第28話「結果発表のお時間です。」
結構PVも増えて、1500も近いですね。
2500PVを超えたらまた、企画をやってみようと思います。
深く眠ったような気がした。
目を覚ますと斜光がベッドにまで差し込んでおり、その橙色具合から太陽が既に傾いていることを知る。
「思い出した」
試験で少し無茶をした。
だけどその無茶も甲斐あって、勝利を収めた。自信を持った勝利だと自負できるものだ。
(それに……限界を迎えても一応は動けて、緊急回避レベルの〈術式〉は発動した)
今後はあのような向こう見ずな戦法は控えるべきね。逃亡用の魔力は残しておかないと。
「ん……」
書置きだ。
「うっわ」
また呼び出しを食らったようだ。
部屋の入室をするや否や、彼女は深く自身の背広の椅子に腰かけた。そして開口一番に……、
「貴女は馬鹿なの?」
叱責でも何でもなない罵倒が飛んできた。
「……いきなりね」
「わかっている筈よ、貴女は魔力切れを起こした。それでもなお体に鞭打ったのよ、たかが試験の為に」
たかが、とは心外な。こっちは真剣にやっていたというのに。
「粗削りだけど驚異的な肉体強化、制御度外視な〈術式〉の発動……終いには固有結界の破壊……どれもかれもが規格外よ――普通の子供、いいえ、術師でもどれかを使用した段階で魔力の枯渇を起こして……最悪ショック死よ」
ふむ、興味深い。
魔力切れを起こすと普通は死に至るというわけか。だというのに私は頭痛で気を失う程度……まるで頭痛が緊急停止装置みたいね。便利でいいけれど。
「それにこの魔導書」
エンヌは徐に魔導書を取り出す。私はというと、咄嗟に脚部に円環を発動する。
「待ちなさい――勝手に持ち出して悪かったわ」
私が臨戦態勢をとっているのを素早く汲み取ったか、即時に謝罪した。
「何をした?」
「解析よ」
ふん、勝手な真似を――悪意だけはないようだから、矛を収める。
「で、わざわざ人様の持ち物を持ち出して精力的に解析して――釣果はあったのかしら」
「…………いいえ」
嘘でしょ? 独断行動をした上で何の成果もなかったと?
会社であれば更迭レベルの愚行ではないか。
「〈術式〉を司る道具にはね、何もかもに名前と意味があるの」
悪びれず教師面をする豪胆さには私も驚きが隠せないが、何か弁明があるというのなら聞いてやらなくもない。
「だけど、これをいくら解析しても情報一つなく、そして名さえも存在しなかったの」
「つまり?」
「無名よ。本そのものが解析を拒絶するように解析の手をはじいたの」
「そ、でしょうね」
彼女ほどの精度は私にはないが、一応数度分析を試みたことはある。当然私も弾かれた。この無名の魔導書は嫌に頑固なようね。これ以上他人の手に渡り続けるのも癪なので、浮遊させて無理やり私の手元に戻す。
「体調はいいようね」
魔力の回復量は不完全だ。初めて〈術式〉を行使した時よりも回復が遅い気がするのを見るに、残量が著しく増大しているのだろうか? 打ち止めで瀕死の状態になればなるほど大成長するってなんだ、私は古の戦闘民族か何かか。思えば、頭痛を発症しても動けていた辺り確かな成長の兆しなんだったのだと思う。
「そう、ならよかったわ」
彼女は私にそうとだけ呟き、じっと私を一瞥した。彼女の瞳孔は琥珀に変色しているのを伺えた。恐らくあれは、現代に通じている専門用語を介して表現するとしたら、魔眼。ファンタジー作品、専ら魔法が絡む物語での常連だ。
初めてこの部屋に呼び出された時も、あの奇怪な瞳で私を睥睨してきたのに加え、何らかの効果が発揮されていた。全身に凝りが溜まるような感覚に襲われた……改めて明文化すると偉くけったいな能力の〈術式〉ね。
「効果なし、か」
エンヌはそう口走ると、ふっと碧色に瞳を戻す。
「貴女、何も感じていないの?」
「ええ」
今回に至っては、あの全身の凝り自体も感じなかった。
「そう、あの眼の〈術式〉の力の一つにね、服従というものがあるの」
服従、となると、あの体の怠さは無理に屈服させようという拘束力的な力が私に対して働いていたというわけか。それを知らず知らずに克服していたということか。
やはり〈術式〉の素養は明らかに彼女の方が上ね。技術以上に、行使できる〈術式〉の引き出しが圧倒的だ。恐らく……試験という名目を抜けば今の彼女には勝てないわね、此方側の出せる手札と彼女の持つ手札の数に差が開きすぎている。
