第41話「カノンの大無双2 兄弟の絆」
なんと、4000PVだと思っていたら5000PV間近でした。
とか言っていたら5000PVをすでに超えており、驚くばかりです。
本当にありがとうございます!
少しずつだけど身体も温まってきたし、興が乗ってきたというもの。
「じゃあ、次」
さぁさ、どんどん救命活動を続行しようではないか。
あと十人はこの場にいる。
遊び甲斐……じゃない、やりがいも自然と湧き出てくる。
一人目の男が抜け殻を互いに睨み合って数十秒――漸く相手方が仕掛けてきた。
「はああああ!」これまた生きのいい鉄面皮な男だ。
まず彼奴の大ぶりな棍棒の薙ぎ払いを、足を滑らせて、地面側に身体を華麗にそらして回避する。交差の際にそっと彼の巨岩のように固くなった皮膚に私の柔肌な手で触れてやる。
すると、彼の情報を幾つも取得することができた。
この男の恐怖症は……まさか、閉所恐怖症ときた! 大柄という特徴は案外飾りなのかもしれない。
しかし、閉所恐怖症とはさぞ生き辛いことだろう。治してやらないと。
彼にはやはり……こうだ。
初手と同様に幻術をかけてやった。
すると、彼の知覚は惑わされて、誰も感知できない不和に意識が集中し始める。
彼の中に起こった、彼でしか認識できない事態――それは自身の甲冑が突如音を上げて、収縮し始めるのということだった。ギシリ、ギシリ……と音を上げて、圧縮を開始した全身の鎧は、ゆっくとその容積を狭めていく。
そしてある段階で軋む音にくぐもった低音が混ざりだす。それは甲冑が全身を圧迫し始める音だ――全身を覆うという鎧の役割が仇となったわね。
「いっ……あがががががが!」
そして加重に耐え切れなくなった全身の骨は隈なく粉砕され、全身から血液が噴出する。関節部から滴り落ちる血流は、まるで檸檬を潰した時の感覚を思い出す。いや、この場合は柘榴が適切か? 兎も角、エーデルワイスにも見せてやりたい光景だ。観測できるのは私だけにしかできないが……。
「男はほんとこらえ性がないわね」
すると、私の左右に構える様に傭兵が陣取った。
「律義ね、一斉にかかればいいのに」
ま、無理か。差し詰め、寄せ集めの集団と見た。
彼らの自尊心が邪魔をして、まともに連携も取れない。流石に思考さえもまともにできない愚者の集まりではないらしく、それ相応に自身の性質を理解している。だからこそ足を引っ張りあわないように、個人戦を仕掛ける、か。
悪くはない考えね。だけど、この二人に限ってはそうではなさそうだが……。
「まぁ、いいわ」
構わない、何人で挑もうと処置は同じことだ。
先と同様に、服従の魔眼を通じて相手の恐怖を探ろうとする、が……。
「それは私達には効かないわよ!」
ふむ、姉妹か? 抵抗力がやけに高い。やはり男女ではストレスの耐性に差があるのか? 面白い、ならここからは手法を変えよう。馬鹿の一つ覚えのように強力な魔眼を連発するのも味気がないし。
「隙あり!」
姉妹は蹴りだし、少し高めに飛び上がった姉は右の上空から槍を突き下し、それと衝突しないように腰を低く構えた妹は下段に長剣を配置し、そのまま逆袈裟が入るようその刃を斬りあげた。
(跳躍しても、屈んでも避けられないようにしているのね)
面白い、真正面から受けて立つ。予め、魔導書は上空に浮遊させておき、私は悠長にそれを待つ。到達直後、左の二の腕以下から槍の一閃を真正面から受け、同時に至る長剣の面を踏みぬき、刃を地面に潜らせる。本来なら私の腕など容易く打ち負ける筈だが、それらの対策法は既にエンヌとの模擬戦で覚えた。
「〈硬化〉か! 気を付けて!」「ええ、お姉さま!」
見抜いたか、さすがに簡単すぎたか?
