鳥群からはじまる 03
「すご……」
「はじめたばかりだ。こんなもの、焼け石に水だぞ」
ラトスは白剣の剣身を元に戻し、夢魔の群れを指差す。蹴散らされた形跡がすぐに消え、数百の夢魔がスータロスの前を飛びはじめていた。ラトスは小さく息をつき、剣を構え直す。するとラトスの背後から幾百もの刃がすれ合う音がひびきだした。
ふり返ると、セウラザの紅い剣身が粉々に砕けていた。
幾百幾千もの小さな刃に変じ、宙を舞っている。セウラザが力を込めて腕を振ると、宙を舞う細かな刃すべてに意思が宿った。すべての刃がひとところに集まり、すべての刃先が夢魔の群れに向く。
「本当にすごいのは、ああいう反則的なものを言うんだ」
セウラザを見て、ラトスはため息をこぼした。無言でうなずくメリー。彼女の視線が、セウラザの刃から夢魔へ向いていく。
直後、意思を宿した無数の紅い刃が、一斉に放たれた。夢魔の群れを覆うほどに広がりつつも、回避する隙間もないほど高密度に飛んでいく。小さな夢魔はなすすべなく、次々と貫かれ、霧散していった。
「ずいぶんと減らしてくれたな」
「このまま、セウラザさんが倒してくれそうですね」
「……どうだろうな。そう上手くはいかなそうだが」
白剣を構え直したラトスは、残っている夢魔の群れとスータロスをにらむ。
数え尽くせなかった夢魔が、ずいぶんと減っていた。しかしセウラザの攻撃に驚いた様子はなく、いずれの夢魔も静かに距離を詰めはじめていた。その後ろから迫るスータロスも、不気味なほど静かに飛んでいる。
「ここからが本番というわけだ」
ラトスは二振りの剣を構え直し、上体を下げた。彼の後ろに、セウラザ。握る柄と鍔のみを残し、無数の刃がひとつもない。
「セウラザ。さっきのはもう一回できるのか」
「刃を回収するのに時間がかかる。それまではラトス、君がなんとかするだろう」
「言ってくれる」
目を細め、ラトスは全身に力を込めた。
白剣と黒剣が、チリリと鳴りひびく。
迫ってくる数百の夢魔に、ラトスはゆっくりと剣先を向けた。夢魔の赤黒い目ひとつひとつをにらみつけていく。奥に控えるスータロスの目を見ると、かすかに目を細め、口を開けていた。まるで笑っているようだと、ラトスは奥歯を強く噛み締めた。
白い剣先をスータロスに向ける。
剣身の震えを握る手で締めつぶし、ラトスは大きく息を吸いこんだ。息を止め、白剣を脇下に構える。それを合図にしたのか、スータロスの前を飛んでいた夢魔が動きだした。一直線に、ラトスへ襲いかかってくる。
ラトスは脇下で白剣を伸ばしながら、一息に斬り上げた。斬り上がりながら伸びつづける剣身が、迫る夢魔を十数、断ち切る。勢いそのままにスータロスへ剣を伸ばすと、小さな夢魔が次々と盾になり、切り裂かれていった。
「どうやら親玉が大事で仕方ないようだな」
勢いを失った白剣を元に戻しつつ、ラトスは横へ駆け出す。釣られるようにして、残っていた小さな夢魔のすべてがラトスを追いはじめた。反撃の好機と見て取ったのだろう。狂ったように鳴きながら迫ってくる。




