第42話「放火はやっぱり面白い」
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敵を殲滅して数分間。
増援が来るやもしれないと意気込み、少しの間根城である円形鉄塔の付近で待機していたが、待てど暮らせど山積した死体を回収する人間さえも出てこない。
ここで少しばかし不安になった、もしや彼奴等にみすみすと逃亡の猶予を与えてしまったのではないか、と。そうなると再びディルベルト一味に助力を乞わねばならなくなるし、問題が長期化しかねない。ならば……即刻行動を開始せねば。
鉄塔周りを徒歩により、ぐるりと見て回ったが、通用口は先まで見据えていた箇所一つに限定されていることがわかった。一応、各階層に分割されたと思しき所には私くらいなら難なく通り抜けられそうな窓はあるが……恐らく内側から閂で止められているだろうし、私としても折角の殴り込みの機会、用意された扉で入室したいものだ。
だからあれこれ考えるのを停止し、素直に扉を潜って室内に入室することに。
伽藍とした鉄塔内部は、根城というには余りにも殺風景な光景だった。
ところどころに木箱が何段かに積まれた木製の箱がある程度……目ぼしい宝物類は既に搬出済みかしら? 別に私の本懐は宝物の着服でないため、勝手にしてくれ、としか思わない。
それに、どう足掻いて疎開しようとも結末の収束先は一つしかない。
それにしても、人の気配が感じられない。
まさか本当に時間稼ぎをして、蛻の殻にしたというのか?
刹那、数本の軌道が私を通過して貫通した。私の肉体を穿たんと射抜かれた弓矢の初速は、射手の憶測通りに狭小な体躯に大穴を幾重にも作り出す。その風穴からは多量の液体が床中に拡散されるのだが……それは血液ではなかった。
「馬鹿ね……狙撃手の可能性を考慮していないわけがないでしょう?」
ましてや此処は敵の本陣だ。
弓等の遠距離用兵器で死角から無数に迫ることを予期せずに突破せんと目論むのは愚行が過ぎる。
敵地ではクリアリングを徹底することが、生存戦略の基礎となる。
私の視界は全周にあるわけではない――流石に背面からの狙撃を無傷で回避できる自信はない。それに、今のような螺旋を描く構造ならば、狙撃手は一人ではなく、複数人で全周をカバーできるように配置してくるのが普通だ。なればこそ、地上という不利な場所にいる私には万が一にも優勢となる要素はない。
罠に嵌るふりをして、室内に入室したのは私が生成した〈虚像〉だ。
そして、相手には命中を悟らせなければならない。そのために、私は同時に〈代替〉を発動し、持ち寄った玩具の一つと交換した。交換したものとは、玩具の中でも一番の重量があるもの……油だ。血が飛び散るかに思えた液体は全て液性の油そのもので、相手に気づかれずにそれらの液体はある程度拡散していった。これにより、準備は完了だ。
私は其処に迷わず、火の〈術式〉を放った。それが勢いよく、室内に散会した瞬間。
大爆発を起こした。
「ん?」
私の読み通りの反応が起き、まるで花火の音を至近距離で感じるような心地いい破裂音と共に遅れて届く悲鳴をしっかりとその耳に記憶させながら事が終息するまで塔の様子を眺めていた。
が、少し想定外の起こった。
その大爆発により、五メートル以上はある巨塔がゆっくりと地面に落ちる様に倒壊していくのだ。
いや、流石にそれはおかしい。単なる延焼程度の筈なのだが……この威力はなんだ?
もしや、あの山積されていた木箱の中身は爆薬だったのだろうか?
別に火力や衝撃を私が上乗せした記憶はないから……そうとしか考えられなかった。しかし、それにしても火薬なんていう扱いが困難な劇物を何故根城に? 武器として所持していた線もあるが、もしもそうなら既に搬出されている筈だ……。
もしや、私を屋上に誘い出したうえで、爆破させるつもりだったか。そう考えると、この根城そのものが誘導させるためのデコイだったというわけか。狙撃手はもとより戦力に入れておらず、順当に私が狙撃手を順当に倒していき、屋上に到達した段階で塔そのものを粉砕させ、落下によるダメージと降り注ぐ石の重量で私を完全に生き埋めにする魂胆だったというわけか。
酷いことをする、それでは狙撃のために残っていた仲間まで巻き添えになるではないか。
仲間の命を物ともしない、此処のボスはなんと冷淡な存在だろうか!
