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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第14話「解約と妨害と盗賊団」

カノン、味を占めて俺TUEEEをに憧れるようです

 彼女とよりよい関係性を築く最初の一歩として、彼女と対等の位置に立つことを私は目指した。

 具体的に言うと、奴隷解放である。

 彼女曰く、金銭的なやり取り以外でも解放の手段があるというので、意気揚々な彼女の話に耳を傾けることにした。


「はいっ。簡単に言いますと、所有権を無理に剥奪するっていう方法です。今、私たち奴隷を管理するのは勤め先の学院の校長先生らしいです。その人から無理やりひっぺがえせば、権利を取り上げることができるらしいですよ」

「それは貴女にはできないの? 詳しいんでしょ?」

「うう……そんな伝説級の芸当、私なんかにはできませんよ。それでこそ八聖王レベルじゃないと」

 

 ふーむ。


「仮にひっぺがえしたら、ばれるかしら」

「どうでしょう……事例としても滅多にないことですから、逆探知こそはされても特定まではされないんじゃないでしょうか?」

「……気後れしてもしょうがないか」


 度胸を見せなければ、変なところで失敗してしまう。

 私は会話の最中に失礼ながらも徐に本を取り出し、

「っ……」試しに円環を展開してみる。本がパラパラとめくれる仕様はどうにかならないのか、邪魔で仕方がない。使い慣れたのならかなりなしに行使できるのだけど、流石に初見の術式は本がまだ必要となってるのが現状だ。持ち運ぶにしても、いちいち取り出さなきゃいけないのが面倒で仕方がない。鞄改造しようかしら……。


「わぁっ、すごいですね、人間種のお子さんがこの年にここまで正確に円環を作れるだなんて」


 ふむふむ、やはり私は珍しい部類なのか。


「どういう風に学院長が貴女たちを管理しているか、わかる?」

「えっとですねぇ、書物では……学内にある特殊な宝玉にて一括管理しているそうです」


 そうか、成る程。まずはそれを探す。

 目を閉じ、暗闇の世界を摸索する。そこら中から極彩色の粒子が隆起している。これがエネルギーというやつだろうか。一個人の制御権を掌握できる程の宝玉だというのだから、きっとそれなりのエネルギー量がある筈。それを手探りに探すこと、数分。

 不可視の魔力を、無理やり目視しようと会得した技術を最大限に活用する。


「これかしら」


 ぱっと目を開けると、大袈裟な台座に固定され、微動だにしない球体が投影された。

 確かに、途轍もない粒子の量だ。余りにも眩しすぎて直視していると失明してしまいそうな程に。なので、少し観測範囲を広めて、粒子の空間当たりの総量を増加させる。要するに、カメラの拡大縮小のようなことだ。


「わわっ、すごいです! そう、それです!」

 

 よし、上手くいった。私のはどうやらイメージしたとこ勝負な性質でもあるので、限界を簡単に決めつけず、やってみてもいいかもしれない。


「流石に……本物は出てこない、か」

 

 何度か試みるも、変な斥力が邪魔をしている。特殊な壁でもあるのかしら?

 だが、そこまでする必要はないようで、途端にエーデルワイスの紋章が強く煌めきだした。昼下がりであるというのに、厭に目に悪い光量だ。偶然にもこの時間帯に店番以外の人間がいなくてよかった。これは余りにも周りの目を引いてしまうし、店番の露骨に歪んだ顔がこの国の亜人に対する扱いを顕著に物語っている。


「あとはこれを移せばいいのね」

「えっと、やり方わかるんですか?」

「いいえ、わからないわ」


 理論とか正攻法とかは知らない、だけど私の力が想像の具現に肉薄する力であることが事実ならばできる筈だ。あとはより緻密に考えるだけ。

 剥奪後はそうね……私の体に一時的に定着させればいいか、なに、使役するつもりはない、便宜的な物だから。そう考えていると、突如ぶわっと、全身から何かが抜ける感覚に襲われて、同時に大量の何かが侵入した。その結果か……眩暈がした。


(うわっ……うそでしょ……)


 やばいやばいやばい……このままでは頭痛が発動して、意識を失ってしまう――その場に倒れてしまう!

 机に手を置き、それをかろうじて防ぐが……これはまずい。

 一度失敗すれば、きっと今よりも管理体制が厳重になる。そうなると、エーデルワイスを解放できず、今後、彼女に助力を頼めなくなる。折角交友的でいて、知らぬ重大な情報へ通ずる可能性が目の前にあるというのに、一度の()()で失うのは余りにも惜しい。

 

 冷静になりなさい、何が起こったか、分析しないと。

 

 思えば、物質的な通貨を私は払っていない。そういった状況では体力から差し引かれることを過去の何度かの実験で学んだ。であるなら……今全身から体力が途轍もない速度で失われていっている。私が為そうとしていた所有権の剥奪に予想以上の通過が要求された? 

