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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第二章「奏音の過去と愛の物語」
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「私を覚えていますか?」

集団で一人の女を襲うなんて、男の風上に置けない奴らですよ。

天誅を下しましょう。


久しぶりの奏音視点です。

●奏音

 愛華との再びの邂逅の夜は私が彼奴等に向けた反撃の狼煙に――反逆の旗を掲げる記念の日となった。


「準備、完了?」


 愛華はそう問いかける。

 夜明けの後、一度愛華との家に戻って、泥を洗って仮眠をとった。私としても初めての仕事にかなり困憊していたのか……目覚めると既に日を跨いでいた。愛華と共に目覚める瞬間は、矢張り何事にも代え難い万福の時間だった。


「これくらいかしらね」


 今日は、防腐剤を始めとした幾つもの物品を総入れ替えして万全を期した。

 今回に至っては、そう油断はできまい。

 すると愛華はやや不安げに私の顔を見上げた。


「愛華」


 彼女の一抹の不安を和らげるよう、私はそっと愛華の髪を撫でた。本当に……嫉妬してしまいそうな程綺麗な髪をしているものだ。


「大丈夫よ、私はあの時とは違う――油断はしないよ」

「…………」


 愛華は暫しの間沈黙して、ただ一度こくりと頷いた。


「私も行く?」

「その必要はないよ。共犯とはいえ、手を汚すのは私だけで十分」


 少ししょんぼりとしている様子だが、愛華の中で静かに納得している姿を見せる。

 すると、彼女から私の身を剥がしたではないか。


「どうかした?」

「私は奏音のように賢くもないし、素早くも動けない。だけどこれが、これだけが……私のできる手助け」


 彼女はまず、右手の人差し指と中指を合わせてから、頭部と人中の順に静かにトンと突いた。すると、全身が妙な軽々しさを実感するようになった。


「これは……?」


 愛華は僅かだけ悲哀に満ちた表情をした風に感じたが、それは一瞬間のもので――直ちに次の言葉に塗り替えられる。


「ほんとは、ルール違反」

「ルール? ごめんなさい、何のことかしら」

「いい。私が与えたのはお守り」

「お守り、か」

「絶対に帰ってこれる」


 私は途端に心が温かくなるのを感じた。愛華からの何らかの規則に反したというが、私は愛華が如何なる規則を今日という日まで遵守していたか、そしてどう違反したか――今の今までわかっていない。だけど、破ってまで私の帰還を祈ってくれた、ならば絶対に彼女の元へ戻る――彼女の加護のお陰で俄然精力が漲った。


 幾つかの手順を本来であれば踏まなければならない。関係者を炙り出し、犯人と断定することは特に難しいのだ。

 だけど、昨晩の誓いの中で、その必要性はなくなった。

 元々の計画では、霧谷から掠めた書物を頼りに人物を特定、そして特定した相手に拷問でもかけて内通者を炙り出そうという地道な計画だったが、その手間が省けた。

 私と愛華はとうに決断を下していた。


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 余りにもシンプルな帰結だった。


 入手した戦利品である彼の携帯端末は、それを助ける貴重な道具だった。

 まず、携帯端末にアクセスして彼の通話履歴並びにメール受信箱を精査して、内通者と思しき可能性のある人物を抽出していく。いや、無理に過去に遡る必要さえもなく、一日彼からの連絡がないだけで、斎藤を心配する連絡が多数押し寄せていた。その時点で関係者か否かを振るいに掛けられるというのだから、彼の妙な人望には感謝しなければならない。恐らく、その友人たちも斎藤からの返信を心待ちにしているのだろう――で、あるならばそれにさっさと答えてあげないとならない。

 私は彼の普段の返信の癖を分析し、別人と疑われないよう彼の文体を真似て、連絡を一斉送信した。場所は先日まで私が軟禁されていた屋敷で“パーティ”をするという旨だ。

 正直、信じるのも馬鹿馬鹿しくなるほどには眉唾物な話ではあったが、対象は実に単純な性格をしていたようだ。


 事前に山道に入り、山肌から屋敷を望遠鏡で見下ろせる位置に控え、関係者全員にその一方を送る。最初こそはそのような簡単な手法に釣られるかという懸念が心の奥底にあったが、数刻ぶりな友人からの一報に何一つと彼らは疑念を抱くことがなかったようで……素直にぞろぞろとやってきてくれた。


