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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第9話「厄介なお誘い」

奏音ちゃん、この世界で初めて殴り合う模様です。

評価ありがとうございます! モチベになりますね。

 最後の一人、赤の短髪が特徴的な少女は典型的なスポーツタイプだとわかった。

 彼女は開始当時から頭角を表して降り、驚嘆すべきことにそこから初速を落とすことなく、延々と走行し続けていた。体力バカか、あるいは調節がうまいのか。


(引き時がわからないわね…)


 これは、相性が滅法悪い予感が脳裏を駆け巡り、停滞する予兆を見せやしない。


 面倒な相手が最後に残ってしまったな。


 こういったタイプは、総じて勝負好きで、根底より負けず嫌いだ。下手に手を抜いて勝利を譲ろうものなら、今後必ず再戦を希望し、それこそ向こう側が真正面から私を下すまで迫ってくるだろう。試合に勝ち、勝負に負けるなんて結末を看過する心持ちは勿論ないだろう。此方の都合の如何に依らず、高確率で肝心な時に行動を阻害する障壁になる。それを避けるための最善手は何か。


(ゆっくりと配分できる体力が枯渇していく風を装って、速度を落とすか?)


 それが現状では最適解だろう。


 彼女にその小細工が絶対に看破されないという自信はどこにもないが、下手打って降参するよりかは安全策だろう。


 そうと決まれば、筋肉に集中させていた術式をちょっとずつ解除させていく。それらの所作で、全身に分配させていた調節の力の流動が停滞し始める。少しずつ蛇口の水位を緩める要領で……慎重に……そうすることで、年相応の体力状態に戻る。すると、読み通り速度を維持することがそうできなくなり、初速が減少していくが……。





「そこまでじゃ」


 突如、遠方で試験官に扮しているのだろう老人男性が、私達を制した。

 その声を受け、私達は漸くその場で停止した。


「主らの一騎打ちの流れに棹さすのは非常に心苦しいところがあるんじゃがの、既に主らは実技科目に関しては上限に達しておっての」


 藪から棒に語り出したこの爺の主張といえば、予想に反しこのようなことだった。

 この爺は何が言いたい?

 よもや打ち切って同列一位とでも言うのだろうか。

 それは困る、目の前の相手が納得しなさそうだ。


 恨めしい表情を浮かべている様子はないが、確かに隣の少女の瞳には闘志の炎が宿っている。これは増々もって面倒なことになりそうな予感が犇々としている。何よりも厄介なのは……その炎の矛先が間違いなく私を向いているということだ。向けるなら管理者権限で一騎打ちを強制終了させた老害に向けるべきではないのか!?


 権力者の椅子にふんぞり返った老害は、今後の蟠りを率先して作る腹なのか?


 此方で対策を打つ手前にそれを妨害されて仲良く一列に並べなんてされようものなら、後々面倒な事態になってしまうではないか。腹立たしい、今後仮に旧友になった際に生じかねない災いの種を先読みできないのか? 交友関係を築くつもりはないが。だけどもあの爺は看過できない。兎も角……何がしかの話はあるそうなので、一聞だけはしておこう。

 もしかすると、年の功なりに、問題解決の術を持つかもしれない。私としても、円満にこの場を終息できるなら、文句もないし、横槍を入れたことを見逃すのも吝かではない。


「じゃがのう、一律で同率にしとうもんなら主らも不服じゃろうて」


 ん?


「だからのぅ、手っ取り早く組手で決着をつけるのはどうじゃろう?」


 うわ、少しでも期待したのが馬鹿だった。より面倒な事態になるではないか、これじゃあ。

 持久走ならばフェードアウトだって可能だが、これでは何方かが確実に相手を下す必要性がある。それでは手抜きができないではないか!


