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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第19話「裸の王様」

祝700PV突破!

これからも頑張ります!

 白髪の好青年は約定通り私をこのアジトの責任者の場所へ案内してくれた。

 素直でいてくれて、私としてはとても有難い。

 ある程度戦力差を見せておいたから自棄を起こさないだろうと踏んではいたが、冷静に考えれば刃ひつつでも構えておけばよかったな、と後にして思った。


 今回こそは脅迫対象が捨て身の反撃を仕掛けてこなかったが……場合によっては起死回生を狙う相手もいるかもしれない。

 ところで、最初はアジトの責任者が居座る部屋だから少し扉からして違うとばかりに思っていたが、実際は他の構成員が待機、歓談していた先程の部屋のそれと遜色なかった。 

 だが、それもそうか、ここが本部ですよと教えるのはよくないだろう。


(それにしても)


 どう仕掛けようか?

 アジトのボスとやらは私が初手、白髪男以外を鎮圧した騒ぎを多分知らない。

監視カメラ的な概念がある可能性が低いだろうし。

 あるのなら私が一つ目の部屋に、いや、守衛の双子を蹴散らした時点で迎撃はなくても逃亡といった行動がある筈。敵前逃亡は恥と考える癖がありそうだから、多分一つ目の部屋に引き籠った時点で包囲戦に挑んでくるだろう。

 それらの兆候を見せる様子が一切ないのは、つまりそういうことだろう。私の最初の行動を全く知らない。

 

 だからこそ、どう立ち回るか。

 扉の先にいるボスとやらには私と白髪男の光景はさぞ滑稽に映るだろうね。

 白髪男がこのアジト、ひいては盗賊団の中の序列がわからない。この白髪の男が序列の最上位の次辺りに位置していれば、事の重大性を理解するか? 

いや、何位であっても私の存在は意味不明か。

 どっちにしろ説明をしなければいけない。その説明の方法のやり方なのだ、結局のところの問題は。

 別にさっきと同じやり方で秒殺する……というのも定石ではあるけれど余りにも芸がない。できるならばの話だけど。


(あー、こんがらがってきた)


 すると、白髪男はさも指示待ちといわんばかりに扉の前に立ち竦んでいることに気付く。ああ、うっかりしていた。

 そうか、彼は今人質なのだ。私の命令なく勝手はできない。

 

「入れて頂戴」

「は、はい」


 それを彼がどう解釈したかの詳細はわからないけれど、おそらく都合のいいように解釈してくれたのだろう。

 彼はそっと扉を開けると、部屋の最奥には小太りの男がいた。悪趣味な金色のバスローブのような、繋がった一枚の布を纏っているわけだがそれ以上に頭頂部の光の照り返しで吹き出しそうになってしまう。


(バーコード……)


 皺も多いが、何よりも贅肉のせいで顎と首が繋がっている姿にはまるで威厳が感じられない。頬や掌など、衣服より露出している場所にも余すことなく無駄肉を張り付けたような外見で印象は最悪だ。脂ぎっているのも相まって、シンプルに近づきたくない。

 部屋の構造は基本的には他の部屋と変わらないが、少しだけ奥行がある。奥には複数人が囲める食卓があり、そこには汚らしく食い散らかされた食事の山が物々しい香味を放ってはいるが、まるで食欲がそそられない。きっと配膳の問題だろう。大皿に叩きつけられるようになっているものだから、見栄えは最悪である。


 ほんとイメージ通りの男といったところだ。


 部屋奥にはまた扉が通じている。金庫だろうか?

 これが少なくともこの施設における長か……物凄く興醒めだ。というか、ここまで奴が腑抜けているのなら構成員が束になったらすぐに下克上を起こせそうなものだが……そうしない理由があるのか。

 確かにあの食卓を見る限り、財源を切り詰めてひもじい生活を送っていることはなさそうだ。それに、部屋の壁には勝ちこそは私にはわからないが、掛け軸的な鑑賞用家具の類も見られる。あの醜男の財力に寄生しているのだろうか。

 

 いや、あれか。

 

 彼の真横に据えられた大袈裟な木製の杖に眼がいく。頂上にはよく精錬されているのか、煌めいている紅色の宝玉が独自の存在感を放っている。


(あいつも術師か……)


 おそらくあの杖が、私でいうところの魔導書の代わりだろうか。まぁ、わかりやすくてよろしい。


(やはり術師はどんな場所でも重宝されるのかしら)


 数日間学んで嫌とでも知ることとなったが、この国では全人口に対して比較すると術師は不足気味……だからこそ学校内で厳選し、熱心に教育している。


(うーん、戦力差がわからん。やっぱいきなり制圧するってのはなしね)


 小手調べ……という言い方は適さない、か。取り急いでは戦力差を計る。勿論だが此方の条件を呑んだうえで平和的に解決するならそれでいい。

 それに……今までは〈術式エイジ〉さえも十分に使えないチンピラを相手どることしかなかったからか、純粋に術師との戦いに興味が湧いている。戦力差が不明だから本来は遊ぶべきではないが、色々と試してみたい。


