「少女たちの誓い」
やっぱり殺伐とした世界では百合が欠かせませんよ。
今回はやや短めです。
数分もの間、両者の間には沈黙が続いた。片方が何かをするわけでもなく、じっと互いに見つめ合うだけの時間だった。
その数分の果て、話し出したのは愛華だった。
「奏音の身に何があったか、知っている」
奏音にとっては意外だった。
姿を消して、早くも三時間超にはなるとはいえ、一晩の出来事だ。当然死体も露見していないから、彼女への発覚は斎藤の行方不明届が受理されて以降とばかりに思っていた。
「そっか」
だが奏音としても、愛華に明らかになることへの恐怖はなかった。
最初から覚悟の上の行動であり、その結果彼女から拒絶される結果も甘んじて受け入れるつもりだった。
「ごめんね、相談せずに勝手に決めちゃって」
しかし愛華に対し語る彼女の態度に、焦燥は微塵も感じられない。
むしろそれは普段の、それどころか同じ床でのピロートークのような終始長閑で和やかなものだった。対して、それを受ける愛華はどうか。一見してわかる惨劇を前にしてもその表情歪めることもなければ、及んだ凶行を受けて奏音を拒絶するでもなかった。愛華はただいつも通り、彼女らしく奏音の言葉を一つも逃さまいと耳を傾けていたのだ。
「私ね、考えたんだ。どうやったら愛華と幸せに暮らせるかって」
「その答え?」
「うん」
奏音は非常に喜色に満ちた顔を彼女に送る。
「軽蔑した?」
「ううん」
相対する愛華も――何処か表情が綻んでいた。
斎藤浩二の死を以て奏音は一段階絶望から救済された。そうとまで思う愛華は彼女を褒めることはすれど、怒るなんてことは決してあり得なかった。復讐は何も生まない、などという陳腐な言葉は吐かない。彼女を愛するが故、どれほど彼女が絶望を抱えていたかを誰よりも熟知しているからだ。
「そっか、ありがとう」
奏音は次いで彼女に問う。
「愛華、選択肢は二つあるんだ」
「選択肢?」
「うん、私は誰にどう言われようと、やめるわけにはいかない。禍根を残している限り、私も愛華も幸せになんてなれない、そう信じているから――私は私に芽生えた憎悪を潰していく」
そのうえで、愛華には選んでもらいたかった。
「このまま振り返って、忘れる。そうしてくれれば、全て終わった暁には貴女の前から姿を消す。そうすれば絶対に巻き込まれることはないし、巻き込ませない」
奏音は影で愛華を護る存在になることを、暗に告げた。
愛華は黙って、カノンの話を聞き続けた。
「もう一つは――ここに残り続ける。そうしたら、もう私は愛華から何があっても離れない。だけど。愛華を私一人の犯罪に巻き込んでしまう。だから――」
言い続けようとした矢先には、愛華は行動に移していた。
迷いなく彼女は私に対し、やや速足で近づいて抱きしめた。其処に在ったのは何も相違はなく、少し前までは当たり前に感じていた倉島愛華の抱擁だった。彼女が私に身を預けると、ゆっくりと彼女を特徴づける季節の花の匂いが奏音の膨れ上がる感情を自然に抑制させてくれた。
「もう……ハグをするのは選択肢にないよ?」
「奏音は意地悪」
「私が?」
愛華は私の胸に顔を埋めた状態を保ったままに首をふるふると上下に擦った。きっと被りを振っているのだろう……けれど愛華がそれをすると差乍ら自信に対する求愛行動に思えて、匂いを刷り込ませている風に思えて――ちょっとの笑みが抑えられなかった。が、愛華は拗ねているのだ――きゅっと、悟られないように唇を結んだ。
「答えが一つしかないのは、選択肢って言わない」
「……ふふっ、それもそうだ」
これは……愛華に一本取られたようだ。奏音は降参したように手を上げる。
土の上に、寄り添うように座り合い、天から注ぐ白雪を肌に感じながら、少しの間話す。
「ねぇ、愛華――確認するね」
「?」
「これから私がすることは紛れもなく犯罪。それを重ねれば重ねる程、私の手は汚れていっちゃう。それ以上に、愛華も――」
「わかってる」
愛華は有無を言わせようともしなかった。
その意図を汲み取って、奏音もそれ以上を言わずに会話を続行した。
「一緒に、いてくれる?」
愛華は返答をしなかった。
が、夜が明けるまで二人はこの場に居続けたことが、何よりの証左だ。
陰鬱と嫌悪の集合体が真下に埋まっているというのに、それさえも気にならない程に今この場は多幸感に包まれた空間だった。最初は双方共に股座を濡らすことでそれ以上を抑圧していたが何時しか……少しの間の別離が穿ってしまった予想以上の心の隙間を埋めるように互いを求めあっていたのだった。
「愛華、これからすることの話、聴いていてね」
「うん」
奏音の中で進めていた計画の全貌を、愛華に伝える。
「私たちの世界を壊そうとしてくるのは斎藤浩二だけじゃない。彼に与する者、全員なんだ」
だからこそ、奏音はまだ止まれない。
だけどもう愛華がいる。
奏音はもう止まらない。
「だから全員を――私たちの手で始末する。殺す、殺して、全ての禍根の絶つんだ。そうすればもう、誰も邪魔できないし、蒼薬が広まることもない」
蒼薬があるだけで不幸を生むというのなら、斯様な忌み子は一つ残らず排除する。それを己が意思で配布しようとする人間も当然、関係者全てだ。
一人も残さない。
余念が残れば、何れ脅威になる。
そうならないように、私が殺すんだ――そう彼女は決意した。
そうして雪降る夜、奏音と愛華は小さな友情を異形の愛情へと進化させた。その加速した愛情の行く先にある関係性を——少女達は共犯と形容した。
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