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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第20話「アイスクリームが嫌いな女の子なんているの?」

800PV突破しました!

この土日は多くの読者様と出会うことができて、とても幸せでした。

これからも頑張ります!

 私が物思いに耽っている様子を余程不可解に思ったか、オルセンは喜悦とも慢心ともとれる表情を緩めだす。私が想定していた態度をとらなかったからに他ならないだろう。

 彼が望んでいたこと、それはきっと私がニックの処刑の場を見て戦慄し、首を垂れること――そこまでいかなくとも、怒り狂う様は見たかったのだろう。


「驚いた、この女、これほど血を見ても何も感じないのか」


 拍子抜けた問いをなげかけた。

 私としても取り合う筋合いはまるでないから、適当に返す。

 

「見慣れているから」


 ふと、私は元の世界の顛末を思い出した。が、今は取り留めのない話だ。


「まぁいい、憎たらしいガキだが、顔はそれなりに整ってやがるから売れるだろう」


 ニックを処刑して、調子づいたか?

 ふん、薄汚れた大義を果たしてしたり顔というやつかしら。

 下卑た表情が、ただでさえ厭な顔の醜さに拍車をかけた。こいつ等、盗賊稼業だけでなく人身売買も生業にしているのか。益々もって度し難い。いやマジでこいつらどうしよう。


 ……ああ、もう考えるのやめ。


 元の計画を遂行しよう、少し感傷的に考え過ぎた。

 気づけば、ニックを処刑し終えた構成員は私を取り囲んでいる。その中の複数人は下品な舌なめずりをしている。


(この世界の性的趣向はかなり偏っているのかしら、いいえ、こんな洞穴暮らしじゃ女日照りになって性癖も歪むというやつか)


 もういいや。こいつらについて考えるのには、ほとほと飽きた。


「!」


 オルセンは驚愕したが――それもそうだろう。

 突如、獲物を構え、私を組み敷かんとしていた仲間たちが地に伏し、卒倒している。このオルセンという醜男以外は多分術師ですらない――数合わせの馬鹿どもに態々時間をかけてやる必要もないと、私がばっさりと切り捨てたものだからだろう。


「もうおしまい、か。味気ないわね」

「な、なんだ、お前、今のは……」

「見ていなかったの? あまりにも暇だったから、ぐるっと一周して当て身をしてあげたの」

「法螺も大概にしやがれ! そんな動きが……」

「体内の代謝の調節、それは術式の基礎――貴方は私よりも術師としての歴が長そうだし、自信満々なのだから知らないことはないでしょう?」

「馬鹿にすんじゃねぇよ! そ、そんなの基礎中の基礎だ」

「そ、基礎、その通りよ。そこそこの進学校なら、入学以前に習得している子だっているくらいに」


 オルセンは何か言いたげだが、追撃してやる。


「私はつい数日前に入学した新参者、くくっ、違うわね、数週間前に物心をついたといった方が正しいわね――そんな人間だから、貴方よりも知識はないわ」

「ぐっ……」

「だから、当然止められるわよね」


 すっと、代謝を最大限に高め、踏み込む。が、目前で敢えてそれを消し、姿を現す。


「見えたかしら?」


 足蹴。

右足を地面と水平に、軸足を地面と垂直な一直線とし――彼の腹部に極限まで力を集中させた蹴りを見舞わせる。が、有効打にはまるでなっていなさそうだ。

 蹴った瞬間、贅肉が激しく揺れる。肉の壁とはこのことか。


「舐めやがって!」


 初撃を許してしまったオルセンは、実に分かりやすく顔を紅潮させて怒る。

 一歩後退したオルセンは杖を手に取っており、ぶつぶつと小声で呟いたら、幾つかの円環が現れる。そこからは白く光る槍状の刺突武器だろうか。


(へぇ、こんなのがあるんだ)


 私は鞄からそそくさと魔導書的な書物を取り出す。

 相手が武器をもって挑むというのなら、それに合わせる。

 そうめ。イメージは……透明な壁、バリアー。

 すると、ふわっと頁が捲れ、見えない薄壁が生じた。

 

 オルセンが勢いよく槍を射出すると、その全弾が急造の薄壁に接する。私としては強固な壁が迫る槍を悉く相殺し尽くす想定だったが――少し違った。槍の先端が壁の曲面と交差した瞬間、にゅうん、という気が抜ける音を立てて、曲面が内側に弛んだ。

 イメージとしては……ピンと張った網に野生動物が食いついたような感じだ。野生動物は勢いよく突進するから、限界まで網は内側に引き込まれるが、それには限度があってある段階で停止する。そんな感じだ。


