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【完結】『一騎当千』を極めた孤高の天才貴族、仕様によってただ美しく光る置物になる  作者: 山原かいな


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第6章【不滅の英雄、あるいは王女の裏工作】

 ダンジョン研修を終えて数日後。

 学園の大講堂は、熱狂の渦に包まれていた。

 「――刮目(かつもく)し給え!

 これこそが我が魂の極境にして、究極の背水奥義……!

 あえて無防備に敵の最大の一撃をその身に受け、極限の死線へと至ることで神のシステムを強制駆動させる、『肉を切らせて骨を断つ』絶対反撃の神域なのだよ!」 

 詰めかけた数百人の生徒や教授陣を前に、シン・スメラギは伝統の陣羽織を華麗に翻し、痛々しく包帯が巻かれた右手を高らかに掲げていた。 

 第二層での、あの徘徊魔獣『圧殺鰐(あっさつがに)』の瞬殺劇。

 それが学園に戻るや否や、「スメラギ様はレベル20の同級生たちを背に、自ら先頭に立って凶悪な魔獣の突進をノーガードで受け止め、血反吐を吐くほどの致命傷を負いながらも、その死線から一瞬にして魔獣をミンチにした」という、涙なしには語れない英雄譚として誇張され、爆速で尾ひれがついて広まっていたのだ。

 「おおおっ……! 自らを囮にして仲間を守り、死線を超えて秘奥義を放つ……! なんという絶対王者の覚悟、なんという高潔な精神だ……っ!」 

 最前列では、重装騎士のアランが大号泣しながらタワーシールドを激しく打ち鳴らし、魔銃剣士のマリンは顔を真っ赤にして

 「ば、バカお見事よ!」

と明後日の方向を向いてツンデレを炸裂させている。 

 そんな狂信者たちの狂瀾怒濤の中、占星術師のカイトだけは、最前列の隅で死んだ魚のような目でシンを凝視していた。

 (……いや、嘘つけよ。

 ただ『一騎当千』の仕様を勘違いしてカカシになって直撃喰らって死にかけただけだろ。

 それを『瀕死にならないと発動しない背水の超絶剣』とか大真面目に発表してんじゃねえよ。

 コイツ、次のボス戦で本当に自分からノーガードでボスのクソデカ大技を顔面レシーブしにいく気満々じゃねえか。

 狂ってやがる。

 学園の英雄? 違う、ただの自傷系発光カカシだろ) 

 カイトの鋭い内心の剃刀ツッコミを他所に、シンのハッタリという名の独壇場は止まらない。

 「フッ、凡俗諸君。

 真の全貌は、いずれ僕の気が向いた時にでも見せてあげよう。

 では、失礼」 

 完璧なキメ顔とドヤ顔の黄金比をキープしたまま、シンは地鳴りのような歓声の中を優雅に退場した。 


◇ そして数日後、シンは何故か学園長室からの呼び出しを受けた。

 (ふっ、何の呼び出しだ?

 この天才に、研修の件で直接学園長からお礼でも言われるのかな?

 もしかして、国宝級のレア装備でも貰えちゃう感じか???) 

 下卑た笑みを心に隠し、重厚な扉を開く。だが、部屋で待っていたのは学園長ではなかった。

 まばゆい白銀の軽鎧に身を包んだ、凛とした佇まいの美少女。 

 海都アーモリアの『第五王女』であり、責任感と正義感の塊として知られる学園の最高エリート――ミネルバ・アーモリアその人であった。

 「待っていたわ、シン・スメラギ。

 貴方の武勲は、私の耳にも届いているわ」 

 豪奢な金髪と圧倒的な美貌。

 そして、白銀の鎧を押し上げんばかりの破壊的なプロポーションを持つ王女が、その青い瞳を真っ直ぐにシンへと向けた。

 「自ら先頭に立ち、仲間をその身で守りながら、死線を超えて一瞬で徘徊魔獣を滅ぼすその高潔な剣。

 素晴らしいわ。

 貴方のような真の英傑こそ、我がアーモリア王家の盾として相応しい。

 どうかしら、私の専属騎士にならない?」

 (めちゃくちゃ美人ですごいプロポーションだなぁ……。

 目のやり場に困るというか、むしろ目が吸い寄せられる……。

 こんなお姫様と、あんなことやこんなことになれたらなぁ……) 

 シンは少し目線を下げ、王女の圧倒的な『双丘』をぼんやりと凝視するあまり、肝心のセリフを聞き逃しそうになっていた。

 だが、脳細胞が『専属騎士』という単語をキャッチした瞬間、冷や汗と共に現実に引き戻された。 

 王女からの直接勧誘。

 それは文字通り最高峰の栄誉だ。 

 しかし、シンの内心は(げっ!)と激しく拒絶反応を起こしていた。

 (うわっ! 嫌だよ!

 王室の専属騎士なんてなったら、一挙一動を監視されて、毎日ガチガチの堅苦しい儀礼に縛られるじゃん!

 美人王女様とワンチャンあるかもしれないけど、そんなガチガチの主従関係だったら絶対に楽しくない!

 そんなの、孤高で自由な僕の美学(=ぐうたらライフ)に反する!) 

 シンは素早く頭を下げ、神妙な面持ちを作りながら、さも

 「身を切られるように無念である」

といった風を装って答えた。

 「畏れ多いお言葉ですが、ミネルバ王女。

 まだ私は卒業試験も終わっていない一介の学生であり、そのような誉れ高き身分を頂くわけにはまいりません」

 「……私の誘いを断るというの?」 

 ミネルバ王女の美しい瞳が、スッと鋭く細められる。

 (まずいっ! 王女のプライドを傷つけたか!? いや、不敬罪で捕まるのは御免だ、なんとかうまい言い訳を……そうだっ!)

 「まだ学園を卒業すらしていない未熟者には、過分なお言葉かと愚考します。

 私のような者を姫様が独断で騎士にすれば、周囲から『えこひいき』と囁かれ、姫様の気高き評判に泥を塗るやもしれません。

 もし私の実力が本物ならば、いずれ然るべき手順を経て、姫様の周りの者から推薦もされましょう。

 少なくとも、次の卒業試験、私が自らに課した課題は、史上初の二層のボス討伐を含む完全攻略です。

 それまでは、何も――お話がそれだけでしたら、これより血の滲むような鍛錬がありますので、失礼させていただきます」

 「えっ、ちょっと、待っ――」 

 王女の引き止める声を完全にシャットアウトし、シンは優雅かつ(スキル『逃げるが勝ち』をパッシブ発動させたレベルの)流れるような一礼を残し、そそくさと部屋を退室したのだった。 

 後に残された学園長室。

 ミネルバ王女は、呆然と扉を見つめていた。 

 やがて、その頬がぽっと赤く染まる。

 「なんて……なんて奥ゆかしい人なの。

 己の栄誉よりも、私の名声を第一に守るために、あえて泥をかぶるような物言いをして去るなんて……。

 しかも、卒業試験の課題に、初の二層の完全踏破ですって!

 ますます、欲しくなってしまったわ……」

 シンが保身のためだけに放った適当な言い訳は、王女の脳内で「あまりにも不器用で情熱的な愛の告白(気遣い)」へと超翻訳されていた。 

 シンの知らないところで、また一つ、最悪の勘違いの種が芽吹こうとしていた。

今日から毎日2epずつ、19時に追加していく予定です。

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