「だけど……だとすると、本当の根城は何処に?」
アイルズ達が真っ赤な嘘の情報に踊らされたとは予想しづらい。私の軍門に(勝手に)下る前から、それなりに精度の高い調査を敢行していただろうし。だとすると、あの巨塔は陽動か? ディルベルトの根城のように、巧妙に隠されているといった風な。
「ああ、そういうことか」
少し散らばった瓦礫をどかしながら何かないかを探していると案外簡単に見つかった。
大爆発により、粉砕された地面から、地下に続く階段が発見された。
悪党は総じて地下に潜伏する性質があるのか? まぁいい。すぐに見つかったのは僥倖だ。
階段を下ると、ただ広い地下空間が展開されていた。
等間隔で設置されている松明によって部屋全体の広さが何となく推し量ることができ、奥行きは数十メートル、天井から床への長さは凡そ八メートルとゆとりある広さだ。といってもやはり家具類は既に撤去されており、詰所というよか、闘技場のような広場になってしまっているようだった。
「なるほど、総力戦ってわけか」
地上における傭兵や狙撃手の集団、並びに大爆発により多少なりとダメージを負っている状態の私に対して幾分かの勝機がある、と確信したのだろう。が、彼らの生存本能に則った見込みも希望的観測に過ぎない、何故なら私は紛れもなく無傷なのだから。
「よくぞきた! 此処がお前の墓場だ!」
はい、小物の名台詞どうもありがとうございます。
兵士たちの裏に隠れ、威張る男の様を鼻で笑ってしまった。
だが、少し私としたことが驚きを露にしてしまった。
「ふん! 流石の貴様もこの数には無勢と見た!」
「モ、モンスター……!」
わなわなとしている様を見て、彼は何かを見出したようだ。しかしこれは……
感動だ!
男は何かを抜かしているが、無勢さに絶望したわけではない。ただ、未知の生物に昂揚が一切に抑制できていないのだ。現代日本にも妖怪譚はそれなりに存在しているが、科学が世界に発展をもたらした世界に於いてそれらは何の根拠もない風説に過ぎなかった。が、此処は間違いなく異世界だ。およそ人間とも亜人ともいえない巨大な生物が周囲に配置されているではないか!
私はテレビゲームを嗜んでいたことはないが、国民的ロールプレイングゲームくらいは知っている。そのゲーム内で対面できる生物に似通った存在が確かに目の前に存在し、息を荒げて私に敵意を露にしているなんて……何たることか。そういった作品に造詣が深い人間であればそれだけで絶頂に達してしまいそうだ、その分野に明るくない私でも稚児のような興奮が凄まじいのだから……。
正面に三匹ほどいる一つ目、緑の皮膚を持ち、草臥れた特注の装備品を纏う巨大な生物はキュクロープスか? ギリシア神話の下級の神だったか……いや、あの個体は見るからに粗暴さを前面に押し出しているから、その下位種族だろうか。
その付近に追従するのは……頭が三つにも連なる犬種……、
「ケルベロス……!」
すごい、こんなのもいるのか!
こう、初めて味わった異世界の感覚だ。私がいろいろと実験をした森には野生動物こそはいたが、このような露骨にファンタジー感を丸出しにした生物は確認できなかった。生息地域の違いか、そもそも農村付近の人間に敵対的な種族は討伐されきっているのか、一切確認できなかった。
そして入学後も亜人とは接触があったが、見るからに反知性な生物を見物する機会はなかった。この感動は代え難いものだ。
「あっ、あれは……」
粘度が高く、顔とかもなければ他の生物のように四肢を有さない半透明でいて単色の生命体……スライムだ。
現代日本でも子供が遊ぶ玩具の一つとしてスライムを造らせるものは多数あったが、目の前のは違う。自分の意思があるようで、自由にその形状を器用に変化させているではないか。
正直に打ち明けよう、滅茶苦茶に可愛いではないか。
これが愛玩動物という奴か?
