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【完結】『一騎当千』を極めた孤高の天才貴族、仕様によってただ美しく光る置物になる  作者: 山原かいな


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第五章【一騎当千マスターの「静寂」、あるいは神からの強制労働】

 探索研修は、驚くほど順調に滑り出した。

 第二層5階の薄暗い通路を進む一行の前へ、巨大なハサミを持った『ハサミヤドカリ』の群れが三匹、泡を吹きながら襲いかかってきた。

「――ギチチッ! ギチッ!」 

 「スメラギ様、ここは自分たちにお任せを! スメラギ様の手を煩わせるまでもありません!」

 アランが大盾を前に突き出し、鋭い挑発の叫びを上げて魔物たちの注意を一身に引きつける。

 ガキィィン!と重い金属音が響き、ヤドカリの鋭いハサミが大盾に弾かれた。

 「へえ、いい度胸じゃない! 蜂の巣になりなさい!」

  アランが完全に敵を釘付けにしている隙に、マリンが目にも留まらぬステップで側面に回り込む。魔銃の弾丸が正確にヤドカリの隙間を穿ち、瞬く間に一匹を仕留めた。

「星よ、雷光となって穿て――『雷撃の術式』」 後方からはカイトが冷静に魔導書を掲げる。

 適正レベルの占星術師が放つ雷の矢は、水辺に棲む魔物にとって天敵そのもの。

 バリバチッと激しい電流が走り、残りの二匹が消し炭となって光の塵に変わった。

 「あ、あの……みなさん、お怪我はありませんか……っ?」 

 ミリアが素早く駆け寄り、アランの盾の衝撃を癒やす気功を流し込む。

 適正レベル20のバランスパーティ。

 彼らはシンの力を借りずとも、通常の魔物相手なら完璧な連携で圧倒できるだけの実力を、十分に持っていた。 

 その様子を、数歩後ろで腕組みをしながら、最高にスタイリッシュなポーズで見守る男がいた。

 シン・スメラギである。 

 (……よし。素晴らしいよ凡俗諸君!

 その調子だ! 完璧な連携だ! 

 フッフッフ、僕はただ後ろで髪をかき上げて『フッ、悪くないね』と呟いているだけでいい。

 コイツらが雑魚を片付けてくれるから、僕が『一騎当千』を発動する必要がないのは少し残念だが、凡俗達に花を持たせてやるのも天才の務めだな。 

 このまま何事もなくピクニック感覚で帰還しようじゃないか!) 

 シンが内心で安堵とガッツポーズを決めていた、まさにその時だった。

 それは、突如として彼らの行く手を阻むように暗闇から姿を現した。

 「――グルゥゥゥゥッ……!!」 

 暗闇の中で不吉に目を赤く光らせ、濡れた巨大な鱗を震わせる異形の影。

 教官室で老教授が警告していた、このフロアの初心者殺しとして悪名高い、危険な徘徊魔獣『貪欲な圧殺鰐』である。

 直進上の獲物を容赦なく噛み砕く死神だった。 

 「ひゃあぁぁっ!? で、出ました……っ! 直進して突っ込んできます!」 

 ミリアが涙目で悲鳴を上げ、アランが大盾を構えるがその膝は恐怖で震えている。

 カイトも顔を青くした。 

(まずい、エンカウントしちまった!

 2層5階の悪魔、圧殺鰐だ!

 さっきの雑魚とは次元が違う、この実力差じゃあっという間に前衛が溶けるぞ……!) 

 絶望がパーティを包む中、ただ一人、漆黒の黒髪を優雅に揺らして前に出る男がいた。 

 シン・スメラギ。 

 (フハハハ! 来たねワニ公!

  雑魚散らしばかりで退屈していたところさ。

 凡俗どもが腰を抜かしている間に、僕が夜な夜な鍛え上げた至高の最高奥義を見せてあげよう!

  心の中で、全速力で僕を称え給え!)

