表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
44/171

番外編「ポンコツ元奴隷、英雄になる その1」

スピンオフ第一話です。

ちょっと酷な物語が続いてたんで、羽休めにどうぞ。

 偶には余談もいいだろう。

 実言うと、私、篠崎奏音はそれどころではない――私を愚弄したことに対する報復を為す準備で週末を費やしていたため暇を潰す時間さえもないのだ。

 だから、結構な余談だし、そもそもの話、今回に於いての語り部は私ではない。なのでさっさと今回の主役に座を譲ろうとしよう。





「ふぁああ……」


 少し、寝坊をしてしまったのです。私は急ぎ体をベッドから剥がし、顔を洗って準備をしましょう。


「あ」


 だけど、しっかりと目覚めて外套を羽織った時点で気づいきました。


「今日から二日……カノンさんはエンヌさんのところに籠るんでした……」


 これはカノンの忠実な(元)奴隷にして、八聖王へ並々ならぬ野望を燃やす少女――エーデルワイスの物語である。





 私としては二日の徹底指導の際も彼女の横に控えて観察していようと申し出たのですけれど、丁重にお断りされてしまいました。少し納得がいきませんが……ご級友の仇と言うことですから、素直に言うことを聞くようにしましょう。

 カノンさんには感謝し尽くしても足りないくらいですが、私は非力です。ですからせめて言いつけくらいは守らないと。

 というわけで、私は久しぶりの一人ぼっちを楽しもうと思ったのです。


 私はちょっとの小遣いをポケットに滑り込ませて街へ繰り出しました。


「おっと……またまた忘れるところでした」


 朝起きたばかりで、忘れてしまうことばかり。自分の部屋の机に置いている物を探し始めました。

 部屋は一人で生活を営むにしては広すぎます。最初こそは、カノンさんと相部屋になるものとばかり思っていましたし、そのためにメイド服を新調したというのに頑なに拒絶されてしまったので立つ瀬がありません。

 私の住まう部屋は木造の角部屋です。部屋奥に進むにつれて、斜めに天井が低くなっていきますが困ることはありません。其処にはベッドだけを設置し、それ以外の戸棚や服をかける葛木は扉の近くに置いています。あとは……そうだ、机と椅子もありました! 


 カノンさんがいつ遊びに来てもいいように余分に買いましたが、今のところ来てくれていません。実は部屋の家具とかの配置をカノンさんの部屋に寄せてみたわけで、我ながらいい出来な気がします。当のカノンさんは気づいていないようですが……。

 手料理には自信があるんですから、たまには訪れてきてほしいものです。


 私が少し散らかった机から見つけ出したのは眼鏡、という人間種の方々が造った文明の利器だそうです。カノンさんが昔住んでいた場所では普通に使われているようで、本来であれば度数という双眼鏡? みたいなのが入っているそうです。私は別に視力が悪いわけではありませんから単に硝子のようなものがくっついているだけですが……非常に便利な〈術式(エイジ)〉が施されている道具のようです。

 カノンさんは認識阻害を引き起こすツールと言っていました。

 私はご存知の通り妖精種フェアリーナと呼ばれる亜人です。残念なことにこの国では亜人は好まれていません、長い耳はどうしても皆さんの眼を引くそうで……その対策がこの眼鏡だそうです。この眼鏡をかければ、長い耳を皆さんは認識できなくなって、私を普通の人間と勘違いするようなのです。 カノンさんの元の世界では有名な人がそれを使っていたそうですね!


