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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第7話「シャカリキにスポーツを」

奏音ちゃんは実技試験中にも貪欲に知識を学ぶようです。

 私は、せめて実技だけは普通であってくれ、と儚い祈りを胸中にその瞳を閉じていた。数分間もの沈黙の果て、ようやく担当教員による実技試験に関する口頭説明が開始された。


 結果として、だけど今のところは至って普通の実技試験で安堵した。


 というのも、最初に課された試験は脱落式の持久走だからだ。この場で一斉にスタートした受験生が、体力の許す限り走り続けるという内容だ。その意味としては、術式を使用する上での基礎体力を多角的に計測することにあるそうだが、単なる長距離走と思って差し支えなさそうだ。


 未だ全貌を知らないが、この世界ではやはり術式が行使できるか否かがやはり大きく進路を左右するといっても過言ではなさそうだ。そしておそらく私の力もその術式の一環なのだろう。今計測する基礎体力も術式を行使する場合に自由に使えるエネルギーの目安になる……そう考えるとこの試験内容にも合点がいくし、元の世界にも持久走があるっちゃあったので、順応がしやすかった。


 開始の鐘は、教師が天に向かって投擲した球体がその役目を担った。

 その球体は小型の薬玉みたいな質感をしており、ある程度の高度に到達すると、乾いた音が一帯を響かせた。それを起点に最前列の如何にも快活そうな男児が飛び出したのを見て、始まりを悟る。


 最前列組はめまぐるしい速度で半周を済ます。そして平均的な速度を維持する第二陣、運動神経ならびに持久力が不得手だと伺える第三陣の流れだ。総受験人数が50人程度がいい感じに疎になっている。最も密なのはやはり第二陣だ。ざっと見る辺り、30人ばかりが密集している。


 そこで私の位置はというと、第二陣の中でも後列だ。


 体力が乏しいということはない、むしろ数週間に渡る実験で体力の限界を迎えては急速な睡眠というか失神で回復を強制させる、を繰り返していたものだから、それなりに体力が備わってしまった。自分の限界を測るためだったとはいえ、多少の持久走なんて朝飯前のようになりつつある。だから、まだまだ元気で、単純な速度でいけば最前組に合流もできなくはない。しかしこの持久走の根幹にあり、忘れることのできない脱落制というルールがある。 時間経過で脱落人数が下位から指名されていき、指名された段階でその受験者は試験終了となり、現段階の走行時間で成績を計算する。もっとも、相対的な評価基準であるため上位が狂ったような記録を叩き出すと、そのぶん合格のボーダーも押しあがるわけだ。

 あまり舐めた態度で挑み続けると、脱落を恐れた最後列組が最後の最後で捨て身の急加速を見せ始めるかもしれない。油断してそいつらに抜かれたと同時に脱落判定を食らっては堪らない。だから、いい感じに下の動向を伺えて、いつでも上位になれる位置を序盤戦は保つことを私は意識した。


 ちなみに、本はできる限り近い場所に置き、鞄の中で展開させるという器用な手段で誤魔化している。スタート前に術式を先に発動し、鞄に一番近いポイントを通過する瞬間に術式を体力に見合って継ぎ足す、といったやり方を採用することに。


 ここで私は先んじて目立つ最前列に行く必要はどこにもないのだ、むしろ、各周ごとに術式を整える時間を考えても最初から無理をしないほうがいい。継ぎ足し形式に欠陥がないという保証はない、無茶し過ぎて補強が遅れたら、その段階で脱落したに等しくなる。別に教員に顔を売る必要性は現段階で皆無なので、先陣を切ることもない。


 親が親なら子も子ども……とまでは断言できないが、それなりの家元なら矜持があるのだろう、かなり立派な。そんな毒にも薬にもならない感情を立てるつもりなぞ微塵もないが、それに張り合うのは今回に於いては愚策だ。見栄を意識して体力を枯渇させた挙句脱落するなど以ての外だ。


 ここは当然卒なくこなす。


 第三陣に属しては不必要に下に見られかねないから、ここが最適だろう。目立たず、残り続けてみせる。どうせ最後らへんまで残ると嫌でも目立つのだ。最初は体力を温存気味で行動すべきだと私は判断した。