 シンは『雷切』を含む二振りの刀を抜き、究極の半身の構えをとった。 

 彼の脳内では、未だにこの技は

 「音と光のプレッシャーで敵を怯ませて相手を動きを封じる(静寂)の技」

 だということになっている。 

 「安心し給え、凡俗諸君、しっかり後ろで守りを固めていなさい。

 僕がこの場を支配してあげよう。

 ――スキル発動! 『一騎当千』!!」

  瞬間、シンの全身から「天井を突き破る極大の白い光柱」が噴き上がった。

 凄まじい理力の奔流が『キィィィィィン!!』と鼓膜を震わせる神聖な駆動音となって響き渡る。

 「す、凄すぎる……! これがスメラギさんの『静寂』の神域……! 魔獣の動きが止まるぞ!」

 アランが興奮で声を裏返らせる。

 カイトは光の渦の中心でガチガチに硬直しているシンを見て、別の意味で戦慄していた。

(待て……あの構え、あの狂ったような理力の消費……あれは『静寂』なんかじゃない、まさか『一騎当千』の完全版か!?

 バカ言え、あれは仲間が防御してる時に使ったら、ただの綺麗な置物になるだけの……!)

 あまりの圧倒的なオーラに、圧殺鰐すら一瞬、驚いたようにその動きを止めた――ように見えた。

 (ククク……怯んだね。

 さあ、そのまま僕の覇気に平伏し――)

 「グルゥゥゥアァァッ!!」 

 しかし、野生の悪魔はそんな電飾ポエムを待ってはくれなかった。

 一瞬止まったように見えたのはただの予備動作。 圧殺鰐は光り輝くシンを目がけ、凄まじい速度で腕を振り回してきたのだ。

 『一騎当千』の最悪の仕様――発動中は「防御力が極限まで低下」し、自分からは回避も防御も一切不可能。 

 ドガッシャァァァァァン!!! 

 「ぶふぉっっっっ!?」 

 シンの美しい顔面と薄い陣羽織しか着ていない紙防御の身体に、ワニの容赦ない引き裂き攻撃がクリーンヒットした。

 バキバキと骨が鳴るような絶望的な衝撃。

 シンは完璧な居合いのポーズを維持したまま、床を派手にバウンドして壁へと激突した。

 体力は文字通り、一撃で『瀕死』。

 前髪は乱れ、鼻から血を流し、今にも気絶しそうな大ダメージである。 

 (な、なぜだぁぁぁーーーっ!?

 マスターレベルになったのに、ただの単純な引き裂き攻撃で死にかけたじゃないか!!

 完全に無防備のまま、ただ光り輝くだけの哀れなサンドバッグになってるぞ……!

 ここは、逃げるが勝ちを……いや、まだ後ろには凡俗のやつらがいるんだ、一騎当千を解除する訳にはいかないっ!)

 「ス、スメラギ様ぁぁぁーーーっ!?」

 ミリアが腰を抜かして悲鳴を上げ、アランの顔が絶望に染まる。

 それを見た魔銃剣士のマリンは、頭が真っ白になって叫んだ。 

 「あ、あいつ、私たちを守るために無防備で攻撃を受け止めたって言うの!?

 バカァ! なに格好つけてんのよぉぉぉ!!」

 マリンはパニックのまま魔銃を構え、震える指で引き金を引いた。 

 「当たりなさいよぉぉぉッ!!」 

 レベル20のマリンが放った必死の銃撃。

 その瞬間、彼女のスキル『我流の剣術』が発動した。

 これは、通常攻撃が一定確率で連撃になるスキル。

 マリンの思いが神に届いたのか、神のシステムの起動により、魂の3連撃が炸裂したのだ!!

 バンッ!バンッ!バンッ!

 するとその時!

 トリガー感知。

 対象:味方「マリン」の3連撃。 

 一騎当千、全神経をジャックして強制追撃を開始します――。  

(あ、動い――というか、速すぎるぅぅぅ、痛いっ!痛いっ!瀕死なのに勝手に体がァァァーーーッ!?) 

 シンの白目を剥いた内心の絶叫と同時に、死に体だったはずの彼の肉体が爆発的に弾けた。

 人間の動体視力を完全に置き去りにした「神速の二刀流」が、血煙の中から解き放たれる。

 マスターレベルの『一騎当千』が誇る超絶破壊力が、家伝の二刀流『弐の太刀』の神速によって、マリンの3連撃に合わせて「3連続の超重二刀斬撃(実質6太刀)」として狂ったように自動出力されたのだ。 

 ドゴゴゴゴゴゴゴオォォォン!!! 

