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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第二章「奏音の過去と愛の物語」
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「そして”ひねくれ”が始まる」

 帰路の車中は恐らく、終始無言だったのだと思う。記憶が不明瞭だ。頭も整理できずにいた。

 天音が、人間と植物との中間生命体になりつつある、そんな非科学的で到底信じ難い話に酷く動揺しているのだ。彼女がどう在ろうと、彼女の身に看過できない異常が発生しつつある事実を、奏音は受け止め切れないでいた。

 少なくとも、今晩だけで、天音の現状を直視しただけで、彼女の中に確固として存在していた常識がいとも容易く瓦解した。そして常識の瓦解による単純な心労に限らず、天音の異変に一切気づけなかった自分が赦せない、自身への憎悪が順々に悲しみだの苦しみなどの多様の負の感情を浸蝕して拡大していっていた。


 駅前に到着して、霧谷や咲来が今後の方針を話していても奏音は空返事だったし、上の空だった。心ここに在らず、きっと咲来らは私に対し思う節があったのだろうが、解散する最後まで言葉にすることはなく、その場を去った。


 ぽつんと残されたのは、彼女と愛華だけ。

 その状態になって、漸く意識がはっきりとしてきた。


「倉島さん……私は帰るね」

「!」


  すると彼女はいつも通り奏音のもとにやってくる。けれど、


「ごめんなさい、今日は……少し一人になりたいの。ダメかな」

「……わかった」

「ありがとうね」


 彼女は、いつも通り張り付いて、追従してくる様子はなかった。


「奏音、冷静に」


 彼女の発した言葉は実に柔らかいものだった。

 だが、笑顔もなく、怒りも悲しみもない真っ新な顔立ちで奏音を、いや、彼女の最奥に潜む心に直接干渉するかのように――そう告げた。


「え……?」

「ばいばい」


 彼女がそれ以上何かを言うことはなかった。が、じっと見据える愛華の目が捉えているのは、自分ではないことがわかった。彼女のもっと奥に見える――彼女がこれから訪れる行く末を、じっと見透かしているようだった。その時の彼女の心中を、僅かにでも汲んで、一言でも彼女に助言を求めていたのなら、結末に変化が生じていたかもしれない。




●奏音

 その後は、まるで身が入らなかったが、学生の本分を全うした。

 だが、頭の中はただ一人の存在が支配していた。


 斎藤浩二。


 早急に、事情を知る可能性が高い――もう躊躇している余裕はない。今晩中にでも発見して、真実を確かめる。そのためには、私一人では駄目だ、だから私なんかよりもずっと有能な咲来蓮人に、助力を要請する。

 そのために授業開始前に、私は彼にメールを送った。

 そして授業の終了と同時くらいに、彼から斎藤浩二の居場所を知らせる連絡が届いた。


 彼は、都市部のゲームセンターにて複数人の友人を引き連れているとのことだ。

 私がそのゲームセンターに足を運ぶと、実際に彼はいた。大勢で一つの筐体を囲み、陽気に青春を謳歌していた。


(天音が酷い目にあっているのに、斎藤君は、ずっと……)


 はっとなって、自身に芽生えつつあった行き過ぎた感情にブレーキをかけた。


(真偽が不確かな今、断定してはいけない――今日で決着をつけるんだ)




 咲来の情報筋は実に正しく、当該の施設には斎藤ら一団が発見された。

 そして、物陰で身を潜め十数分、斎藤浩二を始めとする集団は散り、斎藤とほんの数人だけが夜の街に繰り出し始めた。それを目視によって確認すると、私も遅れて彼らの後に続いた。


(繁華街を移動している場合に限っては、気づかれない)


 人を隠すには人、とはよく言ったものだ。数メートル離れれば、その時点で私を特定することは彼らにはできずにいた。対し、注視している私は彼を見逃すことなかった。

 その時、携帯電話が震える。このバイブはメールだ。そっと取り出して、送り主を確認する。


(倉島さん、か)


 彼女からメールが送信されてくることは今までになかったから、正直驚いた。だけど、今は斎藤の追跡に集中したかったから、彼女からのメールを確認しなかった。


(ごめんね、事が終わったら、遊んであげるから)


 そうし、一瞬だけ外した視線を彼に戻す。

 すると、斎藤は残った数人の友人とも解散し、ただ一人で路地裏に入った。

 取り巻きがいた段階では、易々と距離を詰められなくて難儀なものだったが、今となっては彼にだけ意識を傾けていればいい。もっと距離を詰め、少し遅れる形で路地裏に入った。

 彼が入った場所は、本当に文字通りの路地裏そのもので、通過した彼と私以外の人通りはそうないといえる。が、不思議なことに少し進んだ先に一人の男性が待ち構えていた。が、彼は黒色の外套を着こみ、深い帽子にサングラスといい、外見的な特徴を完全に隠しきっている。


 斎藤よりかは年上にも見えるが、結局のところ誰なのかはわからなかった。

 耳を澄ますも、会話の内容を聞き取ることはできない。

 だからせめて、行動だけをその目に焼き付けようと、同時に携帯を起動して、録音機能を起動した。


(何かを……渡している?)


