柱からはじまる 01
指先と柱の間に、妙な振動を感じる。
驚いて手を離すと、指先に感じた振動がぴたりと止んだ。風のような声も消えている。
「ど、どうしました?」
柱からいきおいよく手を離したラトスに驚き、メリーがのぞきこんでくる。
「どうって、今の、聞こえただろう?」
「今の? どんなです?」
「どんなって……風みたいな、あの変な声だ」
「え? 聞こえませんでしたけど……」
メリーが首をかしげる。無意識にか、彼女もまた白い柱に手をかけていた。しかしなにかを感じ取った様子はない。不思議そうな表情のまま、ラトスを見つめているだけであった。
気のせいだったのだろうか。
奇妙な体験がつづいたために、気が高ぶっているだけなのか。
ラトスは小さく頭を横にふり、もう一度柱へ手を伸ばした。
指先が、柱に付く。
先ほどより小さい、風の声が聞こえた。同時に、指先から振動が走りだした。
やはり気のせいではない。ラトスは指先を離すかどうか迷った。しかし隣にいるメリーを見て意を決し、柱へ強く押し付けた。
風の声が、徐々に大きくなっていく。というより、柱に付けた指先から声が流れこんでくるようであった。震動と共に流れこんでくるので、声が身体を這いまわっているように感じる。不快感に満ち、手で掃いのけようとした次の瞬間、がくりと頭が揺れた。
頭の中で、音が走り回っている。
音が何度か跳ねると、目玉の裏側に見たこともないような風景が流れた。
それは、広大な草原であった。
光と風に満ち、見わたすかぎりの緑を波のようにうねらせている。
見覚えのない風景ではあったが、ラトスの心はなぜか波立たなかった。頭の中で跳ねる風の音が、知りえない知識をラトスの頭の中に書きこんでいくからである。そのうちのひとつに、この石室から草原までの道のりも含まれていた。あまりに強引な風の音の働きにラトスは頭をかかえたくなったが、不思議と不快感はなかった。
そしてまた少し、頭と身体が揺れた。
目玉の裏側に映る景色が、ぶつりと切れる。
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