第30話「女の子だって賢者タイムくらいありますよ?」
祝30話!
順調に進んでいるので、そろそろ番外編とかを書き下ろしてみてもいいかもしれませんね。
突発的な謎試験(結局何を試されたかはわからない)及び講評と銘打った交渉の席を立ちあがってから数週間は経過した。エンヌを突き崩した後も、休みの日を見計らって盗賊団を襲撃していた。
「ふぅ」
そして今日も一仕事終え、もぬけの殻――もとい氷漬けなった盗賊団のアジトの椅子に腰かける。
「どーぞお水です」
井戸水をくみ上げたエーデルワイスが瓢箪に詰めて戻ってきた。
「ありがとう」うむ、井戸水も悪くはない。
二つ目を襲撃した際は、オルセンの時と同じ轍を踏まないように、きちんと責任者と思しき人間だけを残し、討伐した。そして、簡単な組織の情報を聞き出した。この盗賊団はディルベルトという、盗賊の中でも結構権力がある組織だそうで偶然にも当たり籤を引いていたようだ。
主な盗品の流通経路はスラムへの還元だそうだ。学園がある都市以外の町村は割かし貧富の差が大きく、盗賊の活動が生命線となっているようだ。だから当初私は徒に流通を止めるのは如何なものかと考えたが、二回目の襲撃の際に責任者にやさしく問いただした時に言うには、後釜を狙う団体はごまんとあるようで、ディルベルトの勢力低下が町村の危機に直結することはないようだ。
(確かに、町村に富を供給さえしていれば必要悪として、眼を着けられにくいわね)
悪知恵が働くものだ。
それ以外に、事前に購入した地図に他のディルベルトのアジトの場所を記載するように言うと流石にそれは、と責任者が渋るものだから丁重にお願いしてみると、二つ返事で了承し、彼が知りうるすべての場所を正確に教えてくれた。
「今回、所有者不明の硬貨はこれだけでした……」
袋に詰められた過半数が銀貨。その一枚を掌で弄ぶようにくるくると回す。
純銀貨は指で数えられる程度で、金貨はない。あとは純銅貨や銅貨などが複数枚。
二回目の時も同様で、オルセンの時と比較すると収穫に乏しい。
「オルセン、器は小さいけれど懐は広かったのね」
「どうしましょう……」
「焦る必要はないわ」
一度目で大金を手に入れたのもあるから、ここからは掃討戦もといボーナスステージのようなものである。
それに……。
「でもすごいです! 学習の成果がもう出てるなんて!」
エンヌとのあの会話以降、彼女は私の提案を承諾し、家庭教師になった。
それにより、今の年次では到底履修することのできない〈術式〉に関する基礎知識を学ぶ場が確立された。今行ってる盗賊狩りはその実践でもあると、エーデルワイスは解釈した。
「そうかしら」
私としては特別な何かをしているという実感は特になかった。
何分盗賊達では手応えがまるでない。
エンヌから模倣した服従の眼の〈術式〉をかなり抑えて行使しただけで戦慄し、腰を抜かされては実戦ができやしない。別に進んで殺生をしているわけでもない、大半は魔眼の威力をちらつかせるだけで退散する始末だ。
今回も、好敵手がいないと判断した時点で、氷漬けにしてさっさと終わらせた。といっても、オルセンの時のような急速冷凍ではなく、ゆっくりと冷気を流し込むように学んだ調節の術を実践する形で〈術式〉、その名も〈氷結場〉を実行した。だけどこちらの想定の範囲を超える抵抗を見せることはなく、実に呆気なく制圧できてしまう。これではインプットができてもアウトプットができないではないか。これでは〈術式〉の名前を覚えるだけ終いだ。
(せめて術師でも来てくれたら模倣しがいがあるんだけど)
なんだったかしら、あのオルセンの……ああいう私の乏しい想像力を上回るような怪奇なものが見てみたくなる。
(ああ、ほんとオルセンを始末してしまったのが誤算だったわね……)
解凍したら再び生命活動を開始するなんて言うコメディみたいなことが起きることはなく、内臓が余すことなく凍結し、機能を停止してしまっていた。
「……さんっ、カノンさん!」
「なに?」
「どうかしたんですか? ぼーっとして」
「いえ、大丈夫よ」
「そうですか? 通常の授業の後にエンヌさんの指導もありますから……」
なに、元の世界でも学校が終われば、すぐに進学塾に籠もる生活だったのだ、これくらい物の数ではない。ただ……。
「あいつら、昨日も来てた?」
「ええ、複数人で寮の周囲を観察しているようですね」
その見知らぬ気配を察知したのは数日前に遡る。
というのも、最近私の近辺に学校の関係者とは到底思えない粗暴で統一感のまるでない服装をした男性数人が嗅ぎまわっているようだ。十中八九ディルベルトの残党だろうが、はっきりいっていい気分はしない。此方に実害はないから無視しているが……。
「でも、カノンさんに直接何かすることはないと思いますよ」
「そう?」