「よっし!」


 これさえ装着していれば亜人だと悟られることはありません。

 今日は……買い物です。





 奏音さんは唯一私の料理の腕を買っているようです。やいのやいのといいながらも満腹になるまで食べてくれるので、安心して作れます。 今日も今日とて食材の調達です。 そのために城下の街道に長々と広げられている市に向かいます。其処に行けば、色々な食材を手に入るので便利です。

 街道沿いの市はそれはそれは大層な盛況ぶりで、こと種類に関して言うとここ以上の品揃えはそうありません。生鮮食品や調味料類などの料理全般の店舗はさることながら、雑貨や古書といった特殊な購買層さえも意識された店舗もあって、日中は人の波が絶えることがありません。また、日が暮れると飲み屋が軒を連ねはじめて、日中とは違った客層が集い始めます。

 最近の日課はそんな闊歩するだけでも心踊る街道を自由に出歩くことです。奴隷生活時はそうそうできることではありませんでしたから。


(この二日間は特訓と聞いています。恐らく疲労困憊で帰ってくるでしょうから、さっぱりとした……野菜系の料理ですかね)


 じゃあ、野菜屋さんでしょうか。


「おじさん、こんにちは」

「ああ、君は……エーデルワイスちゃんか、いらっしゃい」


 うふふ、偽装はばれていないようですね。


「今日はどんな商品がありますか?」

「どれもこれも、新鮮だよ」

「うーん、じゃあ……これと、これと……」


 必要なものはある程度揃えることができそうですね。


「いつもありがとね、これを食べな」

「わぁ、これは……」

「とれたてのリンゴだ」

「ありがと――きゃっ」


 その時、私の林檎は掠め取られてしまいました。えっと……あれは男の子?


「あんの坊主!」

「彼は?」

「最近ここいらで盗みばっかやってるクソガキだよ!」

「なるほど……おじさん、これ持っててください!」


 街の中で悪事は見過ごせません――カノンさんの従者としても、主人の名に恥じない働きをしないと。


「追いかけます!」


 まだ距離は空いていませんから……間に合いそうです!


 


 

「こらー!」


 人混みは確かにありますが、その男の子はかなりの有名人のようで、彼の通路は自然と人が避けているようです。それに乗じて私もかなり楽に彼との距離を詰めることができましたが、いざ路地裏に入られると彼のホームグラウンドなのか、ぐんぐんと距離が開いてしまいます。


「こうなったら……」


 奥の手です!


「〈流水ウォーター・プール〉!」


 私は〈術式(エイジ)〉はあまりというか、殆ど使えません。ですが、水と火、電気であれば初歩中の初歩に限定すれば使うことができます。ですが、本当に基礎しか熟せず、大層な名前がついていても、ただ手元から蛇口を少し捻った程度の水しか出すことが不可能で、持続もできないのもあって普段は水道の水を普通に使っています。


 ではなぜ使ったかというと、放った水を彼の足元に忍ばせてやりたかったわけです。


「おわっ!」


 ビンゴです! 彼は足を滑らせて転んでしまいました!


「捕まえましたよ!」

「は、離せ!」

「暴れないでください!」


 ここでまた鞄からカノンさんの助言もあって持ち歩くようにしている紐の束を取り出します。何やら、紐は結構便利で、力が勝る相手でも手足を縛られてしまえば余程のことがなければ身動きが取れな苦なるというのです。

 私は真っ先に逃げようと果敢に戦っている男の子の手足に痕が残らない程度にぎっちりと固定してしまいました。そうすれば、後は煮るなり焼くなり私の自由ですから。


「くっ……なんだよ! お前!」

「なんだよ、と言いたいのは私の方ですよ! まったく、駄目じゃないですか、人のものを盗んだりしたら!」

「うるせぇよ! ぬくぬくと暮らしてる人間風情には――」


 ううん、この口ぶりからして……亜人かな? 