「どうした、何が起こったというのだ」


 初手攻撃を仕掛けてくることはなかったが、うん、かなり動揺しているな。


「こ、この者が、オルセン様にお会いしたいと……」

「何をそこまで畏まる。何処の家元の娘だ、こんな娘知らんぞ――」


 露骨なものね、もしも私があの街一番の貴族の第一令嬢だったら地に這い蹲って頭を垂れ、国賓級のもてなしをするつもりだったのだろうか。

 何れにしても粗末な男だ。

 私の立場が何であれ、初対面の相手がたとえ年端のいかない幼女でも初手は礼節をもって接するべきだ。人生経験が高々十余年の私でも体裁はそうするだろう、それがどれほど経験不足で不格好だとしても。

 だが、目の前のオルセンという男性は見知らぬ私を不気味な人物として扱った。いや、まぁれっきとした不審者であるんだけど。


「悪いわね、私は贅沢一家の娘でも、政府高官の血筋でもない、のらりくらりと路銀を稼がんと画策する人間でしかない」


 名乗りはこれくらい臭いのでいいだろう、どうせ何を言ってもこの体じゃ信用してもらえないだろうし。


「おい、じゃあなんでこんなガキを通したんだ? 食事の邪魔をしてまで」


 ああ、もう語るに落ちたわね、対応が露骨すぎる。

 最後の確認。


「貴女がこの……組織? の長かしら」

「何が言いてぇ」


 めんどくさいわね……。


「質問を質問で返さないで、私の質問に先ずは答えなさい」


 疑問文には疑問文で返すな、とかなんとかである。


「ガキが舐めた口を利いてるんじゃねぇよ」

「では世間をなめたガキに諭される貴方はいったいなんなのでしょうね」


 オルセンは血管を蟀谷に浮かび上がらせ、上下の歯をきつく噛んでいる。やはり煽り耐性は皆無か。もう確かめるまでもなく此奴は場末の管理者程度の地位に留まってるだけの男だろう、身なりがそれを証明している。

 でも、むしろそれがよかったと思う。いきなり本丸に打撃を与えて、そこから組織が尻すぼみになってしまったら効率的に路銀を稼げなくなる。


「おい、ニック、見張りの奴らや当直の奴らは何してやがる」


 白髪男の名前だろうか、だが、私が先んじて答えてやった。


「睡眠不足だったらしいから、よく寝かせつけといてあげたわよ」

「何を言って……」

「ボス! 一号室の奴らが全員縛られています!」

「なんだと!? 今すぐ残ってる奴らをかき集めろ!」


 敢えて、見守ることにした。

 そこからは以外に集合が早く済んだ。避難訓練でそれができたら、校長の講評が明るくなるくらいには。

 ひい、ふう、み……ざっと十三人が私の後ろに張り付いた。


「とっつかまえろ!」残党が動き出したが、彼らは誰一人と私に触れようとせず、ニックなる男を取り押さえた。

 こればっかりは驚いた。


「貴方……血迷ったのかしら」


 私の発言にはどこ吹く風のようにオルセンは構成員に告げた。


「ニックが謀反を起こしやがった、やっちまえ」


 なるほど、理解した。

 私が成したことは余りにも信じがたく、非現実な話。

 それを脚色なく報告されたオルセンが選択したのは思考の放棄。次いで最もらしい合理化、ニックなる白髪男を謀反者と断じて有無を言わせず磔刑にすることで、場を収める長としての威厳を保とうとしている。愚かな、ここにきて保身に奔ったのか。


「待ちなさい、彼は本当にただの案内人よ。一番話が通じそうな相手を選んだだけよ、彼に罪はないわよ」

「やっちまえ!」


 言葉に一切耳を傾けず、ニックの首元にナイフを押し当てた男に命令を下した。

 そして、ニックの弁明に一切関せず、ナイフをすっと引いた。すると、鮮血と共にニックは地に伏した。頸動脈に深く彫り込まれた傷口を見るに、治癒は間に合わないだろう。

 オルセンは惜しみなく部下を殺した。それが必要性のある犠牲ならまだいいだろう。だが、これは完全に無意味だ。自分本位な断罪、独善的なオルセンだけの正義だ。

 

 私はそれを認めないし、心より否定する。

 

 だが、此処でニックを救うことは私の正義ではない。これは彼の選択だ、この組織に与すると決めた、彼自身の。様々な背景があったのだろう、こう在る理由、こう在らねばならなかった因果、オルセンの人間性――全てひっくるめての選択だ。だからこそ、この死はある種不運が作用した結果なのであって、彼の選択の結末なのである。その結末を歪める真似も私は否定する。


 だけども、その不幸を彼にもたらしたのは間違いなく私だ。

 だから……その清算だけは済ます。

 安心して、ニック――潔白は示せなくとも、裁きは下すから。


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