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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第二章「奏音の過去と愛の物語」
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「三者三葉、少女の色恋騒動」

●で視点変更です!


多用はしませんが、時折使用していこうと思ってます。

基本的に話の切り替えで、第三者に戻ります。

 その後、持田亜美と同じ状況に置かれた被害学生のお見舞いを続けた。


 持田は一切口を利くことはなかったが、病状の具合によってはしっかりと会話が可能な学生もいた。が、総じて幼児退行したかのように、前日にあった“いいこと”や“悪いこと”を嬉々として話すのみで、誰もが失踪期間中に何があったかの話題になると、精神が不安定になっている傾向があった。


(薬物で頭が破壊されて……退行……が本当にあるなんて……)


 道徳や保健体育の授業を始め、薬物氾濫の危険性を知る機会は何度ともあった。その都度、知ったつもりになっていたが――彼女の想定するよりも実態は深刻なものだった。正直、精神的に参っていたわけだ。部外者である奏音が心を痛めるのは、随分と傲慢で、独り善がりなのかもしれない。けれど、無表情でいることは到底できなかった。

 奏音は外の空気を吸って、切り替えようとしていた。

 ある程度回り終え、霧谷は諸々の手続きで、意図的かと疑う程に様々な部署を盥回しにされていた。手伝えることもなく、私は病院を出てすぐにある階段に腰かけている。その時、携帯電話が鳴る。


●奏音

「もしもし、天音?」

『そっだよー、で、どうなの? デートの方は』

「ふざけないでよ」

『…………』


 返事がない、きつく言いすぎてしまったか?


「あ、その……ごめんね。別に怒っているとかいうわけじゃ――」

『わかっているわよ。貴方が本当に怒ってるかどうかなんて』

「天音……」


 やっぱ優しい、ほんと隠し事ができない。


『……奏音、あんた疲れているでしょう』

「え?」


 藪から棒にどうしたというのだ。


『馬鹿にしないでよ、貴女との付き合いは長いんだから、悩んでいるのも、疲れているのもわかるよ』

「天音……」


 嗚呼もう、悟られてしまったというの?


『また霧谷先生の手伝いなんでしょ? それも、かーなーり面倒なね』

「……そんなところかな」

『でしょうね』


 表情が見えない。いや、今の場合はそれが僥倖だったかもしれない。

 情けない話だけど、天音と今対面していると、少し泣いてしまうかもしれない。

 ほんと天音、大好きだ。彼女と親友になれてよかった。


「詳しいことは話せないの。だけど、きっと正しいことだと思っている」


 天音からの返事はない。が、熱心に耳を傾けてくれているのは電話越しでもわかる。


「そこに私情を混ぜてはいけないんだって理解している、けれど……」

『私情を、それもかなーり個人的な事情を挟んでしまっている』


 図星だ、全てお見通し?


『……蓮人がいるんでしょ?』

「えっ、そんなこと――」

『いいよいいよ、別に気を遣わなくて。あと私彼氏いるから! ご存知だと思うけど!』


 そう、天音には実はすでに彼氏はいる。男運が頗る悪いけれど。


『目の前の問題を直視しないといけないのに、彼と一緒に行動できていることに何処か喜びを見出してしまっている……私の予想は間違っているかしら?』


 …………。

 そうなんだと、思う。

 そう弱々しく返事をした。

 そう、私はそうなのだ。咲良蓮人に好意的な感情を抱いている。それは単に憧憬とか、そういう単純なものだけではない。そこには少なからず恋慕という概念も混在しているのだ。蒼薬ブルー・プリズムの問題を解決することよりも、彼と共に解決を目指している今という現状に何処か、幸福を感じてしまっている。

 忌むべきことなのに、被害者がいて、それによって後悔に苛まれている霧谷という人間がいる前で斯様な浮ついた感情を持つべきではないのだ。それなのに、それなのに――。


『もう、馬鹿』

「へ?」

『どうせあれでしょ? 真面目なあんたのことだから、悩んでいる人がいるのに自分はそんな色恋で浮ついてるなんて……とか思ってるんでしょ?』

「だ、だってそうじゃない……詳しくは話せないけれど、被害者がいる問題なんだよ!? そこに腑抜けた気持ちで挑んでは……」

『何か悪いことなのかしら、それは』

「え、ええ?」

『動機が不純でも、人に言えないものでも……理由は理由じゃない、貴賤はないわよ。それに邪な理由であっても実際に行動を奏音は始めているじゃないの。その時点で綺麗ごと並べて何もしない奴よりかよっぽどましだと思うけれど』