 斎藤が渡しているのは、袋にこれでもかと充足された青色に発光する粉だった。


(そんな……あれは蒼薬《ブルー・プリズム》)


 見間違えるものか、咲来の尽力もあって実物を深く観察している。

 あれは紛れもなく、蒼薬《ブルー・プリズム》だ。


(まさか彼が……)


 嫌な予感が次々と関連づいて、結びつく。呼吸が荒くなるのを感じて、口元を自身の手で押さえる。


(ともかく……彼を問い詰めないと)


 丁度、取引していたと思しき男が斎藤にA4の封筒を手渡して闇夜の街に去っていった。

 今が好機だ、私は踏み込んだ。


「斎藤君」

「! 誰だ!」


 背後からの声に、異様に大袈裟に反応し、前後左右を見回していた。


「私だよ」

「な、なんだよ……委員長かよ」 


 見知った存在だと気づき、彼になかで安堵が訪れたのか、息を漏らした。


「こんな時間に何してんだよ、優等生がこんな物陰に来るもんじゃないぞ?」

「それは、こっちの台詞だよ」

「何を……」


 私は彼に対し、たった今撮影した映像を叩きつけた。


「これ、蒼薬《ブルー・プリズム》だよね?」

「んだよ……委員長も知っているのか?」

「うん」


 彼の喜色はより一層に強くなる。


「購入希望か? 委員長が興味津々ってのは驚きだけど、それでも大事な顧客だ、大切な委員長でもあるし、安く――」

「違うよ」


 そう告げた途端、彼の表情は硬直する。


「じゃあ何しに来た」

「少し、聞きたいことがあるの。天音について」

「天音……嗚呼、月宮天音か、あの口煩い」


 多少の悪口は目を瞑る。本筋はそこではないのだから。


「彼女に蒼薬《ブルー・プリズム》を売った?」


 そう質問すると、彼は瞳を閉じて、蟀谷を数度指で叩いて記憶を辿っているようだった。


「俺は学生には売らないよ、金ないしな。どうせ見てたんだからわかるんだろうが、資産のある大人だけが俺の顧客だよ」


 ふむ、ならば辻褄が合わない。


「じゃあ質問を変える。この薬と同じバンド名のボーカルの男、あいつは売人?」

「蒼薬《ブルー・プリズム》と同名……ああ、あいつか、あいつに売った記憶はあるがそれ以降は知らない」


 最悪な展開だ。

 彼が蒼薬《ブルー・プリズム》に関与しているだけでなく、天音の一件にも深く与しているだなんて――。


「手が震えてるぞ」

「!」


 いつの間にか拳を握りしめ、爪が肉に食い込む勢いで力を入れていたようだ。


「逆に聞くわ、委員長、あんた何しに来たんだ? 天音の件は確かに気の毒だと思うが……まさか仇討でもするつもりか?」

「……そんなことはしないよ」

「ならまじで何しに来たんだよ」

「君を止めに来たんだ」


 すると、彼は私の返答が予想の外のものだったからか、口を少し開いて放心している姿を見せた。そして少し、不敵な笑みを、声にあげはじめた。


「何がおかしいの!?」

「いいや、おかしいだろ……いや、おかしくないのか? 委員長だから、当然の行動なのか――うれしいよ、俺なんかにでも気にかけてくれてよ」


「大事なクラスメイトだから」

「そうだよな、俺も委員長のクラスだもんな――だから委員長こそ委員長だ」

「……え?」


 そのとき、後頭部に熱が灯った。遅れて、鈍痛が――。


「委員長が馬鹿正直に、一人で来てくれて助かったよ」


 世界が暗転する最中、私はしかとその網膜に焼き付けた。

 私の背後に迫る、もう一人の学生、そして彼の手に握られている鉄の棒が――私に振り下ろされていることを。

以降しばらくショッキングな展開が続きます。アニスちゃんが死んだときと同じくらいですが、閲覧注意でお願いします。

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