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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第39話「カノン、盗賊の頂点に立つ」

「は?」


 私の提案に堪らずにアイルズはそんな声を上げた。

 ふむ、流石にその反応も致し方なしか。ちと説明が不足していたかもしれない。これでは人体実験のモルモットになってくれと言っているようなものである。


「その手間賃といってはなんだけど、これを使いなさい」


 私が事前に用意したのはそこそこ値の張る義眼だった。義眼という癖に球状ではく、むしろこれはコンタクトレンズに近い作りをしている。これといった形容の言葉が見つからなかったから便宜的にそう呼んだまでだ。

 では何故態々そのようなものを彼の為に用意したか。

 それは前提として今から行う些細な実験は相手方の視力が機能していないとそもそも開始できない芸当であるからだ。それに、私が魔力アビロイドの解放を見せつけた結果こうなってしまったのだからその埋め合わせくらいはする。

 どっちにしろ後々の活動で使用した金額の倍以上の資産が手に入るのだから多少は誰かの為に還元しても構わないだろう。募金機構がないのだから猶更だ。


 彼は私が用意した質感の良い箱に触れて何が手渡されたかを知る。


「これは……偽魔眼プリンター?」


 彼の眼は見えていないが、その道具に注がれている魔力アビロイドの動きで何かを特定したようだ。

 ふむ、そのような特殊な名前をするのか。

 確かに、アイルズの視力回復に関してはエンヌに一任していたが、そのようなものが完成するとは。説明の不備もあってか、余計に相互認識にずれが生じてしまったのだろう。それに私は経費を支払っただけに過ぎない。

 ううむ、これが依頼者と制作者のコミュニケーション不足によって生じる伝達の不備という奴か。実社会でも頻繁にあると聞く話だが、成程こういうわけか。


「使い方は貴方ならわかると踏んでいるけれど」

「え、ええ」


 そうやって彼はその偏屈なコンタクトレンズを自身の光彩に装着させた。


「どうかしら?」

「……問題ないよ。視力は戻った」

「そ、なら……協力してもらえないかしら?」


 彼は即答できずにいた。


「私に何を?」

「なに、そう難しいことではないわ。新技を試したいだけ」

「……実験台になれと?」

「ま、そうね。でも安心して、後遺症にならないようにはするわ」


 半ば無理やりに義眼を与えたのが正解だった。

 高圧的に手渡すことで、受取拒否ができない空気を作り出し、それを受け取って以降は見返りを断れない雰囲気が出来上がるわけだ。そうなればもうこっちものだ。


「だから――少しの間じっとしておいて」


 彼が不平を垂れだす前に私はさっさと〈術式エイジ〉を発動した。

 それは、エンヌ譲りの魔眼から派生した”瞳”の力だ。





 彼が私の瞳を合わせた瞬間、椅子から転げ落ちた。


「あははっ、安心して、貴方をどうこうしようという気はないわ――お試しのお試しコースよ。だって、私は貴方に並々ならぬ期待を寄せているの。そんな期待の対象を自ら傷つけることはしたくないもの」


 唇に人差し指を当てて、忠告する。


「他言無用よ? 種がわかると、面白くないから」


 そして、本格的に発動した。

「――――――――」


 数秒後、私にも負荷が帰ってくる直前で彼にかけた〈術式エイジ〉を解除した。


「はっ……こ、ここは!? わ、私は……」

「どうしたの、ひどい顔色ね、水でも飲んだらどうかしら」

「は、はい、どうも……」


 彼は私が差し出したコップを彼は受け取るも、上手くつかめずに落としてしまう。硝子製のコップはあっという間に地面に落下し、無残に粉砕され、水は地面に沁みていった。


「力がっ、入らない!?」


 彼は地面に転がり、のたうちまわって、周囲のものを掴もうとするが、上手く掴めずに先程のように落としてしまうだけでなく……立ち上がることもできなくなっている。


「ふぅん、全身の筋肉が強制的に弛緩してしまったのね……貴方の場合そうなるのか。ま、そろそろ頃合いね」


 これ以上は彼に悪い。

 彼を術に嵌めたかったわけではないのだ。

 ゆっくりと彼の体を撫でてやる。すると、先までの恐慌状態は見る影もなく姿を消し、数刻前の冷静沈着さを取り戻した。


「…………」

「ごめんなさい、少し戯れが過ぎたわね。これでも抑えたつもりなんだけど……まだまだ発展途上ね」

「これで……抑えていたと?」

「ええ、先も教えたけど貴方に恨みはない。偶々襲った組織の長だったっていうだけ」


 彼は単に不幸だっただけだ。例えば、私が転移した時代のディルベルトが、彼の先代が治めていれば、自ずとその先代がこの役回りになっていただろうし。


「さてと、随分と長話が過ぎたわね。そろそろ場所を……」

「あ…………」

(まだ完全に〈術式エイジ〉が抜けていないかしら? もう少し……)

「あ、貴方に……心よりの忠誠を!」

「は?」


 えっ……え?


