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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第33話「幼女の本気なすごいのです」.

「よくお越しくださいました、そして配下の者がご無礼を」


 慇懃に話す彼は柔和な視線を私に対し送る。そう、これこそ長たる者に相応しい態度だ。外見に判断が左右して態度を改めるような人間は信頼がまるでできない。その点、ディルベルトの長ということを除外すれば彼は信頼に足る人間だ。


「私は此処にぶらりと遊びにきたわけじゃないの。人払いしてもらえる?」

「ええ、喜んで」彼が手を挙げると、団員は有無を言わせず室外に退去させられた。

「鶴の一声、か。飾りの王ではないわけね」


 一見すると他の筋肉質な団員に比べると痩身な彼を制圧することは簡単そうだが、そうしない理由があるのだろうか。絶対的な信用を勝ち取っているのか……或いはごろつき程度では到底歯が立たないか……。


「はい、この世界は完全な実力主義ですから。私のことはアイルズとお呼びください」

「そう、なら私の名前はカノン・シノザキ、好きに呼びなさい」


 彼は大樽の場所まで歩きより、綺麗な硝子製のコップに静かに樽内の果実酒を二杯注ぎ、私に手渡す。


「子供の舌にもきっとあうと思います」


 酒か、随分と闖入者相手に至れり尽くせりではないか。


「悪いわね、敵陣で出されるものを迂闊に口にしない主義でね」


 今更劇薬を盛るなんていう猪口才な真似はしてこないだろうが……相手の口車に乗せられて気を許すべきではない。気を許した途端洗脳される――というのは実によくある話だ。お生憎様で……私は端から他者を迂闊に信用なんてしない。だから土台問題のない話である。


「そうですか」

「どうぞおかけになってください、立ち話もなんですから」

「そう」


 彼が案内した席を事前にエンヌから拝借した魔眼で観測する。微量でも魔力(アビロイド)の胎動があればその時点で罠と断定できるが、その兆候は一切に感じられなかったため、私はゆっくりと腰を下ろす。


「さて、どういったご用件でしょう? まさか、此方も標的に?」

「そうね……本来であればじゅんぐりに此処を目指すつもりだったけれどどうやら予想外のことが起こったようね」

「はて、何のことでしょう?」


 これは素面の反応か、シラを切っているか――どっちでもいい、構わずに私は詰める。


「貴方が一番わかっているのではないの? アイルズ、貴方のディルベルトは危うい状況に立たされている。立たしたのは紛れもない私だけど、それにより起こった影響について私は問いたい」

「なんなりと」

「アニス・ノクタヴィアって娘に覚えはない? 短髪で茶の髪色、私より背丈がほんの少し高いけれど年齢は一緒だからわかる筈」

「……ええ、うわさ程度ですが聞き及んでいます。ここディルベルトと敵対する組織が城下の街の女児を誘拐した、と」

「目的に覚えは?」

「差し詰め、シノザキさん……いえ、ディルベルトへの攻撃でしょう」


 アニスを拉致したと思しき存在は、大方ディルベルトの地位を失墜させることにあるというのがアイルズの見解だ。拉致した彼奴等の筋書きはこうだ。

 “度重なる謎の人物からの攻撃を受け、団員も財も、ディルベルトを維持していく上での地力さえも失われつつある中、狂乱した長、アイルズら残党一派は愚かにも城下町の学院に通う少女を誘拐。売買することにより、復活を目論んだ。”といったところか。


「流石に国側も未成年の人身売買を見て見ぬふりをすることはない。加えて、そもそも必要悪として特例的に活動を黙認されていただけ……だから丁寧な捜査はしないわ」

「ええ、そうでしょうね。彼らはただ、あどけない少女に毒牙をかけた悪人たちを国力で討った事実さえ残ればいいのですから」

「理解が早くて助かるわね、では率直に聞くわ。彼女を攫ったのは何処の組織?」

「先ほどシノザキさんは我々を敵、と表現されていました。その意味をお忘れで?」


 まさかこいつ、提案を蹴る気か?

 いや、これも彼らなりの矜持というものか。一応状、私は堅気という判定を受けている。堅気の人間にそう易々とディルベルトという一大組織の冠を託せはしないか。 

 が、別に私は彼らにとって有益な提案を齎しに来たわけではない。


「別に言いたくないのなら、かまわないわ。でも考えてほしい、貴方にとっても悪い話ではない筈よ。そちら側の損失なくして敵対勢力を滅してあげるっていうのだから。そうね、私は傭兵とでも思ってもらえれば、何も問題がないのでは?」

「御心配には及びません、私めは既に対策に講じておりますから」


 ふむ、一斉攻撃でもかけるつもりか? そうなれば益々もって国が介入する事案になりかねないが。


「そ、だから私にはお引き取り願おうと? 随分と虫が良い話ね」

「そうでしょうか?」

「そう解釈できないならそれでいいわ――そもそも和平を結びに来たのではないのだから」


 私が魔導書の封に手をかけた瞬間、アイルズの右手は既に柄を掌握しており――、


「!」


 彼のサーベルの先端部が確かに私の眼前を過った。が、私の肢体を穿つ直前でサーベルだけでなく、彼の動き全体が静止した。


「無駄よ、魔眼で止めた」


 随分と使い勝手がいいわね、この服従の〈術式(エイジ)〉は。


「惜しかったわね、あともうちょっと初動が早かったら確実に私を殺められていた」


 ふむ、警戒の糸を解かなくてよかった。実際、余裕があったかというと明らかに嘘になる。彼の流れる所作は堂に入っており、完全に私を仕留めるべく動いた。その整った軌道は私の喉に風穴を開ける覚悟があった。