「なに!?」

「便利ね、強度面は要検証だけど」


 持てる斥力の全てを以てしても突破することができず、槍は次第に威力を減衰させていって……最後は蛍の光程度にまで縮小して、最後は消えてしまった。

 うーん、なんか締まらないな……。

 よし、こうなったらせめて攻勢くらいはきちんとやってやろう。

 私は見様見真似で奴の使った〈術式エイジ〉を模倣してみる。


(ううむ、光の攻撃か? 当たった瞬間、いや、当たった瞬間はじけていたから)


 白くて、光沢もあって、脆く崩れやすいといわれて真っ先に想起したのは氷だった。

 ふむ、氷結魔法か――悪くないわね。

 それを軽く数本目の前に浮かべて、彼に目掛けて射出する。


「んなっ!」


 彼は、即座に私の下ように防護の〈術式エイジ〉を展開し、防ぎきる。

 やっぱり処理速度や経験による対応の早さは彼奴の方が上か。


「こうなったら……!」


 オルセンは徐に杖の底の突起部を地面につけた。すると、深紅の宝玉はより一層の輝きを放って、綺羅星のようになる。そしてその点を中心に地面に円環が大きく広がる。普段のような単純な正円だけではなく、そこには複数の幾何構造が見受けられ、数多の文字列も記入され始める。

 威力は高そうだが……如何せん詠唱時間ならぬ演算時間が長すぎるわね。

 今は待機するのも一興としているが、普通ならその間に殺されてしまう。


「くはははは! 見るがいい! 少し素質がある程度で粋がっている小童には到底突破できない御業を見せてやろう!」

 

 小心者を体現する発言、どうもありがとう。


「〈業火の大輪フレイム・パンジャンドラム〉!」


 ふむ、虚勢やこけおどしではないようだ。その円環の外部にて突如にして業火を纏った車輪が生じ、活動し始める。それは瞬く間に部屋を転がり、その軌道が全域に至る。器用に気絶した仲間たちの間を縫うように通る調節ができる器量程度は残っているようだ。

 通過した箇所には黒色の炎が残留し続ける。

 そのせいか、あっという間に部屋中の温度が跳ね上がる。

 その車輪はひとしきり炎をまき散らし終えると忽然と消えたではないか。


(幻覚というやつかしら……いいえ、ものすごく熱いから紛れもない炎)


 髪が少し焦げる匂いがする。杖による借り物の力か、オルセン自身の素質に帰依する力か、はてさて。見たところ、私の周りにもまだ炎は到達していないが、じわじわとその範囲を狭めつつあるように見える。恐らくは少しずつ火炙りにし、嬲り殺すか降参するのを待つつもりだろう。そしてあの円環内が温度変化に影響を受けない安置といったところか。

 が、別に臆することはないだろう。火炎放射のように直ちに緊急回避をしなければ大火傷を負うわけでもない。相手がじわじわと私を燻製にしようとするのなら、その分対策が練れる猶予があるということだ。

 安直に考えれば、初めて実地で術式を試した時みたいな大量の水を出すのが良いだろうが、あの炎が油分を一切含まないとも断言できない以上、避けるべきだろう。じゃあ、濡れタオルか? いや、流石に部屋中の火を消せるタオルを作る手間は面倒だ。


 だとしたら……温度を下げる?


(イメージは、学校探索した時の雑多なフィールドの再現)


 そう思考すると、凄まじい勢いで本の頁が躍動。何かを検索しているような挙動を見せたかと思えば、ある場所でぴたりと静止した。


(凍土のような、植生の発展を許さないような極地……)


 よし、意匠返しをしてみよう。


「〈氷のお菓子(アイス・クリーム)〉」


 うわ、我ながら絶望的なネーミングセンスね。

 恥ずかしくなるような思いに駆られた瞬間、炎をかき消した。それどころか、伸びた冷気は瞬く間に絶対零度に至り、文字通り全てを凍り付かせた。


「えええっ」変な声がでた。


 適当な名前を叫んだのに、こんな高威力が放てただなんて。見ると、少し地面が削れている。車輪の行進の際にはなかった穴であるが、通貨として支払われたのかもしれない。それにしても……無茶苦茶だ。サウナのような場所が極寒の地に代わる。一瞬間の絶対零度が経過すると、北極程度の温度辺りに収束こそはしたが……それでも十分な寒さだった。


「あっ」


 見ると、オルセンを始めとする構成員諸共が氷漬けの、物言わぬ像になってしまっていた。


「うわぁ……失敗した、いろいろ聞きだそうと思ったのに……」


 それ以上に、稼ぎ場の一つを壊滅させてしまったのが痛い。


「しょうがないか……回収できるものだけ回収して帰ろう」

「待ちなさい」


 物陰から声がして、またも警戒を厳にしてしまうが……すぐに解除できた。


「エンヌ先生に……エーデルワイス?」

「え、えへへ……」

「これは……どういうことなの?」


 最悪だ。

 面倒な場面を見られてしまった。

 さてさて、いったいどうしたものかしら?


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