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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第18話「カノンのはじめての制圧戦」

祝600PV!

これからもよろしくお願いします。


エンヌの魔眼について、少し加筆修正を行いました 6/7

 洞窟内は薄暗い。その問題を解消できるようなライトは持ち合わせていなかったのを少し後悔した。


(こんなことになるのならスマホは捨てないで置いておくべきだったわね……) 


 離れた感覚で蝋燭の火は揺らめいているが、視界が明瞭ではない。

 背後を取られることはないと思うが、気を抜かないようにしておこう。


「あ」


 地面にスキンヘッドの大男が横たわっている。突き当りの曲がり角まで吹き飛んでいたのか、十メートルくらいはあったのだけど。

 そして、曲がるとそこにはまるで民宿のように複数の部屋に通ずる扉が並んでいた、総じて六個くらいか。虱潰しにあたっていくのがいいかしらね。

 

 そうだ、いいこと思いついた。

 相手を傷つけず、且つ反撃の隙を与える間もなく無力化する方法を。

 

 イメージ勝負だ、今の私が欲しいのは、制圧する際に便利なもの。

 例えば……手錠?

 いや、都合よくひっかけられる場所があるとは限らない。

 ならロープかしら。ロープの組成はわからないから、何か代用できるような……。


(これで……どうだ)


 手始めに私は白光する鞭のようなものを作ってみた。光なんてどう作ろうかと最初は立ち止まったが、微弱の電流を束にしたら代用できるのではないか、と思い至り、思いつく低レベルな電気系の〈術式エイジ〉を試してみると予想通りに完成した。

 一度引っ張り、強度を確かめる。高圧電流ではないが、手でしっかり握ると少し痺れが起こる。威力の調整も申し分なさそうだ。よし、万全だ。

 

 それを確かめたうえで、敢えて代謝を限界まで高める。

 数度の深呼吸の後、扉を勢いよく蹴り抜いた。

 脚力も目覚ましく倍増しており、勢いよく蹴るだけで金具は弾けとんで、木製扉は前方へ突き出された。

 が、私の思考・行動の方が断然と速いらしく、木製扉は空中で動きを止めた。


(蹴った時にかかった加速度が相殺されて零になったってこと?)


 本当に時を止めたようだ。

 成る程、余りにも素早く動けるのは時間停止が可能なのと同義ということか。

 室内には……小悪党みたいな取り巻きが二人に、先の男たちよりも巨大な男、そして比較的会話ができそうな好青年……そして武器は巨大男の横にこん棒、小悪党にはそれ相応のナイフか。当然扉の破壊にも、私の存在にも未だ感知していない。


 うむ、やはり好青年以外を制圧してしまおう、そのためのロープだ。


 私は机と寝床、あとは各壁面に衣服や武器をかけるような杭くらいしか十分にない部屋を一周し、先ずは部屋の壁際に好青年以外の男どもの手足を縄で拘束し、動けぬようにしておく。

 一息ついて、確認する。好青年以外は無事拘束できたわね。

 安心して展開していた〈術式エイジ〉を解除する。

 すると、喧騒が起きるよりも早く辺りが静まった。

 本来ならば怒り狂い、喚き散らすものだが、余りにも突飛すぎると成程、声も出ないか。突然身動きが取れなくなっただけではなく、目の前には童女がいるわけだし。

 

 次いで彼らは思うだろう――守衛は何をしていた? そして何故彼女は勝ち誇った表情で佇んでいる? 

 幾つもの不可解な疑問が室内の盗賊達を駆け巡り、自然と押し黙らせずにはいられなかったのだ。


「……何者だ?」


 その中で唯一、自由が保障されていた白髪の好青年は問うた。


「喚ていてくれなくて有難いわね。少し……聞きたいことがあるの」


 好青年は表情を強張らせた。下っ端の構成員にしては豪胆ね。


「なんだ」

「このアジトで一番地位のある人間のいる場所に案内しなさい」

 


 今、この場にいる人間はこの光景をどれほど滑稽に思っただろう?

 私だったら噴飯ものだ。

 だって、幼女が謎口調で脅迫してきてるんだから。





 洞窟から僅かに離れた場所の空気がふわっと上向きに揺らいだ。

 土埃を上げながら形成されるのは魔力アビロイドによる人の像だ。

 本来であれば不可視である魔力アビロイドだが、ある状況下では例外的に一般人でも可視化できる状態がある。それは〈転移スライド〉が発動された時だ。

 その術式エイジは事前に定義した物体・物質を、任意の空間に転写する高次な技術だ。無論並の術師では再現できないし、素質の乏しい人間はその基礎知識さえも習得できない。

 しかし、この国にはその術式を体得した驚異的な術師がいる。

 エンヌ・ハイゼンベルグだ。

 エンヌは、先日のカノン・シノザキとの面談以降、彼女の持つ魔眼の性質の一つである〈魔力探知サーチ・オン〉働かせていた。簡単に言うと彼女の瞳を、指定した相手を監視する中継器とするのだ。先にエーデルワイスが発見していた光球こそが、彼女の魔眼そのものということになる。エーデルワイスがカノンと解散後、観測した事象の実態だった。

 本来は別地点の映像を観測する〈術式エイジ〉は演算・発動並びに維持にも多量の魔力アビロイドを消費する性質であるために一般には忌避されている〈術式エイジ〉である。実際、エンヌもそれを行使することはないが、彼女の魔眼はそれらの所作を低コストで行使できるという特殊な例とも呼べよう。

 幾つもの地点を観測することは不可能だが、一度認識した魔力アビロイドが途絶えるまでは永久に追従し続けるという高性能さは、他の術師ではそう再現できる力ではない。それを遠慮なく使い、エンヌは業務の傍らカノンの動向を追っていて異変に気付き、今に至るわけだ。


(此処は、ディルベルトのアジトの一つ)


 ディルベルトとは、幾つもある盗賊団の中でも巨大な組織の通称である。

 その名は、盗賊とは無縁の市民の中でも知られている程だ。


(校則違反はどうでもいいけれど……先の動きは何?)