 彼女の意見に言葉が詰まった。


『蓮人と会いたいから頑張る、それもいいじゃない! 胸張れる理由よ』

「天音ぇ……」

『ああもう、そんな情けない声出さないでよ、貴女委員長なんだから』

「ごめん……ちょっと泣いてる」

『もう、泣き虫ね。いいわよ、好きなだけ泣いたら』


 緩んだ涙腺から止めどなく溢れる涙の大粒を、袖で拭き取って、着丈な様子を取り繕う。


『今どこなの? 今から彼氏とご飯食べに行くけど、蓮人連れてきたら?』

「ごめんね、塾だから」

『あー……忘れてたよ、ごめんごめん、じゃ、また明日ね』

「うん」

『奏音――いつでも話は聞くからね』


 そう言って、天音は着信を切った。


(恋、してるのかな……)


 咲良蓮人は自分よりもよっぽど賢く、そして運動神経もある。質実剛健を地で行う彼に私は何時からか惹かれていたというのか。

 自分では簡単に結論付けられなかったというのに、他人を挟むとこうもあっさりと事が済むだなんて、驚きである。


「あー、ダメダメ、切り替えないと……」


 顔を左右に振って眼を閉じ、切り替えようと試みる。小さく深呼吸をして、ゆっくりと眼を開くと、目の前には倉島愛華が私の顔を覗き込んでいた。





「きゃあっ!?」


 唐突すぎて私は後ろに仰け反るように倒れてしまう。

 後ろから声をかけられたからだ。


「な、なんで、どうして此処に倉島さんが!?」

「待機。終わるまで」


 まさか本当にこんな場所まで着いてきたというの?


「えっと……ええっと……」


 情報が整理できなくなってきた。この病院は山道を十分ばかし上らなければ到達できないわけだけど……まさか彼女、自力で? いや、市営バス等公共機関を……ではなくて、何故にそのような執念を?


「恋」


 倉島のその言葉に総毛立つ思いに駆られた。。

 鳥肌などというちゃちな話ではない。身の毛の弥立つ思いだ――差乍ら先の天音との通話を一方的に傍聴していたかのようだ。そうでなければ在りえない、彼女が私の内面でようやく結論づいた事項に対して知るだなんて。私が発する言葉を一語一句逃さずに拾ったのだろうか――何れにしても、倉島は余程勘が鋭いか、聡明なようだ。少し……油断をしたかもしれない。

 彼女に悪性は感じられない――むしろ気配全体に柔和ささえも見いだせ、怪しさなんて微塵もないのだから妙な話だ。


「恋、違う?」


 いや、彼女もきっと疑念の段階なのだろう。

 正確な確証を得ていない――故の“問いかけ”というのならまだ合点もいくし、誤魔化しも利く。流石に、それが行動の理由になろうとも邪には変わりない、あれよこれよと思案に耽って行動に移せないよりか幾分かましだったとしてもそう第三者に必要以上の口外をするものでもないだろう。

 まぁ、彼女は徒に口外を繰り返すような人間ではないけれども。

 弁えなければならないところは弁える、そうでないと重要なところで取り返しのつかないミスを犯してしまう。それは委員長として、いや、一人の責任ある大人になりつつある者がやってはならないことだ。


「それが恋かもしれないけど、だからといって私のやることは変わらないよ」


 この問題を解決させる、それを忘れては本末転倒だ。何を目的かを摩り替えてはならない。


「…………」


 またその瞳だ。

 決して不快を被るわけではない、ただ、何かを告げるかのように私の眼窩の奥の奥を覗き込む不思議な瞳。倉島愛華が何かあれば頻りにそう凝視するものだから、ついぞ私も意識が其方側に惹かれてしまう。何なのだろうか、彼女の瞳は別に催眠効果などという面妖な特性があるというわけでもない筈なのに、こうも心情が発振させるのは何故なの。てんで見当がつかない。

 ただ、このまま倉島をなすが儘にさせておくと駄目、私が呑まれてしまいそうで、話さなくていいことまでも流暢に告白してしまいそうで無性に怖くなった。

 だからこそ、かなり無理くりであると理解しつつも会話を逸らしにかかる。


「今から霧谷先生と咲良君と一緒に駅前まで戻るけど、倉島さんもどう? あと一人くらいなら乗り込めるし、態々バスに乗る必要はないと思うよ」


 きっと快諾してくれるだろう。

 が、倉島はふるふると首を左右に振った。

 そして、


「ばいばい」



 と告げて立ち上がり、ゆっくりと自身の足で山道を下っていくのだった。


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