だけど、一度見た〈術式〉は何としても模倣して見せる。技術を盗む……とはまた少し違うが、可能な限り手中に収めてやる。
魔眼というくらいだ、イメージを集中させるのは先ずもって双眸と認識して問題ないだろう。服従……ということは、想像するとしたら奴隷紋と似通った性質を有しているのだろうか? 奴隷紋は事前にRPGのコマンドに酷似した画面が浮上し、其処で奴隷に与える権限を調節した。要するに、そこで選択できる条件を“服従”のみに絞り、それをコマンド画面ではなく瞳に置き換えた――そういう過程を経ているのだろうか。
複合した演算を課す行程を単一の処理に留まる形式に落とし込む――私が思考した果てに到達したイメージはそんなところだった。つまり、複雑に考えず、シンプルにやれっていうことね。あとは、魔導書にその処理を代替させるだけ。
私が徐に魔導書を使用しだすも、彼女は然したる動揺を見せる気配はない。
「動揺してもらわないで助かるわ。まず私に敵意はない――これは実験、要はエンヌ先生、貴女の真似よ」
私がエンヌ女史に対しての立場だけは明示しておく。実験を本格的な攻撃と錯覚されて反撃されたら敵わないから。
「何を――なっ」
ふむ、鏡を持ちよらなかったのは失敗だったか、変化がエンヌ越しでしかわからない。
意識が瞳に集中する感覚は、目を凝らして対象を眺める感覚と類似していた。注視する対象は、勿論エンヌだ。エンヌを捉えた途端、ぐっと体の一部から力が抜けた。
(奴隷紋を剥奪した時ほどではないが、多少の体力消費が起こっているわね)
うーむ、基礎体力に難ありね。年齢的には無理もないかもしれないが……高度な技術に成長が追い付いていないのかもしれない。あの時みたいに意識を保つのも困難ということは決してないが……長時間はきついわね。流石にエンヌの部屋の物を勝手に通貨とするのはいただけないし、まぁ、こんなものだろう。
当のエンヌはというと、オルセンのアジトを襲撃した時みたいな露骨な混乱や外見への変化は確認されてないが……微かに足元が打ち震えている。それと同時に、私の身にもほんの少しの痺れが起こる。エンヌの抵抗が伝っているのか? これまたオルセンの時には感じなかったものだ。だが、これも耐えられない程ではない。
魔導書が更にけたたましく頁を移動させると、ぴしっとある個所で止まる。そこは最初こそは白紙だったが、青白光に輝く文字が数行分、浮かび上がる。その状態を維持していると、遂に彼女は膝を、地面につけたではないか。
(流石にこれ以上はやり過ぎね)
ふっと、瞳に集中させた意識を解く。すると彼女の武者震いは解消され、唇を噛みながら、射抜くように私を睨みつけ、立ち上がる。
「少し……おふざけがすぎるわよ」エンヌはそういう。
「ごめんなさい、今はまだ自分の〈術式〉の全てを熟知していないの――ただ、連想する能力がその真価を発揮する、以外はね」
「連想する? それで〈術式〉が発動するなど理解できないわ、〈術式〉とは座標の指定から干渉、阻害する抵抗値の導出、作用範囲の演算という過程を踏まなければ何も起こらない」
まさか、そんな大それた作業を術師は一から律義に行っているというの?
オルセンとの闘い、いえ、蹂躙の後に知ったことだが彼は割かし悪名高い賞金首だったそうで。それもエンヌほどではないそうだが、腕利きの術師として一時は他国の宮廷に名を轟かす程だったことを知った。討伐者と名乗り出るのは面倒だったから口を噤んだが、知らず知らずのうちに結構な大物を狩っていたようだ。
(思えば、エーデルワイスも一世一代の呪術以外の〈術式〉はからきしだったような)
相手の意思を介さずに生殺与奪の権利を握るほどの大技を我が物にするために彼女の見かけによらない50年余りもの亜人生は費やされたと考えると、かなりの壮大な計画だったのだということがわかる。
「そう、私自身も理解をしていないの。だからこそ、こうやって尋ねに来た」
「貴女、何を?」
「私と取引をしましょう」
彼女も非常に興味深い。やり方によっては面白い結末になりそうだ。
この場で、完全に彼女と協調関係を結んでやろう。