 恐るべき反射速度で守衛を制圧した。監視する最中、予想外の事態に口に含んでいた珈琲を零しそうになってしまった。それほどに異様な事態に、ついぞ我慢できなくなり、この場所に転移した。

 エンヌであれば目で追えない速度では決してないが、何度も表明しているがその年齢が問題なのである。カノンは亜人種であるという報告はされていないから、容姿のわりに数百年生きているなんていうことはない。だから異質が深まる一方なのだ。

 だが、エンヌは決めた。その瞳で刮目すれば……すべてのカタがつく。

 そう思い立ったが吉日、その場に至ったのだ。

 エンヌは迷わずにアジトに歩を進める。卒倒している男など、端から生物として認識していないかのように。が、入る直前で止め、木陰に向かって声を上げた。


「其処にいるのはわかっているわよ、出てきなさい」

「あ、あうあう……」

「貴方は……妖精種フェアリーナね」

「そ、其方こそ、半亜人の方でしたか」


 エンヌは少しむっと感じたが、悪気はないものだと判断して見逃した。


「貴女のその衣装、奴隷のもの。奴隷は市街から出れない筈だけど。ま、どうでもいいことか……」


 そう、奴隷の統括管理者であるわけだが、今や彼女にとってはどうでもいいことこの上なかった。


「はいっ、確かに奴隷なんですが……主はそう、カノンさんなんです」

「何ですって? あの子、この年で契約を……」

「い、いえ! 違うんです! なんていいますか、所有権を継承したといいますか……」


 エンヌは鋭い眼光を、エーデルワイスに送った。彼女はびくっと震え、警戒する。


(確かに、少し前に突然奴隷の1人の所有権が管理宝玉から消失した。まさか彼女が剥奪したの?)


 エンヌの中のカノン・シノザキに対する奇妙さに拍車がかかってしまった。


「着いてくるつもり?」

「は、はい、カノンさんも心配ですし……」

「好きになさい」


 エンヌはその情報量の不可解に、遂に暫くの間思考することをやめた。


「うん……んん?」


 二人が顔を向けると、この世の終わりみたいな表情をして悶絶していた大男がいつの間にか復帰しているようだ。いや、嘘だ。若干の痛痒と後遺症が残っているけれど、それをぐっと堪えて立ち上がったのだ。

 不可思議な少女の通行は許してしまったが、流石にこれ以上の通過を見逃しては理由はどうであれ、彼は無能者の烙印をつけられるどころか、離反者として処罰される可能性だってあるのだから。

 男は真横に落ちている自分の武器を手にとって、エンヌ達に相対する。

 最早、がむしゃらの境地だったと言えよう。

 彼の平凡ではあるが、人並みに上昇志向もあった。実際はディルベルトの小規模なアジトでのし上がれずに、下っ端の粗末な門番でしかなかったが、それでも彼はこの職務を全うしていたし、役職を与えられて数年は許可された者及び団員しか通すことはなかったというのに。

 今はこの体たらくだ。

 誰がどう見ても彼の過失が山積するばかりなので、彼は挽回を願った。

 この物見遊山気分でいる二人を追い払い、せめて下がり始めている評価に歯止めをかけたい、そう強く思った。


 エンヌは溜息を吐く。

 少し時間を無駄にしすぎたか、と。

 目下の半亜人の様子を伺う。少し震えている様子がわかる。

 本当に大丈夫かしらね……?

 少し、エンヌは不安になった。彼女を守れる自信がないとかではなく、単純に面倒さが勝っているのだ。

 

「こっちみやがれ! なにもんだ! お前らは!」

「ん……」


 この男は、と彼女は思考する。


「ああ、門番か」

「ここは亜人共の集会場じゃねえんだぞ! 散りやがれ!」

「手を煩わせないわ、用事があるのは奥にいる女の子だけだから」

「てめっ、あのクソガキの身内か! なら余計に通すわけにはいけねぇ」


 がっしりと彼は構え、エンヌと相対する。


「……貴方、本気?」

「当たり前だ、お前らなんぞ――あ、あれ……身体が?」


 目の前の男は、簡単に膝をついてしまう。


「獲物があるから、術師だから、亜人だから――そんな舐めた考えで私の〈術式〉を看破できるとは思わないで」


 そう、飄々とした態度で毅然と接するが内心は、


(よかった、カノン・シノザキに効果がなかっただけで……力は衰えていない)


 強烈な安堵で満ち満ちていた。


「私たちは行くから、そこで休んでなさい。どっちにしろ、そこ、まだ痛むんでしょ」


 エンヌがそう視線を一瞬間だけ下腹部に伸ばすと、男はきまり悪げに視線を逸らし、顔を赤らめる。


「待たせたわね、行きましょう」



 その男の横を難なく通過すると、エーデルワイスに声をかける。

 するとエーデルワイスはぱあっと表情を明らめ、エンヌの後をついていった。


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