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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第二章「奏音の過去と愛の物語」
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「奏音と愛華の初接触」

久しぶりの百合百合したシーンです。

温かい目で見守ってやってください

 彼女が引っ張って奏音を連れた先は屋上だ。

 学園の外観こそは、敷居を誇示する構造を十二分に採用しているが、こと屋上に関しては一般的な公立の中学のそれと大差なかった。コンクリートの床は座るには硬く、夏場は太陽光の照り返しで途轍もない気温を観測するためとてもではないが昼食なんていってられない。冬季も、積雪量が例年通りなら誰も足を運ばなくなる。

 秋から冬への移り変わりであるこの十月初頭だからこそのスポットなのである。


 昼休みは解放されており、それなりの広さがあるものだから男子学生は球技に勤しみ、女子生徒は女子生徒でそれぞれ色彩鮮やかな弁当を広げて談話に励んでいる。

 倉島愛華は特に言葉を発することもなく、あんぱんを小さな口で食し続けている。


(美味しくないのかな?)


 たかが出来合いのパン一つに感嘆の言葉を並べるのも何だか臭い気がするが――表情一つも変えずに淡々と食する光景を目の当たりにすると、何処か奏音は精神が不安になってきさえした。


「このパン、何処で買ったの? 凄くおいしそうだけど――」

「駅前」

「駅前? ああ、最近できたって聞いた……あそこすごい行列そうだけど、並んだの?」

「これ、廃棄」

「ええっ!?」


 詳しく話を聞くと、結構な割合で総菜パン類は品切れるそうだが、定番のパンは低い確率ではあるが定期的に売れ残る。売れ残りは当然廃棄されるわけだが、それを従業員でもない彼女が持って帰るのは……本来であれば禁じられている行為だ。

 だけども、彼女を咎めるのは無責任の極みというものだ。

 奏音は変なところも生真面目だった。自分は自立できていない、親の庇護下にある人間として――藁にも縋る思いで日々の昼食を調達しているだろう彼女を……どうして糾弾できようか、という結論に至ってしまったのだ。


 かくて加えて、奏音とて持ち寄った弁当箱を嗜んでいる。早朝に色々と調理したのは自分自身だけど食費を賄っているのは自分ではない。色々と罪悪感が積もっていったのだ。


「あの、食べる?」


 結局奏音ができるのはそういう、独善的なことだけだろう。

 その提案に彼女は一度だけきょとんと首を傾げた。申し出の意味が理解できなかったのだろうか?

 少しの間をあけた後、彼女は自身の食べ物に伸ばしていた視線をかなりゆっくりとした動作で私の方へ上げる。言葉はない、だけども、彼女の眼にひと際強い炎が灯った風に見えた。まさか、彼女本当にパン以外の昼食を用意していなかったというのだろうか?


「……使う?」


 私が箸をそっと差し出すと、淀みない動きで受け取った彼女は私の弁当箱からそっと卵焼きをつかみ取って、口に運ぶ。そして数度咀嚼し、呑み込む。


「どう?」


 返事はない。が、再度卵焼きを掴んでは食すものだから、味には満足しているのだろう。

 すると、横に並べられた煮物にも手を出し始める。

 このペースでは彼女の弁当は瞬く間に掃討されかねないが、今日に関してはいいような気がした。

 折角満足のいく、かもしれない昼食にありつけた彼女の食事を無理に奪うなんて真似は奏音にはできなかった。それに、具材を食する度に至福の表情を浮かべられては、調理した人間としては少しいい気分になってくるものだ。

 なに、明日からは二人分つくればいいではないか、そのようなおおらかな気持ちになりつつあるくらいだ――といった風に問題を解決してみせた。


「ねぇ、倉島さんはずっとこんな食生活なの?」


 そう尋ねると、彼女はこくりと頷く。


「帰還してから、ずっと」

「帰還……?」

(彼女特有の単語使いの一環かしら、言いぶり的に……海外で暮らしていたんだろう)


 海外の食文化に精通しているわけではないから、他所の国では私の思う不思議な話が彼女にとっては常識だったのかもしれない。


「どこかにいっていたの?」

「ずっと、ずっと遠い場所」

(ふむ、アジア圏ではなさそうね)


 なら猶の事、文化にも差異が出て然るべきだろう。


「でも食べなきゃだめだよ、体を壊してしまうもの」

「食料、不足。困った」

「えっと……」

(どういうことかしら? まさか倉島さん、一人暮らしでもしているの?)

「ともかく……ごはんがないのはいけないわ、流石に三食は用意できないけれど……お昼ご飯なら、私が如何にかしようか?」

「……」


 小首を傾け、不思議そうに伺う。


(こういうのに慣れていないのかしら?)


 いずれにせよ、放置はできまい。

 流石に日々の困窮状態を私が解決させるのには無理があるけれど、僅かながらの食糧供給なら可能かもしれない、と考えた。それに、今回の件が片付けば、霧谷などの大人の手を借りることができるかもしれない。


「とりあえず、今日のご飯は食べていいよ」


 今自分が腹を膨れさせることができなくても、多少は問題なかった。


「ありがとう」


 そう呟いて、彼女は食すペースを上げた。


「ねぇ、倉島さんは」


 普段どういう生活を送っているの? そう尋ねた。

 他意はない、純粋な興味本位だった。

 彼女という存在が、知らないに満ち満ちているものだから、失礼を理解していても問い質してみたくなっただけの話である。日々何を思考し、何を嗜み、そして何に幸福を抱いているか、それが、彼女の今の姿を受けて、しきりに意識が向くようになって留まらなくなる。奏音は地味に、好奇心旺盛なのである。


「何か好きなこととか、趣味とか……」

「人間観察」

「え?」


 彼女が戸惑う訳もなく、実にあっさりと物語るものだから、処理がどうしてか一段階遅れてしまう。


(人間観察?)


