第8章【最強のパーティー、あるいは招かれざるプリンセス】
その日の放課後、研修控え室。
ぶち上げた卒業試験である次の第二層主戦に向けたブリーフィングを行おうとしたシンの前に、重装騎士のアランがガタガタと甲冑を鳴らしながら現れた。その顔は感動の涙でベショベショである。
「スメラギさん……ッ! 自分、スメラギさんの孤高の生き様、そして仲間を護るために自らノーガードで死線を超えるあの『背水の超絶剣』に、魂の底から震えました……っ!
だからこそ、自分のような未熟な盾では、スメラギさんの命懸けの戦いを支えきれないと痛感したんです!
自分は引きます! ですが安心してください、スメラギさんのために、最高の、これ以上ない方を手配しておきましたからッ!」
「……は?」
シンの美しい笑顔がミリ単位で静止した。
(ちょっと待ってアラン!?
引くって何!? 君がいなくなったら、次のボス戦で僕は誰の後ろに隠れてノーガードのポーズ(掠り傷で瀕死を偽装する作戦)を決めればいいんだい!?)
シンの悲痛な内心の叫びをかき消すように、控え室の扉が厳かに開いた。
現れたのは、白銀の気高き軽鎧をまとい、凛とした美貌を誇る海都の第五王女――ミネルバ・アーモリアだった。
「お待たせしたわね、シン・スメラギ。
貴方の高潔な戦い、アランからすべて聞いたわ。
貴方をこれ以上、無防備に死なせはしないわ。
この私、ミネルバが、王家に伝わる『号令の武理』をもって、貴方の身体を全ての攻撃を耐えるくらい強靭にしてあげる!」
「お、王女殿下ァァァーーーッ!?」
シンの心臓がストレスで跳ね上がった。
(なんで王女様がここにいるの!?
お姫様のお守りなんて絶対に御免だ!
僕はクジラの攻撃受け止めて『トリガー』を引かなきゃいけないのに!
アランの陰に隠れてちょっとだけ喰らうはずが、こんなVIPが来たら、技のトリガーの為に、僕が前に出て完全に喰らわないといけないし、そうしたら本当に瀕死なるじゃないか!!
しかも耐える身体にって、僕が攻撃喰らうこと前提だし!)
シンが頭を抱えて
「なんでっ!?」
と絶叫しそうになるのを120%のドヤ顔で抑え込んでいる横で、パーティの面々は全く違う角度から戦慄していた。
(な、なによあのお姫様……っ! 急に現れてシンの何を知ってるって言うのよ!)
マリンは、魔銃をぎゅっと握りしめてミネルバを激しく睨みつけていた。
お嬢様としての対抗心がバチバチに燃え上がっている。
(まさか、シンを私から奪おうっていう『恋のライバル』の出現なわけ!?)
「ひゃぅ……っ、お、王女殿下……! 私、私のような神殿の孤児が、恐縮すぎて息ができません……ぅ」
ミリアは、小動物のようにガタガタと震えながら部屋の隅へとフェードアウトしかけていた。
そんな修羅場と化した室内で、ただ一人、魔導書を開きながらニヤリと悪い笑顔を浮かべている男がいた。
カイトである。
(……神展開キタコレ。
アランじゃケートスの全体睡眠をくらって事故る可能性があったんだよ。
だけどミネルバ様が来てくれたなら話は別だ。
王女の持つ状態異常を遮断するスキル『予防の号令』を後列に張れば、ボスの睡眠波動を100%シャットアウトできる。
号令を上手く使えば、第2層の攻略難易度が爆発的にラクになるな……!
よし、あの馬鹿を効率よく強制労働させるためのパズルが完成したぞ!
しかし、なんでこんなに仕様が理解されてないし、迷宮攻略が進んでないんだ?
初の二層完全踏破とか、ありえないだろ。
この国だけなのか?
まあ、モンスターも少ないし、シナリオがある感じもしないから、遥か昔に迷宮は攻略されてて、平和に年月を重ね過ぎたのかもな。
普通に生活出来るなら、わざわざ危険な迷宮に潜る必要もないか……)
それぞれの思惑を胸に新しいパーティーがここに誕生したのである。




