇もないと、ラトスは前方へ飛び退く。直後にラトスの後方から、狂ったような烏の鳴き声と羽ばたく音がひびいた。
ラトスは態勢を整え直し、剣を構える。振り向きざまに白剣の剣身を伸ばし、上方から襲いかかってきたらしい夢魔の群れを薙ぎ払った。両断された黒い影が、十数。弾けるようにして黒い塵へ変じていく。
つづけてラトスは、周辺で悶えている夢魔を悉く撃ち、祓っていった。そのうちの幾匹かを、駆け寄ってきたメリーが銀剣で斬っていく。どうやらセウラザとメリーに襲いかかっていた夢魔の群れも片付いたらしい。
「まだ力尽きずに済んでいたようだな」
「わ、私だって少しは戦えるようになったんです」
必死の形相で銀剣を振るうメリーが、さらに一匹、夢魔を祓う。忠告通りに力を温存しているようで、魔法の力を銀剣に込めてはいなかった。近くにいる最後の一匹を仕留めると、ようやく表情を緩ませて苦笑いを向けてくる。