 まったく、何が提案だ。老害め。


 年端もいかずとも現在の彼の立場は誰でもわかる、試験官だ。自分達の合否を声一つで裁量できる力を持つと分かりきっている相手に対し、此方に拒否という選択肢は最初からない筈だ。粗方、最初からそれが見たいがためにわざとらしく提案という言葉を羅列したのだろう。


「やらしてください!」


 私の相手さんは、私の嫌悪感や気怠さなど露知らず、やる気に満ち満ちているようだ。嗚呼、本当に最悪だ、面倒だ。


「片方はもうその気のようさな。そんで主よ、どうする?」


「……やらせてもらいます」退路はない、詰みというやつだ。


 爺の口角が不敵に吊り上がったような気がした。距離が少し離れているため断言はできないが。まぁ、自身の読み通りに此方が動いたのだから、笑みが漏れ出すのもそうわからない話ではない。リーと言ったか、リベンジリストに追加しておこう。


 しかし……組手ときたか。


「勝敗条件は降参か相手の失神じゃ、それじゃあの、準備ができたら始めしゃい」


 かっかっかっ、癪に触る大笑振りを見せる老翁に沸々と怒りが込み上げてくる一方だ。いっそ降参してやろうか、悪魔の誘惑に何度も負けそうになる。が、勝負の気運溢れた相手を納得させる技術は私にない。コミュニティ能力に長けている人ならば、こうなっても上手いこと回避できるのかもしれない。

 まだ完全に記憶が戻っていない故、自分が中学時代どんな人間だったか覚えていない。死ぬ直前の暗澹とした生活だけは思い出したが、それ以前がからきしだ。だが、たしかにわかることはある。このような徒手格闘の経験は一切にない。日々拳を交わらせる喧嘩や技術を以て相手を制する武術なんていうものとは出会う余地のない生活を送っていた私に、いきなり観客が溢れたこの場所で組手をしろとでも? 馬鹿なのではないか?


 こんな騒ぎになるのなら、潔く五人を脱落した辺りで離脱しておけばという後悔が今になって膨れ上がる。そして同時に、どうこの難局を乗り越えるか、そこに思考は落ち着いた。


 目の前の少女はすっと、綺麗な構えを取っている。これは……日本拳法?


 なぜこの世界に日本拳法が……とも考えたが、そりゃそうか。単にこの世界でも同型の武道が発展したのだろう、日本拳法と言わないだけで。武道経験者とは益々運がない。


「構えなくていいの?」


対戦相手が怪訝な声を送る。


「…………お気遣いどうも」


 ほんと……私の苦手な相手だ。しょうがない、素人構えを作り出し、無理くり応戦の態度を見せると、彼女はにっこりと笑った。流石に手抜きしているのはわからないようだ、純真で結構。


 嗚呼、駄目だ駄目だ駄目だ、最悪だ。


 彼女から放たれる潤った生気と言う名の()()によって私は目眩を起こしそうになる。直情型とまではいかなくとも根性論を好みそうな相手は好かない。私がそれについて行けないからだ。こればかりは印象の問題だが、赤髪のベリーショートの時点で私とは性質が相反している!


 もう、少々評価点が低下しても構わないから、一発もらって締め括ろうかとも考えた。


 暫く爪を隠すつもりでいるから……変に勝つよかいいだろう。

 有言実行するように少女は私の腹部に吸い込まれるように拳を打ち込まれた。

 むしろ受けに行く形で率先して彼女の攻撃を腹部に受けた。


「きゃっ……やーらーれーたー……」


 うわ、我ながらめちゃくちゃな棒演技。


 やってるこっちが恥ずかしくなってきた。流石に少女相手の打撃で然程吹っ飛ぶわけもなく、敢えて突かれると同時に無理やり調節で脚力を少しだけ強めた上で地を蹴って、擬似的な吹き飛ばされを演出した。


 さて、露骨な敗退劇を目の当たりにした当の対戦相手は……。


「やったっ!」



 予想以上の馬……ではなく、純粋な性格の持ち主のようだった。


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