第2話「爆弾を持ち歩くのが趣味な女の子!?」
「おお~~い! そこのフードの子、まってぇ~~!」
レアが声をかけると、フード付きの黒いコートを着た女の子は、
「ひぃ!?」
と、悲鳴を上げ固まったように立ち止まった。
「これ拾ったんだけど、あなたの?」
「え? ええ……? な、なんですかぁ?」
フードの女の子は、ぐぐぐ……と直立不動の石像のような身体をこちらへ向けた。
「これだよ。そこに、落ちてたんだ」
レアは、通路で拾った黒い小箱のようなものを見せた。
「ひぃ~~~~!? そ、それ! わたしの爆弾ッ!?」
フードの女の子は、これ以上ないってくらいに目を見開いて驚き、黒い小箱をサッと受け取った。
「え!? ば、爆弾!?」
「いま、たしかに爆弾って言ったぞ!」
聞き間違いじゃない。
はっきりと、「爆弾」と聞こえた。
「ち、ちがっ! 違います! こ、これ! 爆弾っぽい、何かで! その! 見た目は爆弾みたいですけど、中身は爆弾なんです! ほんとに! なんとか、お願いします!」
フードの女の子の言ってることは、しどろもどろとしていて、よくわからなかった。
見た目は爆弾で、中身も爆弾なら、それはもう爆弾以外の何物でもない。
レアとジュンは、ふたりして顔を見合わせて首をかしげた。
「えっと……つまり、爆弾なの?」
と、レア。
「い、いや……その……!」
「爆弾なんだろ?」
と、ジュン。
「う、うう……!」
フード付きの女の子は、ふたりの問いに耐えきれなくなったように顔を背けた。
そして、観念したかのように小声で言う。
「……は、はい。爆弾です」
「認めちゃった!?」
「やばい! 通報しよう!」
ジュンは、ハーフパンツのポケットからケータイ端末を取り出した。
この惑星の保安局に通報するつもりだ。
「ままままま、待ってください! そそそ、そんなことされたら、わわ、私はお終いです! やめてください! おね、お願いしますぅ~~~~!」
フード付きの女の子が、泣きながらジュンにすがりついた。
「なに言ってんだ! どう考えても、通報案件だろ!」
ジュンは、相手を蹴りつけるぐらいの勢いで振りほどこうとしている。
「お、お願いしますぅ~~! 通報しないでください~~!」
「おい! レア! こいつ、なんとかしろよ! めんどくさいことに巻き込まれたのお前のせいだろ!」
「まあまあ、そんなに鼻息を荒げなくてもいいじゃんさぁ」
レアは、笑いながらフード付きの女の子をジュンから引き離した。
「ねえ? あなた、名前は? あたしは、レア。そっちの子は、ジュンちゃん。いったん、落ち着いて話そ?」
優しく話しかけられ、フード付きの女の子は、すこし安心したようだった。
ジュンは、ともかく、レアはまだ話せそうだとでも思ったのだろう。
「わ、わたしの名前は……え、ええっと……その……」
名前を聞いてるだけなのに、どうして答えに、そんなにつまるのだろう。
レアは、不思議に思った。
「イライラするやつだな。名前も言えないのか? 余計、怪しくなってきたな。よし、通報しよう」
ジュンが、またケータイ端末を取り出したので、フード付きの女の子は大慌てだ。
「ま、待ってくださいィ! わ、わたしの名前は……も、もぐり……! そう、わたしは、モグリって言います!」
「そっかぁ~~! モグリちゃんか! 可愛い名前だねぇ!」
なんの疑いもなく笑うレアだったが、
「いや、いまその場で思いついた感じがしなかったか?」
ジュンは、明らかに疑わしい目を向けている。
「あ、怪しくないです! ほんと、怪しくないです!」
「……そうやって言えば言うほど、怪しいんだけどな」
ジュンに鋭い目を向けられ、モグリはたじたじだ。
「そんな威嚇しないの! おびえちゃってんじゃん。ごめんねぇ。怖がらせてさぁ」
レアが、ジュンとモグリの間に割って入る。
すると、モグリもレアの気安い笑顔に和んだのか、すこし顔からおびえが消えた。
だけど……。
「ところで、モグリちゃん。なんで、爆弾なんて持ってたの?」
レアの一言で、またモグリの表情に強いおびえが戻り身体を強張らせた。
「そ、それは……その……えと……んぷぅ!?」
急に、モグリが、えずいて手で口元を押さえた。
顔面が真っ青で、いまにも胃の内容物をぶちまけそうだ。
「うわぁ!? だ、だいじょうぶ!?」
「やめろ! 爆弾もだけど、そっちも爆発させるな!」
レアもジュンも、これには慌てた。
こんなところで、他人が吐くところを見たくない。
「あっ! あっちに、トイレがあるよ!」
幸いにも、通路の先にトイレがあるのを見つけた。
「早く! トイレに行け!」
「……う、うぶぅ」
モグリは、気持ち悪さで自分から動くこともままならないようだ。
「あたしたちで、運んで行くしかないよ!」
「ったく、なんでオレがこんなことしなきゃいけないんだ!」
レアとジュンは、モグリの両脇を抱えてトイレに担ぎこんだ。
がたがた――! ばたん――!