 空間そのものを細切れにするような、目にも留まらぬ速度の白銀の閃光。

 「グ、ガ……、ア……ッ!?」 巨大な徘徊魔獣『圧殺鰐』は、自分が引き裂きを決めた直後に何が起きたのかすら理解できないまま、一瞬にしてその巨体を無数の肉片へと変えられ、迷宮の塵となって消滅した。

 戦闘開始からわずか数秒、文字通りの瞬殺劇だった。

 「…………え?」  

 銃を構えた姿勢のまま、マリンが呆然と口を開ける。 

 アランが、

 「瀕死の状態から、あのワニをたったの数秒で……!?」

 と腰を抜かし、ミリアは泣きながらシンの元へ駆け寄って即座に最上位の治癒術を施した。

 緑の光に包まれ、シンの肉体が一瞬で全回復していく。 

 カイトだけが、すべてを察して頭を抱えていた。

 (やっぱり一騎当千マスターじゃねえか!! マリンの銃撃に反応して強制起動させられたんだ……! っていうかコイツ、ワニの引き裂きを直撃されて死にかけてただけだろ!) 

 戦場に、本当の静寂が戻る。 

 シンは『雷切』をカツンと美しく鞘に収め、フッと不敵に笑ってみせた。 

 そのビジュアルは、まさに敵に触れずして全てを滅ぼした絶対王者の風格。

 ……しかしその内情は、神のシステムに肉体をジャックされ、瀕死であったにも関わらず、意思を完全に無視して音速の反動運動をさせられた結果、ダメージは回復しているはずなのに、感覚的には、全身の全筋肉が悲鳴を上げ、気絶寸前の極限状態だった。

 シンはただ顔の筋肉を引きつらせないように「余裕のドヤ顔」へと整形するだけで精一杯であったのだ。

 そして、その脳内では、またしても恐るべきスピードで

「大いなる誤った最適解」

が導き出されていた。

(……そうか! なるほどね!

  理解したよ神のシステム、一騎当千。

  この技は、発動しただけでは自動無双は始まらない。

 『あえて敵の攻撃を無防備に受け流し、自身の肉体を極限の【瀕死】へと追い詰めること』

 ――これこそが、我が家の古文書にも隠されていた、最強の自動反撃回路を起動するための【不可視のトリガー】だったんだね!!) 

 肉を斬らせて骨を断つ、究極の背水奥義。

 本人は、

 「マリンが銃を撃ったから起動した(仕様)」

という真実には1ミリも気づかず、

 「自分が瀕死になったから技が覚醒した」

と、これ以上ないほど頭の悪い勘違いを極めてしまったのである。 

 「フッ……。驚かせたね、凡俗諸君。

 これが僕の、本来の戦い方さ。

 あえて敵の最大の一撃をその身に受け、極限の死線から千の斬撃を出力する。

 これぞ真の【一騎当千】の領域なのだよ」  

 「スメラギ様ぁぁぁーーーっ!!」 

 マリンが顔を真っ赤にして涙目で抱きつく。

(痛い痛い! 全回復したけど強制起動の筋肉痛や精神的ダメージが!)

 アランが

 「自らを囮にしてあの絶技を……!」

と大号泣する。

 カイトは確信する。  

 (嘘だろ……コイツ、今『瀕死にならないと動けない技』だって勘違いしやがったな!? 

 ってことは何だ? これからも、わざわざノーガードでボスのクソデカ大技を顔面レシーブして死にかけにいこうってのか……? 

 狂ってやがる。 

 ……よし、やっぱり黙っておこう。

 その方が絶対に面白いからな) 

 「さあ、研修を続けよう、僕が死線を潜り抜ける美姿を、これからも精々、特等席で崇めるといい……」 

 己が仕掛けた「動かない呪い」の大爆弾が、最悪の勘違いによって「ノーガード自傷強制労働システム」へとバグ進化を遂げた瞬間であった。 

 天才エリート、シン・スメラギの、命がいくつあっても足りない勘違い無双の旅は、こうして最高の形で幕を閉じたのだった。

これにて区切りですね。

ベースはあるものの、事実が何もないので、前のやつよりよっぽど苦労しました。

一応、レベルと敵の強さに触れておくと、シンの、ビルドのショーグン38はソロでザコは無双ですが、FOEだと、回復が追いつかないので、ほぼ勝てないはずです。

しかしながら、このパーティーなら、バランスがいいので、一騎当千を使わずに普通に勝てるんですけどね。


追記。

とりあえず完結となってますが、10月の3連休に2層ボス撃破(卒業試験)まで投稿しようかと思います。

もう少しお付き合いよろしくお願いします。


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