 彼は血迷ったか?


「……何を言いたいのか、わからないのだけど」


 この程度で表情を崩しては駄目だ。

 如何なる状況でも感情の機微を他者に見せてはいけない。

 きっとこれはアイルズの策略か何かだ――油断した内に喉仏を切り裂くつもりだ。そうだ、違いない。


「私は永らく自分たちディルベルトを如何に運営すべきか、決められないまま当代まで勢力を拡大してまいりました……ですが、カノン様、御身が私に為すべきことをお教えになられました!」


 は?


「……続けて」


 万事順調に進んでいたというのに、黒雲が立ち込め始めた。


「ディルベルトの全てを賭して、貴方様の鎧となり、刃になる――それこそが天より賜りし使命なのだと知りました!」


 鎧に、刃? 待て、彼らは私個人の親衛隊にでもなるつもりなのかしら? 

 いや、それは困る! 

 私に喧嘩を売った団体を掃討した後は、八聖王が誕生するまで静かに暮らそうと思っているのに、彼奴等に追従されては土台御破談だ!


「アイルズ、貴様、血迷ったか!」


 その時、〈睡魔スリプト・ウェイブ〉による催眠術がいち早く解けたのだろうか、赤土色の肌を持つ大男が彼に異を唱えた。


「言うに事欠いて、このような雌餓鬼に頭を垂れて神格化しろと!? 馬鹿も休み休みいうのだ! そもそも貴様が腑抜けた様子を見せなければ――」


 彼は恐らく、連合の下部団体の長か? 

 いや、なんにせよ渡りに船だ。大男の怒号につられたか、続々と皆が眼を覚まし始める。そしてなんとなく状況を読み取れたのか、大男に同意を示し始める。

 うん、いいぞ、頑張れ名前も知らない人。私は彼を全面的に支持する。あとは私が後押しをしていれば、アイルズの凶行にストップをかけられるだろう。


「そうよ――「黙れぇ!」


 は?


 私が援護射撃をしようとした途端、アイルズは激昂し、喉を枯らすほど力一杯に叫んだ。実際に、彼の声は掠れており、常日頃から出し慣れていない声量であることがわかる。


「貴様らぁ! 何方と心得て、そのような無礼な言葉を並べるか! 恥を知れぇ!」


 アイルズは躊躇せず円環を召喚し、それを発端となった大男に向かい、放つ。すると、その大男はもだえ苦しむさまを見せて、地面に沈んだ。


「え、彼は?」

「ご安心ください、カノン様、あのような御身の尊さを理解できない輩は私が事前に処分いたします故」

「え、えー……」


 恐怖政治、これでは独裁政治ではないか!

 彼が使ったのは〈心握ハート・オン〉、簡単に言うと心臓の拍動を停止させ、相手を死亡させるという〈術式エイジ〉だが……。

 無論誰もが行使できる技ではない。高位中の高位な〈術式エイジ〉であり、行使できる素養を持つ者を厳選するほうが困難とも言われている。それを難なく行使できるアイルズは間違いなく才覚ある術師なのだが、現時点を持って訳の分からないことになってしまった。

 実はエンヌ先生との三日三晩の“修行”の際に触れていないかといえば、嘘になる。家畜動物相手に実践した際は、発動した。だけど、発動の前提条件として対象生物の心臓の位置が把握できているのと座標の定義が終了するまで対象が停止しておかなければならない、という発動条件のややこしさが実用性を著しく下げている。


 今後私が相対させられるのは魔王軍とかいう人外が集う軍勢だ。心臓が人類種と異なる場所にだってある筈だし、そもそも一つとも限らない。今回は大男がその場で怒り狂っていたのと、肩を並べているのが人間種のみという稀有な状況が為せたのだ。

 何よりも面白みがないじゃないか! あっという間に死をもたらすのは雑魚相手を警戒させるには十分なのだが、私の本意に大きく外れているため、今回は探求を深めなかった。


「「「…………」」」


 大男と口を並べていたものも、少しすると……。


「「「カノン様、どうか我々をお導きください!」」」


 皆が皆口々に同じ意見を吐くという最悪の結末を迎えてしまうことになる。

 今すぐ如何にかしたいが、今ばかりは放置しておこう。ええい、ままよ。


「……アイルズ」


 慕ってくれるなら、利用してやろう、こうなったら。


「今から私は本陣に殴りこむ……奇襲は面白くないから、ちゃんと報せてあげなさい。そして……そうね、ここにいる全員でアニスを嬲り尽くした貴族集団をピックアップなさい」


 国家間の戦争行為にも国際法が適応されるという。

 では私も現代を生きた文化人として、それに則ろうではないか。宣言してやろう、今から行う攻撃を。

 で、逃げ惑うモノなら地の果てまで追い詰めて、しっかりと滅ぼしてやる。


「承知しました――聞きましたね、皆さん、かかりなさい!」

「「「はい!」」」


 その異様極まる光景は、歯止めを聞かずにどんどんと加速していく。

 ……頭が痛くなってきそうだった。


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