私は左腕の壁を取り払い、長剣のフラーを踏む足を軸に体を半回転。槍を逸らす。一直線にその槍は長剣の女性の脳天目掛け進むが、槍使いの女性は指にかける力の比重を僅かに変化させることで難なく直進の軌道を逸らし、誤射を防ぎきる。
「私たちの連携を甘く見ないで!」
ふむ、数年単位の繋がりではない、か。猶の事試し甲斐があるというもの。
私は槍の突進により、顔の距離が近まった女性の顔面を徐に掴み、一つの〈術式〉を発動した。魔導書が空中で開き、無事作動したことを告げる甲高い金属音が響いた。すると、彼女は後方にもたつく。
「貴様! お姉さまに何を!」
「そうかっかしないで……貴女にも平等に分け与えるから」
姉妹の片方に贔屓するのは、姉妹喧嘩の種になる。そんな真似はしない。がっちりと足場で固定された長剣を未だに振り払えない彼女に構わず私は同じ〈術式〉を放つ。耐性の件も考えて、先よりも威力を向上させて繰り出すと、無事作用した。
終了だ。彼女らの私に対する戦意は完全に消失した。
「元の世界では全く信じられなかったけれど、こうやって目の当たりにすると、否応でも信じるほかないわね」
存外、元の世界の“催眠術”とやらも絡繰りがあったのかもしれないわね。
私が彼女らにかけたのは、強烈な暗示だ。簡単なもので、敵意の方向性を弄る、それだけだ。敵意を、苦楽を共にした姉妹同士に向けてやった。
それと同時に、気持ちを反転させる暗示を両者にかけた。
即ち、絆が深ければ深いほど、それらは反転して憎悪へと変わる。先の敵意調整もあって、簡単には打ち崩せまい。
もう私の存在などどこ吹く風――姉妹は勝手に沈痛であったり、憤怒であったりといった負の感情を浮かべ両者で睨み合っていた。
「絆……とりあけ家族の愛は実に崇高なものだと私は信じている。だから、些細な障壁なんて簡単に乗り越えられるものだわ、それが真実の愛ならばね。もしもその姉妹愛が紛れもなく真実であるならば……二人とも助けるわ、死なない限り約束する。私が他の有象無象の処理をしている間、家族愛を信じて催眠術に抗ってみなさい」
私が愛情を説くのなら、これくらい造作のない筈よ。
さて、各個処理してきたわけだが、その光景を見て、傭兵どもも及び腰になったか? 随分と距離を置かれたものだ。距離を詰めるのは何ら難しくもないが……これまた芸がない。ふむ……。
「ああ、思い出した」
エンヌ先生の手土産を。
彼女に受け取った、金属製の札のような代物を取り出す。両面に円環と幾つもの紋様を兼ね備えたもので……確か術式譜といったかしら。この特殊な金属に〈術式〉を記録させることで、演算なく記録した〈術式〉を回数制限有りで行使できる、というものだった。
そして、これに付与されているのは……召喚の〈術式〉。日本風に言うと、式神のようなものだ。主君の命令をただ一つ実現して、消失する使い捨ての〈術式〉である。使用回数は一度であるため、少し出し惜しみしていたのだが……折角の貰い物だ、本来の使い方をしなければ物も泣いてしまうというもの。
それを地面に投擲すると、発動し、そこから登場したのは全長三メートルほどの青白い炎によって形成された、四足歩行の食肉類の動物だった。式神をイメージしていたから如何なるものが飛び出すか、少しの不安だったが、完璧だ。
「貴方に命ずるわ。後ろで必死に戦っている姉妹以外を、襲いなさい」
私の言を受諾したか、かれの真紅の瞳が一度煌めいた。直後、野獣は駆けた。
その生物は厳密には足が地についていないから、激しく大地を揺らす音自体はない。が、彼が通過した場所は青色の炎が残留し、急速な方向転換並びに障害物と衝突する際には、小爆発を起こした。
これにより、傭兵たちはいよいよもって崩壊し、泣き喚いてはその場を後にし、最後まで武器を振るおうという気概を見せる男はいなかった。だが、体躯に依らず俊足で大地を駆け巡る猛獣からそう逃げ果せられるわけもなく、全てが焼かれ、捕食され、そして死んでいった。
ものの数十秒で、殲滅が完了したようで、命令を完遂した猛獣は跡形もなく消失してしまった。
便利なのは間違いなく便利だが……退屈だ。もっとこう、足掻く様を観察したかった節はあった。絶望的な状況でも最後の一振りが届くまでは、命を燃やしてもらいたかった。
「呆気ない幕切れを、どうにか誤魔化したいな……そうだ」
折角だ、私が地面の土を通貨にがんがんと〈術式〉を使い過ぎた結果、そこら中が穴ぼこだらけになってしまったんだし、後日傭兵たちの遺体を埋めて植物の種を蒔いてやろう。きっと来年は一帯に花畑ができて、一大観光地になるかもしれない。
「さて……姉妹の様子は……」
経過時間としては一分程度だが、趨勢はどう傾いた?
少し心躍らせ、振り返ると、二人はなんと地に付していた。両方からは多量の出血が見られ、それが滴る中で血が混合し、一際巨大な血溜まりが完成してしまったではないか。
「ああ、駄目だったのね」
愛の力とやらで持ち応えていてほしかったものだが……。
「いや、待てよ……」
私は少し、ほんの少し頭が固いかもしれない。
理性を失って、双方ともに命を落とす結果に終わったが……血の繋がりだけは途切れない、この血潮の意味するところは、そういう美術的とも文学的ともとれる意味なのか?
なるほど、深いなぁ……。