 浅黒くはありますが、エンヌ先生よりかはもう少し濃い色を舌肌に、クリムゾンレッドな目の色と、それとは対照的な白雪のような短髪に小柄な体格…………もしかして、小人族ドワーフさんですかね。

 もしかすると、彼も私の偽装に無事騙されてしまっているようです。

 衣服は長らく洗っていないのか、つーんとした嫌な臭いがします。それに若干汗臭いです。一応水浴びらしき身嗜みはしている風にも思えますが、あまり裕福な生活をしている方には見えませんね。


(私の記憶が正しければ、小人族ドワーフの里は数年前に滅びたと聞いていましたが……)


 数年前、同種族間の内紛が激化して、国力が著しく低下している最中に魔王軍が横槍を入れるように大侵攻を仕掛けて、蹂躙の果てに滅亡したと聞き及んでいました。もしかすると彼はその数少ない生き残りなのかもしれないですね。


 小人族ドワーフは個体の性質的に大人になっても小柄らしいですが、彼はいったいどうなんでしょう? 言葉遣いだけで判断すると子供ですが、それだけで判断するのはよくないですし、何よりも私に帰ってきそうです。

 彼ももしや、自分の居場所への戻り方を見失っているのかもしれません。私も妖精種フェアリーナですが、長らく故郷を知りません。というか……故郷に生きた記憶は何処にもありません。あ、いえ、別に記憶喪失というわけではありませんよ? 単に行ったことがないのです。


 昔、私は捨てられていてお母さんに拾われたはずなのですが、そのお母さんとはぐれたのは遠い昔の話です。


「おっと、そうですか、私が人間に見えますか、そうですかー」


 すこし、うれしかったです。

 しかし、これでは話が進みません。


「これを外します。余り口外しないでくださいね?」


 私が眼鏡を外すと、彼の瞳はみるみるとその様子を変えていきました。まるで腫れものを見るような表情は少しいい気分がしませんが――子供のすることです、いいでしょう。


「お前……妖精種フェアリーナか?」

「はい、その通りです。博識ですねっ」


 と、簡単な会話を済ませた後は本題に移ります。


「で、何故盗みなんて働いたんですか?」

「……そうしなきゃ食っていけないんだよ。奴隷になるなんて御免だ、こうやって盗みを繰り返して生きた方が余程簡単だからだよ」

「でも捕まっていては世話ないでしょう……」


 実際、私は彼をどうこうする所存はありませんが、過激な人であれば彼は真っ先に袋叩きにあってしまいます。私としてもたかが林檎一つでそこまでの重罪を科すつもりは全然ありませんが、説教はしないといけません。

 すると、彼のおなかが私にもよく聞こえる程に鳴り響きました。


「お腹、空いているのですか?」

「…………」


 これはしょうがありませんね……。


「林檎、食べていいですよ?」


 彼の手先の紐だけを解いて、地面に転がっている林檎を拾いあげます。

 おっと、これでは泥まで食べてしまいますね。手元で作った椀に再び水を作って、それで林檎を洗って手渡しました。

 最初は遠慮がちでしたが、私の行為に敵意はないとみなしましたか、ゆっくりと一口食しました。その段階で完全に警戒をなくしたか、二口目からは見分を構わずに貪りつき始めました。


(余程空腹だったようですね……)

「お前……変な奴だな、亜人なのに奴隷でもないし」

「ちょっと前までは奴隷でしたよ?」


 私のような外見的特徴が圧倒的に人間と異なる場合はあっという間に露見してしまいますが、もしかすると彼は案外誤魔化せるのかもしれません。肌の色がやや黒い人間は一定数います。ちょっと性質を調べれば露見してしまいますが……。


「だとすると、やっぱお前は恵まれていたんだな」

(心はやはり開きませんか……ですが、何か裏がありそうですね)


 なんとなく……今の彼は単独犯ではなさそうです。恐らく裏に複雑な事情がありそうですね。


「ちょっとここで待っていてください! すぐ戻ってきます!」

「……動けないから逃げやしないよ、まったく」


  念の為、もう一度両手は結んでおきました。一応ですよ?