 何度もの失神を超えた少し前の実験で、随分と許容量を増大させた自身があったが、成程、一人の人間を自由に拘束できる程の権能――容易く突破はできまいか。


「だ、大丈夫ですか!?」


 私の後悔とか失敗とか、それをよく理解していない彼女は不安がる。


「え、ええ……」

「無茶ですよ! いくら何でも、一流術師が複数人束になっても成功するかどうかの大技をこんなところでするなんて……」


 そんなに高難度だったなんて露とも知らずに私は実行してしまっていたようだ。大見得きった……わけでもないが、いざ実行してみるとこのざま……余りにも浅慮が過ぎたか――ここにきて私は読み間違えた。

 本当にぎりぎりだった。あと数秒でも続こうものなら、確実に頭痛による強制遮断が行われていただろう。


「……ふぅ」漸く、途絶え途絶えの意識が繋ぎ止められた。

「私のことは大丈夫ですから……って、あれ?」


 エーデルワイスは自身の違和感に気付く。


「あ、れ?」


 彼女の腕にしっかりと彫り込まれていた紋章が綺麗さっぱりと消えていた。


「えええええ!?」


 エーデルワイスの動揺の声は余りにも煩かった。


「わ、私の奴隷紋はいったいどこに……!? あれっ、どうして!?」

「これのことかしら」


 私が手を掲げると、ふわりと紋章がコピーされたかのように浮かび上がった。

 ふむ、これが剥奪した後の感覚か。意識すれば色々な情報が流入してくるような気がした。そしてそれが可視化した。


「これは……RPGのメッセージウィンドウみたいなものかしら」


 眺めると、私でも読める文字で情報が箇条書きになっている。

 行動の抑制、付与する魔力の選択、奴隷権の放棄……これはもしや、私が所有権を得たから選択できるようになったエーデルワイスへの命令権か何か?


「どうかしましたか?」

「貴女、これ見えていないの?」

「?」


 ふむ、主人にしか見えない、か。ますますもって成功の真実味が帯びてきた。


「無事貴女の所有権を手にしたようね。じゃあさっさと解放を……」

「ま、待ってほしいです!」


 彼女は強く静止した。


「い、今解放してくれるのはその、嬉しいのですけど……今されちゃうとその、帰る場所がなくなるというか……」


 ああ、そういうことか。彼女は八聖王の誕生まではここで鳴りを潜めなければならない。奴隷じゃなくなって、居場所を失うわけにはいかないというわけか。


「あっ、こんな時間……ごめんなさい、もう戻らないと……」

「本当に解放しなくていいの? それに、やったのは私だけど……ばれない?」

「大丈夫ですっ。それに、大袈裟な術ではありますが、やったことは棚から履歴書を勝手に取り出したみたいなものなので!」


 その癖あんな体力を消費したのか。


「要するに、あとは貴女の衣食住だけを保証できれば自由の身ということね」

「そ、そりゃそうですけど……ああ、ほんとうにまずいんで……行きますね!」


 その時、どんと彼女はまたも通行人に衝突するが……エーデルワイスはつくづく運がなかった。衝突したのは、工事に勤しむガタイのいい男性たちだった。エーデルワイスを見るに、嫌悪顔を浮かべた複数人は、未だ幼く(見える)エーデルワイスに難癖をつけ始めている。


「面倒のかかる奴隷ね……」

「ご、ご主人……」


 すると、下賤な男たちの視線は一気に私を向く。

 これまたご丁寧に侮蔑の眼を送ってきている。

 制服を着た稚児に対して、目に見える劣等感を浮かべているようだ。ふむ、貧富の差か? それに関しては社会基盤によって生まれた被害者だから同情だってできよう。だが、ぶつかった程度の無辜の、それも子供(っぽく見える人)にまで怒りをぶつけるというのはいただけない。

 

 何よりも、その目が、私は大嫌いだ。

 

 憤怒を籠める以上に、私達を雌として、どう慰め者にしようかと無意識に画策する、その眼が!


「その目を……やめなさい」


 〈術式エイジ〉はなんでもよかった――とりあえず、彼奴等に汚泥を舐めさせられたら。

 その思いの果てに発動したのは、屈服させる技だ。

 鉛直上方から、地面にかけて驚異的な風力が彼らを襲い、抵抗する術を持たない彼らは為すすべなく、地面に叩きつけられることとなる。


「あっ……がっ――ぎっ」

「いてぇ……助けっ……ぎゃああ!」


 ふむ……対抗できる〈術式エイジ〉を持っていないのか、こんな然して魔力も使わないお遊びで息絶え絶えとなるのか。面白みのない、一時間くらい放置した後に開放してやろう。運が良ければ無事でいられるだろう――私とて、鬼ではない。反省する態度を見せるというのなら、この世界の神様とやらが彼らを生かしてくれるだろう。

 そんな、見るも哀れな奴らの懐から袋を取り出し、その中の数少ない銅貨を取り出してその全てをカフェの支払いにあてた。


「エーデルワイス、これで私は信用に足るかしら?」

「た、足りますよ! 本当にありがとうございます!」

「いいわよ、今度からは前を向いて歩きなさい」

「はーい! ではまた後で!」


 彼女は去っていく。少し先で一度転んでいるのを見るあたり、ほんと大丈夫なのか心配になっている。それに所有権が移ったから遅刻しても罰則的なものは正直なさそうな気もするが……。ふむ、情報が欲しい時にいちいち休憩時間を狙って、なんてやっていると骨が折れそうだ。私にも数日すれば授業が待っているし、たぶん折り合えなくなる。

 なおのこと路銀が必要になるわね、彼女を解放し、生活を保障するために。

 簡単な方法はないかしら。

 お金を造る……やれそうだけど、この国にも金製造に関しては法がありそうだ。抵触したくはないわね。当然だが先の所有権よろしくのように強奪するのはいただけないだろうし……いや、待てよ?

 道に転がり、尚も生に縋る男たちを見る。


「泥棒から強奪すればいいんじゃないかしら」


 泥棒の泥棒はともあれば、正義の味方かも? そんなものになりたいわけではないけれど。


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