「――――――――!(胃の内容物をぶちまける音)」
モグリは、トイレの個室で吐いている。
レアとジュンは、トイレの出入り口で、モグリが出てくるのを待つことにした。
「いまのうちに、通報しよう」
ケータイ端末を取り出すジュンをレアが手で制した。
「やめときなよ。あの子、爆弾を持ってたけど悪い子には見えないしさぁ」
「悪い子じゃなくても、爆弾を持ってることが問題なんだよ。っていうか、悪い子じゃないなら、なんで爆弾を持ってんだ。おかしいだろ」
「さあ? 爆弾を持ち歩くのが、趣味とか?」
「どういう趣味だよ、それ」
そんなことを話していたら、モグリがトイレから出てきた。
「……ふぅ」
「だいじょうぶ?」
レアが、声をかけるとモグリは意外にも笑顔を見せた。
「はい! おかげで、すっきりしました!」
「それは、良かったねぇ」
あははっ、と笑うレアを押し退けジュンが言う。
「お前……どうして、みんなとは違う方向に、こそこそ歩いて行ってたんだ?」
「え? あ、それは……気分が悪くて、トイレを探してたんです」
「そっかぁ~~。そういうことだったんだ。ごめんねぇ。そんなときに、あたしらが声かけちゃってさぁ。ほら、ジュンちゃん! ぜんぜん、怪しくないじゃん!」
「じゃあ、爆弾は? どうして、爆弾なんか持ってるんだ?」
ジュンが、真っ直ぐモグリの目を見て問いかける。
モグリは、ジュンの瞳を直視しきれないのか視線を逸らした。
「そ、それは……その……」
「なんだよ? はっきり言ってみろよ」
「じ、実は……わたし、爆弾を持ち歩くのが趣味なんです……!」
「はぁ!?」
ジュンは、馬鹿なことを言うなとばかりに呆れたが、
「ほらぁ~~! やっぱり、そういう趣味だったじゃん! ねっ! 怪しくないよ!」
レアは、ケラケラと笑っている。
「お前は、警戒心ってもんがないのかよ!?」
「だって、趣味じゃ仕方ないよねぇ~~?」
レアが、笑ってモグリに言う。
「は、はい! わ、わたしも困った趣味だなって思います!」
「だよねぇ~~! あははっ!」
「ふっ、ふふふっ!」
ジュンは、ふたりのやり取りについていけないと思ったのか、こめかみを押さえて大きなため息をはいた。
「もう、好きにしろよ。オレは、知らないからな。何か起きたら、レアが責任を取れよ」
「はいはい! そうしますよ~~だ!」
レアは、何か起きるなんて思ってないから、気楽なもんだった。
「すっきりしたところで、みんなのところに戻ろうか。コンダクターのお姉さんが、心配してるかもしれないもんね」
「は、はい! そうしましょう!」
レアとモグリは、並んで歩き出した。
ジュンは、まだ何か言いたそうだったが、ふたりの後ろを無言で歩く。
「いやぁ、モグリちゃんがラウンジで『ジェネレーターがいくつ壊れたら、シールドバリアが消えるの?』とか質問してたからさぁ。あたしは、てっきり、さっきの爆弾でジェネレーターを破壊しに行くところだったのかなぁとか思っちゃったよ!」
モグリが、ぎょっとして顔を青くした。
「ま、まさか! そんなことするわけ!」
「あっはっは! 冗談だよ! 冗談! モグリちゃんが、そんなことするはずないもん! ねっ! ジュンちゃんも、そう思うよね?」
話を振られたジュンは、ムッとしたまま答えない。
「なにさぁ~~。機嫌悪いなぁ」
「ふん!」
ジュンが、不機嫌そうに鼻を鳴らしたときだった。
どど~~ん――! ずど~~ん――!
突然、遠くで爆発音が鳴り響き、あたりがガタガタと振動で揺れ始めた。
「な、なに!? どうしたのさ!?」
「爆発だ! ここから遠いけど、何かが爆発したんだ!」
ジュンが、ハッとしてモグリを見た。
レアも、つられてモグリを見る。
「……ひ、ひぃ。ど、どうしよう」
モグリは、青ざめた顔で震えていた。