「ことが済んだら一度また戻ってくるわ、此処で待っていて」

「うん」


 私はこの日の為に用意した便利グッズ――バットをその手に携えて、身軽な状態で屋敷へ向かった。



 屋敷内に入り込む。

 すると、彼らは指定した通り、斎藤浩二の自室で待ち構えているようだ。

 まずは彼の部屋以外で予期せぬ行動を取っている者がいないか確認し、作戦決行時に増援が来ないよう、出入り口の鍵を内側から施錠しておく。


「これでよし」


 落とさないよう、ぎゅっとバットを握りしめて部屋の前に立つ。

 今から一世一代の大演武であるというのに不思議にも緊張は無かった。ただ自分が為すべきことを全うする気概しかなく、むしろ心躍るくらいに意識は高揚しつつあった。

 今日この時だけは――私は巨大な劇場で舞踊する演者にでもなった気分だった。





「おいおい、あいつ呼んだくせにまだこねぇのかよ?」


 取り巻きの、やや小太りな男は不満を正直な気怠さを吐露している。


「そう文句言うなよ、パーティの準備だろ?」


 それに対し、茶髪で如何にも髪の毛を必要以上に遊ばせている青年が彼を窘めた。

 そして、室内には数にして十人余りもの不良達――かつて篠崎奏音を嬲りとおした存在が何食わぬ顔で居座り、家主の帰還を渋々待ち構えていた。

 永らく斎藤が奏音を自分の玩具として支配している――と錯覚していた時期はその偏執的な独占欲の結果、奏音を彼らに使わせることはなかった。故に、悪逆の限りを尽くしていたというのにとうに頭の中から彼女の存在は消え去っていたようだ。


 だからこそ、篠崎奏音なる者が部屋内に入室しても……誰一人とそれが過去に自分達が慰め者に相手だと認識できずにいた。精々、斎藤の屋敷で使役される従者くらいにしか思っていなかったようだ。


「んだ、斎藤の奴はどこにいる?」

「お久しぶりですね」

「はあ?」


 奏音はじっと扉を潜ったあとは動こうとしなかった。後ろで手を組んで、じっと彼らを一瞥しているようだった。


「……なんだ? こいつ……どっかで見たことあるような気もするが」

「どうでもいいだろ? おい、浩二は何処にいるんだ?」


 小太り男は奏音に詰め寄って、待ち人の現状を彼女に問い質した。

 が、私は寡黙を延々と貫き通す。

 思い出してもらえますかね?


「なんだぁ?」

「駄目ですか……本当に覚えていませんか?」


 小太り男は奏音が微動だにしないことに明らかな不快感を滾らせているようで、同胞に共感を求めた。だが、他の輩共は素っ頓狂な反応を並べるだけで、全体的に低次な会話が継続される一方だった。

 私はため息をつく。

 結局はそうですか、やった側はすぐに忘れると。


「本当に……残念ですよ?」

「ほっとけ、こんな気持ち悪い奴」

「それもそうだな……さっさと消え」

 

 言葉の最中に関わらず、ゴッという重低音が部屋中に鳴り響いて付け上がったデブ男は首を在らぬ方向に曲げ、泡を吹きながら倒れた。


「会話の途中に死んでしまうなんて――失礼にもほどがあるわ」


 殺したのは紛れもなく自分だけど。


「えっ……」

 

 比較的近場にいた高身長の男は呆気に取られているようだ。しかし時間もない、私は同じ質問を彼に投げかけます。


「私を覚えていますか?」

「お前は何を――」

「はぁ……」


 彼らは記憶障害か何かだろうか?

 私は記憶として深く焼き付けてもらえるために意匠を凝らすことにした。

 バットを横に置いて、サバイバルナイフを取り出す。


「身長差があるのが助かりましたね」


 丁度私の顔の辺りに、彼の首が来ている。

 それをいいことに、彼のやや乾燥している首の表皮にそっと刃を乗せる。そして流線を描くよう半周を引く。すると壊れた水道管のように赤色の下水がアーチを描く。次いで深い傷を負わされたその男の首はがきん、と後ろに折れ曲がる。結果、思わぬ圧がかかったようで噴射する勢いが倍増した。


「これはこれで綺麗なものですね」


 人体の構造は矢張り本を読むよりも実際に手で触れて体験する方が学べるものなのだった。


「お、おまえええ!」


 ふむ、常軌を逸した光景に唖然とする時間は終わったようね。

 集団の内の一人がそう叫ぶことを始点に、斎藤浩二に呼ばれたと今も思い続ける一同は漸く事の重大性に意識が向いたのだった。


「たった一人だ! 全員で倒すぞ!」

「おう!」


 十数人で一人の、それも女子の私を襲うなんて感心できないわね。

 まるで私が悪人のようだ。

 まぁ、いいだろう。


「もう一度聞きますね」


 迫る軍団にもう一度猶予を与える。


「私を覚えていますか?」

 

 そう言い終えると、私もお仕事開始――片手にバットを、片手にナイフを握りしめ、動き出した。

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