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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第二章「奏音の過去と愛の物語」
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「オルスタライブに行こう」

不測の事態は起こりましたが、今日も投稿はあります!

 咲来との約束を数日が流れる。

 約束を果たし、実際に動き出そうとしたが……結局のところ状況にさしたる変化はなく、淡々と多忙な受験期が過ぎていくだけだ。患者はより一層増える一方だが、何もできないというのは実にもどかしい。奏音も、咲来も同様の日々を送るばかりだった。



「…………?」


 腰にくっつく愛華は首を傾げ、奏音を見上げる。そこも変わることはなかった。

 今や彼女を伴って生活することが通常になりつつある。今日は生憎の雨模様ゆえに教室での昼食となる。愛華と奏音、磁石のように密着する光景はいつの間にか日常の風景として溶け込んでしまって、最早誰も気に留めていない。奏音にとっては有難い話である。

 そして、


「ごめんね、考え事してたんだ」 


 そう言って彼女の頭を優しく撫でる。すると、喉を鳴らす猫のように更にくっついてくる。彼女の瑞々しい柔肌や彼女の纏う質のいいセーターが奏音の地肌に程よい快感をもたらす。


「……悩み事?」

「ううん、そんなことないよ、はいどうぞ」


 卵焼きを彼女の口元に運ぶと、ぱくりと一口で放り込む。いつの間にか奏音が食べさせることになっていた。だけど当の本人が文句を言うどころか、満足しているのだから最早誰も首をつっこむことはない。


「おいしい?」


 すると、こくりと頷く。が、少し怪訝そうな表情を見せる。

 そのため彼女は撫で方を少し深めにしてみる。だけど愛華はその表情を緩めることはない。


「お隣、お休み?」


 月島天音のことだ。


「……そうだね」


 天音は、あの電話の翌日から欠席をしている。元気が取柄で、三年間とも皆勤賞だった彼女には実に珍しい話だ。先日メールしたとき曰く、インフルエンザだそうだ。


「この時期のインフルエンザは長引くから、気を付けないとね」


 季節の変わり目で、ただでさえ今年は例年を優に上回る寒気が到来していると聞く。確かに、十月にしては厭に寒い。どれだけ衣服を纏おうとも貫通する風はまるで遠慮がない。このクラスの一部もそうだが、学校全体でインフルエンザが猛威を振るうようになっている。ただでさえ忙しいというのに、不測の事態が日常的に乱発するせいで休まる日がない。

 あの天音でさえも撃沈する程の大流行なのだ、明日は我が身だ、奏音は必要以上に気を引き締めていて、明らかに疲弊していた。

 が、これもまた愛華の求める答えではないようで、首をふるふると左右に動かす。


「お隣、病気じゃないよ」

「え?」


 聞き間違えだろうか? 奏音は聞き返す。


「病気じゃないって……どういうこと?」


 それが事実ならば話が一切噛み合わない。

 彼女の欠席日数は早くも一週間に迫ろうとしつつある。それなのに病気でないというのなら、休む道理がそこにはない。そもそも彼女は確かに時折宿題を忘れたり、授業中に居眠りしたりといったことはあるが、授業を意味もなくサボるような人間ではない。

 だというのに、虚言を並べてまで休み続けるのは何故か。


「昨日見た」

「……それは、本当?」


 奏音は勢い余って愛華の顔を深く覗き込んでしまう。

 それに動揺する素振りを彼女は見せず、鷹揚に首を縦に振った。


「昨日、晩御飯の時間」


 彼女は昨日も相も変わらず塾での放課後授業だった。

 で、流石に塾内部へと追従することはしない愛華は奏音から離れ、その場を後にする。

 だが、律義にも授業終わりまで塾の前で待機しているのだ。初日は驚いたことに授業二つ分、つまり三時間と休憩時間諸々の十分ばかしの時間を彼女は塾の入り口にて棒立ちしていたのだった。

 一応警備員もいるし、というか怪しくはないとはいえ姿は奏音と変わらない学生だ。通常は塾生の一人と認識するだろうし、授業にもいかずにさぼっていると捉えかねないだろう。が、どうしてか彼女は摘まみだされることも、授業に行くように言い聞かされることもなかったという。


 彼女は何も気にしないという表情をしているが、余りにも不憫だし、奏音としても罪悪感が半端ではない。

 それに先にも述べた通り、今年の秋は熾烈な寒冷を帯びている。いくら彼女が雪んこが如く防寒具を着込んだとて、貫く冷気は防ぎきれないだろう。奏音個人は雪だの氷だのは大好きだけど、それで病気になってしまっては元も子もない。

 だから……それを防ぐために、彼女のためには決してならなさそうだが、夕飯代を彼女にあげて、温かい場所で時間を潰すように指示した。お金を手渡した最初こそは私の主張が理解できていないのか、首を傾げていたが、根気よく粘ったら彼女も答えてくれた、という出来事があった。(といっても、窓から外を見た際にはものの十五分程度で戻ってきてしまっていたが)