 人の表情の機微とか行動所作とか、そういった類の分析だろうか。人は無意識な行動であろうが何らかの要因があってのことだと、心理学的に考察する分野もあると知られている。それがたとえ一時の気の迷いによる凶行だろうが、構わずだ。倉島愛華はそれを趣味としているという。


「人の流動、感情の変化、原因と結果――生存戦略にはそれが、要」

「生存戦略?」


 随分と大層な話だと、奏音はついぞ思ってしまう。この現代日本、二十一世紀が開幕して間もない時代に生きるか死ぬかの計画を入念に組むだなんて、まったく増々変な話である。少なくとも日本という国家の内部に於いて、行動の結果死に至るなどという話はそうない。そのような殺伐な世界などではない筈だ。


(……中二病、とも違うわね)


 巫女戯ている様子がないことは、変化が余りにも乏しい表情からでもすぐにわかる。倉島はただじっと私の瞳孔を逃さない。異様だ。瞬きを一つとせず、隙あらば他者の心の深淵を読み解かんとするその眼光に、気圧されそうになる。


(帰還といい、生存戦略といい、何かおかしい。言葉が悉くこの日常と乖離している。まるで倉島さんは直前まで別世界に生きていたようだ。それも、日常の写し鏡でもなんでもない、荒廃した、この世界の倫理が通用しない常軌を逸した世界――て、待って待って)


 それはあまりにも論理が飛躍しすぎだ。

 別世界? そんなのは物語だけで十分だ

 夢見る世界は実在しない。不思議の国は想像の産物にすぎないのだ。

 少なくとも地球という一つの空間系に制限すると、眼に見えている世界が全てだろう。それ以上もそれ以外もない……異世界なんて、存在しない。

 だけど、奏音の中の“どうして”に対する解答に一切近づけないというのも妙だ。彼女が極端な中二病で、妙な言葉使いも立ち振る舞いも演技だというのなら達者なものだし、答えに到達できないのもやむないことであるが、それもまた現実的でない。


(塾の級友でそういうのを患っている人はいる)


 それに関してはすごいと思っている。

 自分と全く違う自分を作ることは私にはできない。ましてやそれを器用に交換することだってだ。


「そういえば、倉島さんって……転校生だったよね」


 彼女はこくりと頷く。

 倉島愛華はいつからかこの学校に身を置いた。入学式に肩を並べたわけではない。夏休みだの冬休みだの、何れかの休暇明けに、ごく自然とこの学園の一員となった。


「貴女はこの学園にやってくるまで、どこで何をしていたの?」


 そう問いかけると、倉島愛華はまたも小首を傾げる。が、決してを見つめる視線をそらそうとはしない。


「あっ」


 私としたことが……、と急激に自責の念に襲われた。


「不躾だよね、そう詮索するなんて……ごめんなさい」


 素直に頭を下げる。出過ぎた真似だった、彼女を傷つけたかもしれない。

 そう思慮していると、倉島はずっと四つん這いになり、体重を支えていた右手の支えを左手に交代させる。ずっと地面に触れていたから付着した汚れが気になったのか、一度自分のスカートの布で拭き取ってから、私の頬にその手を運んだ。


「えっと……」


 すごく恥ずかしかった。

 さすりと頬を撫でて、そこからぺたぺたと私の顔の部位を確かめるように右手を移動させる。傍から見れば異様な光景だろう。

 くすぐったいし、何よりも距離感がとても近い。


「頬、耳、鼻、額、髪」


 次々と触れた部位を点呼していく。

 そして、撫でまわす手が蟀谷あたりで止まる。


「瞳、水晶――」


 さっきよりも眼光を一層に強め、深く覗き込むように前かがみになる。

 超至近距離になる。

 彼女の吐息がかかる距離にまで遠慮なく近寄られ、自ずと奏音の腰は後方に引けてしまう。だが、彼女の接近は止まらなかった。

 直前まで飲んでいた、これまた私が与えた果実ジュースの仄かで甘美な香りが実に心地よく、と言っている場合ではない。


「あの……倉島さん?」

「透明な天球」

「え、え?」

「透明、それが奏音の瞳」

「ええっと……私の瞳は黒いよ?」


 当然カラーコンタクトの類もつけていない。


「表層は確かに黒。干渉を拒絶する、そんな」


 すぅっと息を吸い込み、彼女は続ける。


「だけど本質は透明」

「えっ?」

「ごめん、わからない、特に意味が」

「貴女は何にでもなれる、それは何もかもを実現できる力」

「つまり……褒められているの?」

「だからこそ、曲げてはいけない、自分を、篠崎奏音という個を」

「えっと、ありがとう?」


 自分を見失うな、ということだろうか。これまた不思議だ。彼女には今の私がどう映っているのだろうか? 奏音の中でぐるぐると不思議が大回転を始める。

 すると、彼女の意を介する様子のない彼女は尚も距離を詰めようとする。

 流石にこれは――。


「あんたら……いないと思ったら何やっているのよ」


 天音の登場だ。

 この登場は渡りに船かもしれないが、視方によれば大いなる誤解を招きかねないと数舜後に自覚することとなる。


諸都合により、週明けから隔日公開になります。申し訳ございません。

なお土日は投稿しますので。

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