 

 私が荷袋を持って戻ってくると、彼は不機嫌そうに待機していてくれました。


「さ、行きましょう?」

「って、どこにだよ?」

「君のおうち」

「な、なんでだよ!」

「お腹空いているんでしょう? なら、しっかり食べないと駄目ですよ」

「だからなんで俺の家になるっていうのさ」

「それは勿論、台所を借りるからですよ」


 彼は不平を次々と垂れながらも、私を自宅まで案内してくれました。なんだかんだでかわいいところがありますね。見知らぬ人を家にあげるのは抵抗があるようですが、料理の魅力には敵わないようですね。林檎くらいでは到底空腹が満たされていないようですので、折角ですから料理をもてなしてあげましょう。


「座っていてくださいね」

「……意味わかんねぇ」


 意味は分からなくて結構です。左程意味なんてないんですから。

 数十分が経過すると、簡単な手料理は完成して彼の前に並べられます。

 ふむ、家というのはかなり貧相ですね。台所といってもどちらかというと作業台に近いですし、加熱するにも外の共用の土釜を使うしか手段がないようです。部屋も家具はなく、木製の床にくたびれた芝を敷いて、そこに眠っているようです。これはなんというか、奴隷生活を思い出させられますね…………。


 兎にも角にも、不便さを嚥下しつつ、料理を完成させました。簡単なお肉と野菜炒めですが。


「ささ、冷めないうちに食べてください」

「……だからなんでだよ」

「お腹空いているんですから、食べないと。食べ盛りですし」

「わっかんねぇ……俺はお前のもんを盗んだんだぞ?」

「それはそうですが……もう説教しましたし、お咎めなしです」


 私も奴隷として困り果てていたところをカノンさんに救出して貰えました。なら、私も困っていそうな人がいるのなら助けない道理はありません。それに……私はそれこそ八聖王達のような強力な相手と戦って勝つなんてことはできませんが、こうやって空腹で今にも倒れそうな人くらいなら持ち前の料理の腕で助けることができます。

 そう、私は私の舞台で頑張りたいのです。


「食べて、いいのか?」彼の顔には不安の色が伺えます。


 ううむ、やはり親御さんはいないのでしょうか? そういった優しさにはまるで慣れていない感覚が犇々と伝わってきました。


「いいですとも、ささ」

「い、いただきます……」


 


 

「旨い! 旨かった!」

「そうですか、そうですか!」


 カノンさんは面と向かって褒めちぎることはありませんし、それが普通だと思っていましたが……こう改めて絶賛されると照れてしまいもしますが、何処か嬉しいですね!


「おかわりは食べますか?」

「た、食べる!」


 その時でした。部屋の外に、見知らぬ気配を感じ、私と彼はお互いにその方角を向きました。


「お客さんですかね?」

「はっ……」


 すると、彼は突然その形相を穏やかでないものにし、私の手を取り始めました。


「隠れて!」

「えっ、きゃっ!」


 そして、私は連れられるがまま物置に隠れました。


「ねぇ、どうしたというんですか?」

「見つかると……面倒だから、静かにして」


 息を殺すようにじっとしていると――複数人の亜人が部屋に踏み込んできました。乱雑に部屋をかき乱す様子を見るに、親しい間柄ではなさそうです。容姿は隣の彼と酷似した小人族ドワーフですが、身体の肉付がやや彼に勝っています。きっと、彼よりも年長者なのでしょうが、やはりまだ子供のようです。そんな彼は……掌に円環を浮かばせてどうやら部屋を索敵しているようです。


 私は彼の口元に掌を当てて、自身もじっと息を止めます。それでやり過ごせる自信はあまりありませんが……。


「いないようだな……ボスに伝えよう」


 ほう……索敵精度はあまり高くないようですね。カノンさん基準で考えていると必要以上に警戒してしまいますが、冷静に考えたら子供がそこまで大層に〈術式(エイジ)〉を行使するなんてことできるわけないですよね。実際、息を止めるだけで難を凌げる索敵なんて程度が知れています!


(ですが……ボス、ですか)


 穏やかな話ではありませんね。


(この子も、きっと巻き込まれていますね)


 それも、私が思う以上に壮大な話っぽいですね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