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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第二章「奏音の過去と愛の物語」
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「奏音+愛華=」

 朝ごはん、と言いつつ、実際に色々あって、完成したのは昼が過ぎていた。

 空腹だったし、きっと今すぐにでも食べたかったけれど……何よりも談話が楽しくて、嫌なことを全部全部忘れられるような気がして――それだけでいいように感じられた。


 それが終わってからは、何かをするでもなく、久しぶりにただずっと話していたと思う。


 愛華はあまり世俗に詳しくなかったので、私が持っている携帯電話でいろいろの動画や情報を見せてあげた。最初は契約を切られている可能性もあったけれど、危惧に終わった。

 そして、夜を迎えて、買い出しに行って、また料理を作って、お風呂に入る。

 それだけなのにどうしてだろうか? この充足感は。


「寝る?」


 時刻にしては、まだ二十時を周って間もない。

 通常の生活規則でいうと、確かに早いけれど、疲弊はそれなりに蓄積されているから悪くはないかもしれない。


 --いや、それはいいんだけどね、


「愛華はベッドに寝て、私は暖房も効いているから床にタオルでもかけて――」

「駄目、一緒に」

「わ、わかったよ」


 嫌だという訳ではない。


 --少し、恥ずかしいだけ。うん。


 彼女に押し切られるようにベッドに寝かされると、予想以上に彼女は身を近づけてきた。

 ある種添い寝の形ではあるが、体感としてはもっと近い。互いが抱き枕状態といっても過言ではない。


「ち、近いよ……?」


 じっと、愛華は奏音を見つめる。


「私は近づいていない。近づいているのは奏音」

「っ……」


 愛華は嘘は言わない。

 つまるところ、彼女から無意識のうちに接近していたということだ。


「ご、ごめんなさい」


 咄嗟に彼女から身を離そうとすると、それよりも早く愛華は彼女の腰に手を回した。


「愛華!?」


 愛華はそうして、とろんとした瞳を此方に送る。

 妙に彼女が艶麗に見えた。瑞々しいというか、何処がとは言わないが。


「…………」


 それは実に吸い込まれそうで――。


(って、私は何を考えている!?)


 愛華は同性ではないか。

 それに私はあの人が好きで――いや、違うな、と無意識に反芻していた。

 咲良蓮人に対する感情は恋慕ではないのではない、と彼女の中で否決されてしまったではないか。

 厳密にいうと、思春期特有の感謝と恋慕の履き違えが起こっていた訳ではない。確かに春を失った時までは紛れもなくその感情は恋慕そのものだった。が、いつしか彼に対しては憧憬になっていたというか――。

 憧憬と情愛を勘違いするほど彼女は色恋沙汰に疎くなかった。彼女とて一般的なサブカルチャーをこよなく愛する一人の文化人、彼女なりに”愛とは何か”ならびに”友情とは何か”を解している。このような場面を前にしてよもや鈍感な性格を披露するなんてことはない。


「奏音?」


 彼女を見据える愛華にそれといった返答はなかった。敢えて奏音の反応を待ち焦がれるように、扇情的にあり続けた。


「あうっ……」


 --駄目だ! 思考がまとまらない!!!!


「愛華は、い、嫌でしょ? だから――」


 同性同士は通常は忌避されることだ。

 奏音は愛華の善意を()()()()()()捉えてしまったことを後悔し、逃げ道を愛華に求めていた。しかし


「ううん」


 実にあっさりとした回答に、奏音は目を白黒にさせる。


「えっと……」


 沈黙だ。

 余りにも恥ずかしすぎて、愛華に完全に主導権を取られているようで無性に奏音は遣る瀬無くなってしまう。

 すると、見かねたか、呆れたか、動き出したのは愛華の方だった。

 愛華はそっと目を見開いたまま、顔を接近させて躊躇いなく私と唇を交わらせるのだった。

 言うなれば、彼女から始めたことだ。

 えらく強引な始まりだった。だけど、愛華とのキスは、何処に不快感を抱くことはなかった。少し温かく、確かに倉島愛華の味がしたのだった。





 最初は恥じらいが他のどの感情よりも打ち勝っていた。


 そもそも、他者との優しさを織り交ぜた関係を持った回数自体が皆無だった。数少ない経験だって、彼女の意思を介さないものだったから、そもそも経験とも呼べなかっただろう。

 だから、多分、初めてといっても問題はなかった。

 これもまた恥ずかしい話だけど、最初は愛華に任せきりだった。

 こう事細かに解説する話では決してないが、愛華は汚れているからやめるべきという彼女の忠告に一切耳を傾けず、快楽をもたらし続けた。


 慣れぬ快楽も、非日常も、恒常化すれば難なく生活に浸透していくもので、数度と体を重ねるうちに彼女との行為も同居生活も奏音の心に安らぎをもたらすようになっていた。

 昼頃までゆっくりと寝間着で過ごし、そして起きてからは色々な話をして、時に買い物に出かけ、そして料理を作る。また眠くなるまで対話して、そして昼まで眠る。その繰り返しの、ある種単調な日々だったけれどむしろそれで良かったと奏音は思うようになっていた。他人に彼女ら二人がどう映えているか、そんな些事に心揺るがすことのない日々は彼女にとって最上の幸せだったのだから。

 夜の件についても、次第に順応していく。

 最初は紅潮させて悶えるばかりだったが、それも一週間が経過するとゆっくりと現実を受け止められるようになってきた。


 この世界の物語も終局に向かう。

 終局を告げる警鐘が、彼女が愛華と共に社会から姿を消して一週間といった頃合いに唐突に訪れる。だけど、もはやこの奏音と愛華の城に、元の弱々しく現実を呪う篠崎奏音は存在しなかった。

 そんな彼女の変化を露とも知らずに彼奴らは姿を見せる。彼女の倫理観のすべてを蹂躙した、下賤なる存在が、奏音の最上の幸せを破壊するために。

 だけど彼女は最早、最弱ではなかった。


 そして遂に、篠崎奏音の反撃が、始まるのだった。

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