「ええ、だって普通に勝てませんし……ああいう奴らのやり口って、本人を痛めつけるより前に、本人に近しい配偶者とかを人質に取って、反撃できないようにしたうえで痛めつけるんですよ」
「下種ね」
堅気に手を出すとは、日本の暴力団を見習ってほしいものだ。
(だけど……)
それが事実なら少し気をつけねばならない。奴らが自棄を起こして、協力関係を結んだエーデルワイスやエンヌが殺害されてしまっては大変だ。エンヌは自衛できるから大丈夫だろうが、エーデルワイスは少し心配だ。彼女は別に術式に秀でているわけではない。来るべき日に、捨て身の一発打ち切りの〈術式〉を用意しているだけだから、流石に大挙で押し寄せられるとじり貧だろう。
「どうする? 私の部屋に匿うくらいならできるけど」
「大丈夫ですよ、確かに〈術式〉はからきしですが、多少の護身術程度は心得てますよ」
「そう、何かあったら逃げなさい」
「はい!」
「あとそうね…………暇な時間はまだあるし、その時に稽古くらいはつけてあげるわ」
「よろしいのですか?」
「ええ、実力をつけられるならそれに越したことはないし」
彼女が私なしでもやっていけるほどの強さになってくれれば有難い限りだ。
さて……あとはこの世界の父さんと母さんだが……。
「それで私の所に来たと?」
「ええ」
私は回収できる盗品を集めきった後に、その足でエンヌの部屋まで向かった。
「貴女の蒔いた種じゃない」
間柄としては教師と弟子だが……言葉遣いは対等なそれだ。
時折、彼女の場所に元からの弟子が訪れるときがある。その時だけは彼女の顔を立ててやろうと、言葉遣いを丁寧にするが基本的にはこんなフランクなやり取りだ。
「だから報告したのよ、エンヌ先生」
エンヌも標的とされる可能性が僅かにでもあるという事実を。
「貴女の予想の通り、私の身は私で守る。けれど暇ではないのよ、無理くり時間を練って、貴女に教える時間を作っているけれど別にそれ以外にもやることはあるの」
そういって、護衛を辞退した。
随分と面倒な物言いをするものだ。本来であれば情報を提供するのは此方なのだから頭を垂れてもいいくらいだが……それで彼女の気がよくなるのなら、今はそれでいいだろう。
「そうね、だから教えてほしいの、特別な〈術式〉を」
「何を教えればいいの?」
不承不承だが、彼女はそれを認可する。
「此方側にはない技術――衛星放送というのを知っているかしら?」
「遥か上空に打ち上げた機械、を使って遠距離の二点を映像で結ぶ……ね」
「そうね、機械は……この世界でいう魔導書とか杖とかのツールだと思ってもらって構わないわ。そして、私の世界では〈術式〉ではなく科学がその役割を担っている」
最初、”科学”という言葉がこの世界の人には認識されない言葉であったため、解説するのに苦労した。この世界の〈術式〉の理論体系となまじ似通う部分が多いため余計に時間を浪費したが、どうにか彼女はその全体像をなんとなしに理解したようだった。
「誰もがその力を享受できるというの?」
「力などではないわ、如何なる社会的弱者であろうが権力者であろうが任意に使用することができるもの」
誰も、携帯電話を器用に扱うことを異能力だとは思ったりはしない。それが元の世界などでは普遍なのだから。そして、会話中に気付いた元の世界とこの世界のギャップで目立つのは航空技術が未開拓の分野だということだ。
だがそれは理解に苦しい話では決してない。
〈術式〉が未だにこの世界の研究の先端的にあるのなら、態々、空高くを見上げる必要も暇も、どこにもないのだ。
「私が使いたい理屈は、距離の離れた点Aの映像をその衛星放送のように自由に見ることができる〈術式〉よ」
私の狙いはいつでも父母に近寄る影がないか観察できる状態を構築することにある。
「あることにはあるわ」
「含みのある言い方ね」
「有効範囲に対する消費魔力量が割に合わないということ」
「なんだ、費用対効果が合わないってことね」
「前からよく言っているけれど、その費用対効果って何なの?」
「ビジネス用語よ」
流石に術師には専門外の知識か。
これ、この世界に元の世界の経済学者を連れてきたら、歴史に残る偉人級の活躍ができるのではないか?
ふとそんな悪知恵が浮かび上がった。
「別に両親が住んでいる家だけを俯瞰できればいい、私に村全体を守る義理はないし。それに、そう時間はかからないわよ」
「どうして?」
「何れにせよ何時かは本丸に行くことになるのだから、それまでの時間稼ぎができたらそれで十分なの。重要人物以外の損失はコラテラルダメージ、所謂致し方のない犠牲よ」
「本当に野蛮な性格しているわね、貴女」
「野蛮? 私のことを言っているつもり? まさか、私は博愛主義者よ」
大変な遺憾の意を表明したいところだ。
だが、私は魔力消費に関しては特段意識しなくてもよい。事前に多量に仕入れておいた鉄釘などの粗鉄を一斉放出する時が来たようだ。