 最初の脱落者が出たのは五分後くらいからだった。最初の脱落者は順当に考えて第三陣の、その中でも最後列の誰かであると私は踏んでいたが、存外しぶとかった。そう、初の脱落者は最前列組の1人だった。最前列組は皆が皆、健康を文字通りに体現したような躰つきに精神を持ち得ているものばかりで、とても相入れられないタイプだとばかり思っていたが、最前列組の中には本当に見栄だけで押し出た底無しの馬鹿がいたようだ。

 顔面を蒼白に塗り替え、全身から激しく発汗し、脱力し、身動きが取れなくなった状態で担がれ、姿を後にしていく様はなんというか滑稽だった。


「まだ……待機よ」


 そんな愚者を眺め、自然と口角が釣り上がるが、それに乗じて速度を高めるのは今ではない。


 グッとその時を待ち構える。





 一人目の脱落者が出て以降は、何かの糸が切れたかのように続々と各陣営から脱落者が見え始めた。恐らく何が何でも最下位は嫌だ、というなんとも度し難い消極的な考えがあったのだろう。受験や今後体験する就活などではそのような腑抜けた浅慮など速攻で看破され、敵に喰われてしまうと、元の世界の教師陣はそれこそ耳にタコができるほどに暑苦しく熱弁していたのを思い出す。


 成る程、なかなかどうして面白い。


 消極的な考えは自分に無意識のうちに逃避をするように仕向けさせてしまうというわけだ。正当化しやすければ、自分を責めなくて済むのだから。過度な程自己愛に陶酔するのも些か考えようだが、ここに来ていい学習になった。


 やはり、先の例外的な脱落者を除けば、順当に第三陣、第二陣にといった流れで受験者数が減少していった。そしてさらに十数分が過ぎた頃には、第三陣は姿を消していた。


 そして、自分の位置する第二陣も、ゆっくりと疎らになっていく。


(それにしても……五、六歳にしては体力多くない? みんな)


 私も確かにそうだが……流石にその年齢で十分以上持続して走り続けるってのは変な話。通常ではそんな大それたことができたら最後、興味本位でメディアが殺到してしまう。実際、私もその年頃では五分も継続することはそうできなかった。


(基礎的な体の構造が根本的に違う、亜人種とか? そんな実感まるでないけれど。もしや、私がやり方を知らないだけで、術式で基礎体力を増やしている?)


 体力を消費して体力を増やす、おかしな日本語だが、要するに省エネルギーだ。何処かの体力を制御し、その余剰分を回している、とか。私は今まで、脚力を向上させ、同時に耐久性を上げることで脚部の破壊を防ぎつつ、速度を維持する技術を学んだ。しかし、それは体力に関しては素体のそれに頼りきりになっており、割と非効率なのではないか? 

 以前に魔力的な何かが体内に存在している可能性を示唆した。もし、それが体力と別枠の概念ならばその魔力を体力に変換できるのではあるまいか?

 それが可能であれば、私のように二重で術式を態々かけなくてもよくなるわけだ。無論、二重を回避した方が許容量超過による強制遮断のリスクも減るというわけだ。


 百聞は……ではないが、試してみよう。なにしろ、説明時には筆記試験と違って、術式を明確に禁ずる話は一切なかったのだから。


(おっ……ん?)


 一瞬だが全身がふわり、と軽くなった気がした。酸素の供給量が疲労に密接すると雑学として聞いたことがあった気がしたから、それに準じて体内を整理してみる要領で色々やってるみると、あら不思議——少しずつ蓄積された身体の疲れがふっと薄まった気がした。あくまで気がした、の範疇だ。完全回復するという都合の良いものではなさそうだが、使いどころを見極めれば、無用の長物になることは絶対になさそうだ。


 あれやこれやと思考実験&試行錯誤を繰り返しているうちに、残留数が十人を割っているではないか。


(やばっ、流石にふざけすぎたか!)


 既に第二陣の数がごく僅かで、加えて残った第二陣勢は息絶え絶えといったところで脱落は近い。これ以上の残留は怠慢と取られかねない。先ほどの体力調整を駆使して、前列に押しあがる!


(人によってやっぱ得手不得手があるのね、調整上手が前に出ていると)


 ここまで来たのだ。筆記もあんな様だったから、せめてこれくらいは上位を目指してみようと私は考えた。

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