猛獣と同じ種族なのに小型で人懐こくなるだけで愛玩動物として不自由ない地位を確立した種族を好き好む人種が元の世界にも多数いたが……今になってその者達の感情の意味を理解できたような気がした。
(よし、こいつだけは絶対に連れて帰ろう)
全部じゃなくていい、少しだけ持ち寄った瓶に採取して部屋にでも飾ろうではないか。
よし、こうなったら広範囲攻撃は控えなければ。各個撃破でスライムだけを残してやろう。
「いけ!」
巨大生物の奥でふんぞり返る男が命じると、のそりと一匹の巨大生物が私に近づき、棍棒で一撃を見回そうと振り翳す。
あまりにも鈍重すぎて、代謝を変に弄らなくとも回避しやすい。回避した後、私は棍棒の上に立ち、彼の巨大生物の体を駆け、首元で跳躍。その最中に手持無沙汰だった彼奴の太い左腕を掴み、力一杯に引きちぎってやった。
「なっ、こいつ、あの生物の腕を引きちぎっただと!? くそ! お前ら全員かかれ!」
そう唸ると、人外の生物でなく共にいた多くの兵士が私を一点に狙い、攻撃を仕掛けだす。
「いいわ、全員相手にしてあげる」
私はさっそく引きちぎった腕を、複数人で固まって〈術式〉を発動せんと画策していた術師集団に投擲。その質量の重さに耐えきれず、術師は倒れ、卒倒。
「味気がないわね……って」
先に腕を引きちぎった巨大生物の左手が、私を勢いよく掴んだではないか。
「ふむ、再生力があるのか、厄介ね」
単に首を飛ばすだけでは倒せそうにないか。私の全身を鷲掴みにした巨大生物はそのまま私の頭部を捕食しようと大穴を開ける。その時、遅れて追従していた魔導書が漸く真横に到着する。
「遅いわよ」
〈過電流〉を発動し、巨大生物の全身を電圧により即座に焦げあがらせる。それにより、拘束は解かれた。
だが、それでも仕留めるには至らず、動きが鈍重になるに留まった。素体としての移動速度がもとより他の生物よりも圧倒的に小さいから放置しても問題はなさそうだが、不意を突かれるのも面倒だ。やはり今仕留めるべきだろう。
こうなったら、私が元の世界から持ち続けていた信条を採用させてもらおう。
――どんなゴミでも燃やせば同じ灰になる。
廃棄物の分別は結局のところ、無意味。
火力を上げて永続的に燃やし続ければ無に帰すという身も蓋もないが、案外頼りになるものの考え方だ。それによって生じる環境的な問題は知ったことではない……ここには二度とこないのだし。
至って方法はシンプルだ。先から何度も使っている炎系の術式の火力を最大限にまで高めて、巨躯なる生物に放つ。すると、彼の存在の肉はすさまじい勢いで炎が昇るのを助長させていき、火の手は全身に回る。
耳が裂ける程の絶叫を上げながらも、必死に炎を消そうと本能的に地面に体を叩きつけ始めるが、その程度で炎を振り払うことはできず、みるみると肉を焦がし、白骨部分が露出し始める。
が、奴はきっと骨からでも再生しうる、だから完全に焼却しきるまで……〈術式〉を継続させる――これまた搦め手のない単純なやり方で、私はこういう白黒はっきり方法は大好きだ。実際、次第に紅色だった炎色は真白に移り行き始める。そして今一度部屋中を眩く照らした。その炎色の推移は温度が白骨の融点に達したことを意味する。
(ふぅん、火葬されるとこうなるのか)
しかし、元は個体ごとに独自の形状を有しているというのに、一度炎に晒されると瞬時に同じ末路を辿るというのは何というか特殊な情緒深さを感じる。こう、どれだけ権力や強さを持った存在でも、弱く汚泥をなめさせられる人生だった存在でも行く末は同じ灰燼になるというのだから、面白みがある。
周りにはまだ敵が無数にいるというのに、いやはや、有終の美とやらに真剣に見入ってしまっていた。
さて、今焼却したのと同じ種族は二頭程いるが、再生能力がある以上倒し方が単調になってしまう。今思いついたことだが、再生の速度の向きを逆転させてやれば反再生、つまり崩壊反応が進行して自壊していくのではないか、という思考実験のようなものだ。試してみたいものではあるが、彼の生物に至っては単なる使役されているだけの存在、いわば無辜の生物だから試してしまうと少し動物虐待をしているようで私の繊細な心は砕けてしまいそうだ。だから結局、素直に火葬してあげたく思う。
これは滅しても何ら良心を咎めることのない相手が再生能力持ちだった時の楽しみに預けておこう。




