柱からはじまる 03
視界が、溶ける。
わずかに残った意識が、白と黒の空間を流れはじめた。
足元だと思われるほうに意識を向けると、夜のような黒い空間があった。
頭だと思われるほうに意識を向けると、昼のような白い空間があった。
黒い空間には、長い石橋のようなものが延びていた。その石橋に沿って、ラトスの意識は飛んでいるようだった。
先ほどまでいた石室は、もうどこにも見当たらない。
ただただ、無限に広がる白と黒。時間の流れを感じることもない。ラトスの意識は、永久と思えるほど、石橋の上を流れつづけた。
しばらくすると、また目の前が真っ白になった。
黒い空間も、長く延びた石橋も見えなくなる。
どこかにたどり着いたのか。
しとりと、身体の感覚がよみがえりはじめる。同時に、脱力感と緊張感が全身を押しつぶした。それは一瞬のことだったが、意識を混濁させるには十分だった。ラトスは頭をかかえたい気持ちになって腕を動かす。すると手のひらの中のなにかが、びくりと跳ねた。
「ラトスさん! 痛い! 痛いです!」
混濁した意識を砕くように、メリーの声が通る。
「あ、ああ。そういえば手をにぎったままだったな」
「……っつ、くう……、そういえばって、もう!」
ラトスから抜いた手をなでつつ、メリーの頬がふくらむ。
「……ここは? さっきの場所じゃ、ないですね」
「そのようだ。洞窟……らしいな」
メリーと共に、ラトスは辺りを見回す。
自然にできた洞窟の中に、二人は立っていた。
石室よりも冷やりとした空気が満ちている。見上げると、無数のつらら石が垂れ下がっていた。時々しずくが落ち、涼やかな水の音をひびかせる。
二人の後ろには、白い柱が建っていた。
石室で見たものとまったく同じ形、同じ高さの柱。ありがたいことに柱からぼやりとした光がにじみ出ていて、洞窟内をいくらか照らしていた。
「なんだか、もう。おどろかなくなってきましたね」
「……まったくだ」
というより心が麻痺してきている。
現実的な思考をあきらめなければ、まともでいられない気がした。
垂れ下がっているつらら石から、水滴。
ぱちんと、はじけ鳴る。
頭の奥に残っていたわずかな混濁が、はじけ消えた。