 なかなかどうして面白い男ではないか。


「なにをっ……その眼は……ふく、じゅう……」

「正解。流石ね、で、貴方はどうするの?」

「そんな魔力(アビロイド)……どこに……」いつの間にか彼の瞳が真紅に染まっていた。

「あら、貴方も魔眼の類が使えるのね」


 だが、色彩が異なっているのを視るに、性質にも違いがあるのか。

 剣技と〈術式(エイジ)〉も双方ともに兼ね備えているとは本当にすごい。盗賊の長という枠に収めておくには勿体のない人材だろう。


「今の言葉を聞く限り……その眼で私の魔力(アビロイド)量……魔力(アビロイド)を計っているのか」


 恐らく彼の双眸の力には“服従”の性質はない。エンヌの魔眼は主たる力として“服従”があり、その副次的な産物として“分析”が備わっているが、純正な“分析”能力と比較すると数段性能が劣る。それに対し、“分析”をメインとしているのならきっと数値的なレベルの分析ができるのだろう。


「貴女からは……微量の魔力(アビロイド)しか、それこそっ……年相応の――到底魔眼など……」


 身に魔力を有する者であれば誰しもが身体から漏れ出る魔力を、ある程度の術師であれば観測することができる。エンヌ程になれば放出を透明化できる〈術式(エイジ)〉を常時使用しているようだ。

 で、彼は真っ先に、部屋に招いた時点で私の魔力(アビロイド)を計測した。そのうえで、余りにも微量だったから勝機を確信したんだろうし、彼の中にはある種の固定観念があったのだろう。このような稚児が魔力(アビロイド)操作を実行しているわけがないと。


 彼の常識力の高さにある意味で救われただろう。

 オルセンなどとは数段上の術師であろうアイルズの策略は、それはもう完璧だろう。唯一の誤算を除いて。


魔力(アビロイド)量は戦力差を計る重要なファクターであることは紛れもない事実。だけどそれは裏を返せば自身の弱点、限界を露にしていることに等しい」


 そう、垂れ流しでは能力の上限を見境なく周囲に伝聞しているようなものだ。


「私がエンヌ先生に一番に教わった〈術式(エイジ)〉、何かわかる?」


 がちがちと歯を鳴らし、服従に抗えずに悶絶する彼にこたえられる余裕はない、か。


「教えてあげるわ――体内の魔力(アビロイド)量の調節よ」

「なっ――」

「当然じゃない。未知の相手を襲うんだから……手札は多いほうがいいでしょう?」

「それは……」

「貴方にその心得がないとは思わないけれど……常識的過ぎたわね」


 今日ばかりはこの体格に感謝をした。

 幼女の私を誰もが油断してかかってくれる。


「貴方はかなり腕利きの術師であることはわかったけれど……固定観念に囚われすぎているわ」


 稚児が持つ魔力(アビロイド)量なんてたかが知れている、彼の慢心の由来は根本にこんな考えがあったから他ならない。


「だけどまぁ、ここにきて知らない〈術式(エイジ)〉を見せてくれたことへの感謝も込めて……見せてあげるわ」


 ふっ、と魔眼を解除すると、筋痙攣を起こした腕から、サーベルは落下した。ふいに拾い上げて、反撃を講じるかとも思ったが、そこまで浅慮ではないようだ。


「貴方が見たかった――私の本当の魔力(アビロイド)量よ」


 習得したのは魔力量の制御の法だけ? その推察は少し甘い。一片を習ったのなら、もう一片の極端も推し量って然るべきだ。即ち、魔力の解放。平均的に放出される魔力量を遥かに超えた……いわばその人間の可能性の限界を放出して見せる〈術式(エイジ)〉だ。その〈術式(エイジ)〉は有用性という意味では左程覚える価値もないものだが……威嚇としてはこの上ない威力を発揮する。

 魔導書が勢い良く開封され、頁全体が光る。


「ぐ、ああああああああああああ!!!!」


 直視した彼は、堪えきれずに眼鏡を捨て去り、両の手で瞳を抑えた。


「がっ……ううっ、目が……あああああ!」


 そこから留まり切れず噴出する多量の血液。純白と藍染の瞳は真紅一色に塗り替えられ、左右の穴から流れる血流が彼の頬に軌道を作り、高価な服を汚した。

 彼は椅子から転がり落ち、のたうちまわっている。


「会話の席だというのに、随分と無礼なものね、それに――」


 私は這い蹲って距離を置こうとするアイルズに難なく近寄り、彼の髪を引っ張ってむりにその顔を此方側に寄せる。


「ただ私の魔力を計った程度で失明するなんて、いい気分がしないわね」



 呆気がなさ過ぎて、私の僅かながらの期待を返してもらいたいものだった。


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