第3話「フィオちゃん隊長!」
突然、遠くに爆発音が響き、地響きのような振動が施設内を揺らした。
「お前、何かやったのか?」
ジュンが、明らかに疑いをかける視線をモグリに向けた。
モグリは、否定も肯定もせず、青い顔で震えるのみだ。
「ちょっとぉ~~、いまの爆発がモグリちゃんとなんの関わり合いがあるってのさぁ」
レアは、すかさずジュンとモグリの間に、割って入った。
「だって、こいつ爆弾を持ってるんだぜ? 怪しいだろ」
「でも、爆発は遠くだってジュンも言ったじゃん。あたしも、そう思う。いままで、やってきた訓練で、それくらい判断できるようになったもん!」
「ああ、たしかに……爆発は、遠くだった。たぶん、この施設の外……シールドバリアよりも、もっと外側で起きた爆発だ」
「そうだよね! でも、爆弾を持ってるモグリちゃんはここにいるよ! 施設の外の爆発とは関係ないじゃん!」
ジュンが、ムッと顔をしかめる。
「まあ、そうだな。少なくとも、外からの爆発は、こいつじゃないみたいだ」
どこか腑に落ちない表情だが、そう納得するしかないという感じにうなずいた。
びぃ~~――! びぃ~~――!
採掘施設内に、けたたましい警報の音が鳴り響く。
『現在、当施設は何者かの襲撃を受けています。守備隊ならびに施設職員は、緊急時の保安マニュアルに従い行動してください。繰り返します。現在、当施設は――』
通路のスピーカーから採掘施設の緊迫した状況を伝えるアナウンスが流れてきた。
「何者かの襲撃!? なにそれぇ!?」
「ライバルのサークルかモンスターか、それとも別の何かか。とにかく、敵対勢力が採掘施設を襲撃してるんだってよ。さっきの爆発は、長距離ミサイルか……?」
そうしている間にも、爆発音が次々と鳴り響き、どんどん振動も強くなっていった。
『当施設は、現在、敵対勢力との戦闘に突入したことを確認いたしました。非戦闘員および局外者は、近くの保安員の指示に従いシェルターへの避難を急いでください。繰り返します。当施設は、現在――』
施設内のアナウンスから、状況の遷移が知らされる。
「ええ~~!? シェルターに避難!? 試着コーナーは、どうするのさぁ~~!?」
「諦めろよ。どう考えても、それどころじゃないだろ」
「うそぉ~~! どこのどいつだよぉ! よりによって施設見学会の日に、襲ってくるなんてさぁ! ふざけんなぁ~~!」
「見学会の日……!」
ジュンが、眉根をぴくりとさせた。
そして、横目で、モグリの様子をうかがう。
「……お前」
ジュンが、モグリに何か話しかけようとしたときだ。
「なにぃ!? 襲撃だとぉ!? どこのどいつだ!? ミサイルを撃ち込んできてるんだ! モンスターじゃないのはわかってる!」
3人がいる通路を曲がった先から、緊迫感のある声が聞こえてきた。
誰かは知らないが、声が大きいから、断片的に会話の内容が聞こえてくる。
「なんだろ?」
「保安員じゃないのか?」
ジュンの口から保安員という言葉が出た途端、
「ほ、保安員!?」
モグリが、がくがくぶるぶると震え出した。
というか、ずっと震えている。
「とにかく、早く守備隊を展開するんだ! 僕も、すぐに行く! この採掘施設を守るんだ! 何かあったらルミア・ギアードは大損害だぞ!」
そう言いながら、ひとりの小さな女の子が、通路の曲がり角から姿を現した。
淡いピンク色のロングヘアーの子だ。
「ちっちゃ! なに、あの子! かわいいんだけど!」
と、レア。
「けど、格好が妙だな。この施設の人だとは思うけど」
と、ジュン。
白い軍服のようなミニスカートの制服を着て、襟の立った長いマントをまとっている。
マントは採寸を間違えてしまったのか床をずるずると擦っていた。
立体映像を活用した通話にかかりきりで、こちらには気づいていないようだ。
「あれ? 通話してる相手って、コンダクターさんじゃん」
通話相手だと思われるホログラムの立像は、見学会の進行を務めてくれていたコンダクターさんだ。
端末の音量も高めに設定してあるようで、相手の声も、レアたちにまで聞こえてくる。
『フィオちゃん、すでに守備隊は展開中です。まだ散発的ですが、敵機動兵器との交戦も始まっています』
「フィオちゃん言うな! 僕は、ここの守備隊長だぞ! フィオナ隊長と呼べ!」
『申し訳ありません。えっと……フィオちゃん隊長……?』
「ちがう! そういうことじゃない! ええい! 呼び方は、この際、どうでもいい! 敵の規模はわかったのか! はぁ!? まだ、わからない!? 早くしろぉ!」
レアは、ブッと噴き出した。
「フィオちゃん隊長だってさ……!」
真面目そうなコンダクターさんの口から、おかしな呼び方が出て笑ってしまった。
「それと、今日は施設の見学会があっただろ! 参加者の避難は済んでいるのか! なにか、あったら大問題だぞ!」