「繁華街、男性と一緒」

「ううん……?」


 彼氏だろうか、それが今までの天音の行動と照らし合わせても合致する。


 考えられる節としては、インフルエンザで自宅待機を命じられたということだ。病院側は完治させるためにゆとりをもった待機期間を設ける。が、実際はその期間の終盤は既に完治が済んでおり、暇を持て余すことが儘ある。だからといって外に繰り出してはならないことだ。

 恐らく彼氏側が誘ったんだろう。彼氏として、彼女の平静を第一に考えるべきだが、どういうわけか天音に男性運はない。付き合った人数で言えば、結構な数がいるが、大抵が年上で定職につかない人であったり、他校のやや気質の荒い人だったり、妙に女勝りした男子であったりと、こうもっと他にいないのか、と言いたくなるような運の悪さである。


(少し前に聞いた関係がまだ続いているとすると、今の彼氏はバンドマンだったっけ……)


 天音はああ見えて割と惚気るタイプだから、定期的に写真を奏音に(無理やり)見せびらかす。見るたびに髪色が微妙に変化しているが、同一人物だそうだ。可哀そうな話で、天音がいつも捨てられてしまうものだから半年と関係が続いたことがないのだが、今回はどうなのだろうかと丁度思っていたところだった。


「彼、知っている」

「そうなの?」

「うん」

「有名なバンドなのかな」


 アニメソングなどなら奏音も幾分か明るいが、天音が好きなのはヴィジュアル系という分野だ、少なくとも私の守備範囲外である。

 すると、予想は全くの外れだったようで愛華は首を左右に振る。


「箸にも棒にもかからない」

「し、辛辣だね……」


 でも思い起こすと、確かに天音からバンド名を聞いた後、携帯電話で調べてみたけれど数人のファンが掲示板上で意見を共有しあっているだけで目ぼしい情報は手に入れることができなかった。あと、数か月間更新されていない、あるのかないのかわからない公式アカウントくらいであった。

 だけど奏音は名前が思い出せないでいた。


「でも大々的なら名前を忘れるなんてしないよね……」

「それも知っている」

「そうなんだ?」


 ふむ、彼女は意外な方面に造詣が深いようだ。もしや私と同じサブカルチャーに多少なりと興味あるのかもしれない。


「少し調べてみたいから、教えてもらっていいかな」


 まぁ、調べても左程も情報が集まらないのは火を見るよりも明らかな話であるが。


「ブルー・プリズム」

「……!」


 手を滑らし、携帯電話を地面に落としてしまう。が、恐ろしい反射速度で飛び出した愛華の手によって受け止められ、液晶画面が損傷する結果にはならなかった。


「……?」愛華が不思議そうに私の変化を伺う。


 いけない、彼女は蒼薬ブルー・プリズムについて何も知らない。ここで露骨な態度を見せてしまうと、勘付かれるかもしれない、奏音は危うくなって誤魔化した。


「……調べてみるね」


 表情に出すな、偶然に過ぎない――その方面に関しては門外漢なだけだろう、普遍的な命名法など私には知らないのだから、と様々な言い訳をしつつ紛らわせていた。が、意識とは裏腹に色々と情報が想起させられてしまう。

 すると、自然に彼女の視線は泳いでしまい、吸い寄せられるように斎藤浩二に向かっていってしまう。幸運にも今彼は奏音に背を向け、級友と差し当たって普通な会話を繰り広げているから私の数舜の間の視線に気づいてはいない。


「???」


 愛華が私の表情を深く観察している。


「あ、あっと、ごめんね。よそ見しちゃってたよ」


 それよりも天音だ、奏音は気持ちを余計なことから切り替える。偶然の一致ならそれでいい、そもそも当該の薬物とて難解な言葉を羅列しているわけではない。結晶状の青い粉を、本当にただ直訳したかのような命名であるため、一致だってしてもいいはずだと、小さくつぶやく。

 

(何れにせよ、天音に悟られずに彼らに接触……とまではいかなくても、彼らの人となりを知れる場面があればいいのだけど……何だろう?)


 奏音は愛華そっちのけで考え始める。


(日常生活を送っている彼らを見つけるのは困難を極めるし、ていうか失礼だし……彼らはバンド、知名度の有無に限らず、何処かしこで活動はしているはずね)


 知名度がまだまだ発展途上というのなら、積極的にライブを行って名を売る筈だ。公式アカウントの更新が渋いのは、単に情報伝達の媒体を変更しただけかも。


(近所のライブハウスに足を運んでみようかしら、今日は塾も休みだ……し?)

「公式アカウント、稼働中」


 愛華が言う通り、一か月程前からまた頻繁に彼らの日常を発信する書き込みや、イベント出演情報などを発信する書き込みが日に日に増えていっているではないか。


「あ、今日ライブやるんだ……」


 値段は二千円とドリンク代五百円、手が届かないわけではない。父母をどうにか誤魔化して、足を運んでみるか。

 私の独り言についていけていないのか、愛華は私をじっと見つめる仕事に戻っていた。


「……倉島さんも、行かない?」



 私一人で現場に飛び込むのは普通に怖かった、今回の件とか関係なしに。


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