『わたしが、引率しておりましたので、近くのシェルターまで避難誘導を行いました』
「よぉし! でかした!」
『ただ……』
「ただ、なんだ?」
『ただ、見学者のうち――が――ふ――ザッザザ~~ッ!』
急に、音声とホログラム映像が乱れ、通信が途絶してしまった。
「お、おい! セリカ! おい!」
フィオちゃん隊長は、足を止め舌打ちした。
「これは……近くに、波動通信を妨害するウェーブ・ジャマーを撃ち込まれたな。ふん! ずいぶんと裕福な敵だとみえる!」
いまいましそうに、通信端末をしまうフィオちゃん隊長。
鼻を鳴らしながら正面を見たフィオちゃん隊長とレアたちの視線が合った。
「……うん? お前たちは?」
フィオちゃん隊長が、ぴくりと眉を動かし、こちらを見る。
「ご苦労さまであります! フィオちゃん隊長どの!」
突然、レアが、フィオちゃん隊長に向かって、びしっと敬礼をした。
その見事な敬礼に、フィオちゃん隊長も、うっかり乗せられてしまったようだ。
「う、うむ! 貴様たちも、お役目ご苦労である! あと、フィオナ隊長でよい!」
ぴん! と、背筋を張って敬礼を返してくれた。
「お、おい。レア……なにやってんだよ?」
「いやぁ~~、こういう敬礼やってみたかったんだよねぇ。けっこう、様になってたでしょ?」
「どこで、そんなの覚えたんだ。ったく、ほんとノリで生きてんな、お前」
とか言いつつ、ジュンもなんとなくフィオちゃん隊長に敬礼してしまった。
「わ、わたしも……!」
モグリも、その場に合わせた方が良いとでも思ったのか、一緒になって敬礼する。
「うむ! うむ! なかなか、決まっているな!」
フィオちゃん隊長は、レアたちの敬礼に満足そうな笑顔を浮かべた。
だが……。
「ちょっと待て……お前たち、見たことのない顔だな? うちの者じゃないだろ」
フィオちゃん隊長の顔が、急に険しくなった。
見覚えのないレアたちを警戒しているようだ。
「……そりゃ、そうなるだろうな」
と、ジュンは小声で言う。
だが、フィオちゃん隊長は、ころっと表情を明るくした。
「そうか! わかったぞ! お前たち、近々、配属予定だった3人の新人だな!」
「え……? いや、オレたちは……」
否定しようとしたジュンの脇腹をレアが突いた。
レアは、「それ以上、言っちゃダメ」と視線で語りかけた。
「いやぁ! 人手不足だったからな! 若手とはいえ3人も寄こしてくれるとは、ありがたい! うむ! 僕は、フィオナ! ここの守備隊長だ! お前たち、名前は!」
「レアであります!」
「ジュン……であります!」
「……も、モグリであります!」
「うむ! なかなか、見どころのある顔をしている! これから、よろしく頼む!」
フィオちゃん隊長が、歓迎の気持ちを表すように、レアたちの手を順番に握っていく。
「お、おい……レア、どうするんだよ。どう考えても、これ」
「し~~! 面白いことになってきたじゃん……! 突発イベントってやつだよ!」
「……お前、つくづくノリで生きてんな」
レアとジュンが小声で言い合う。
「うん? どうした? なにか、問題か?」
「い~~え! 問題なしであります!」
と、レア。
「そうか、ならいい。ところで、モグリ。お前、やけに顔色が悪いな。体調不良か?」
フィオちゃん隊長から話を振られたモグリは、びっくりした様子で声を震わせた。
「い、い、いえ……! ななな、なんでもありませんです! あひ!」
「お、おう? そうか? なんでもなさそうな様子には見えないが」
「モグリちゃんは、フィオちゃん隊長の威厳に当てられて緊張してるのであります!」
レアが、テキトーなことを言う。
「な、なに!? この僕の威厳の前に、恐縮しているというのか!?」
フィオちゃん隊長の瞳が、キラキラと輝きだした。
「そうか! そうか! う~~む! 配属してすぐに、僕の威厳に気づくとは、やはり見どころがある! モグリよ! そう、緊張することはないぞ! 僕は、こう見えて気安い性格だからな! あっはっはっはっは!」
上機嫌で高笑いをするフィオちゃん隊長。
「ねぇねぇ、この子、ぜったいチョロいよ」
レアが、笑いをこらえながら小声でジュンに言った。
「やめとけよ。失礼だろ」
ここで、こうして話している間も、敵勢力の攻撃が続いているらしい。
どど~~ん――! ずど~~ん――! どか~~ん――!
しかも、爆発音や伝わってくる振動が、どんどん強くなってきている。
「おのれ! 好き勝手にさせるものか! お前たち! 僕について来い! 一緒に、出撃して、外の連中を蹴散らすんだ! ルミア・ギアードの力を思い知らせてやれ!」
フィオちゃん隊長が、やる気まんまんに言った。
それを聞いたジュンが、「ゲッ!」と喉を鳴らし、モグリが青い顔で倒れそうになった。
「了解であります! フィオちゃん隊長どの! お供いたします!」
レアだけが、ノリノリで状況に乗っかっていった。




