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【完結】『一騎当千』を極めた孤高の天才貴族、仕様によってただ美しく光る置物になる  作者: 山原かいな


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第二章【夜のバグチェック、あるいはマスターへの誓い】

 ダンジョンから戻った次の日。

 シンは、ダンジョン学園のメインロビーに集まった生徒や教授陣の前で、これ以上ないハッタリをぶちかました。

 「天才である僕はついに伝説のスキル、一騎当千を取得した。

 僕の一騎当千は、あまりにも高位な概念の技であった。

 ……そう、言うなれば『静寂』だ。

 僕がその構えをとった瞬間、魔獣は恐怖のあまり一歩も動けず、ただ僕を見つめることしかできなかった」

 老教授や取り巻きたちは

 「敵に触れずして戦意を喪失させる絶対王者の威圧スキルか!」

と大絶賛。

 シンは大嘘を公式の新説論文として学会に提出される名誉を得るのだった。 

 ――そして、その日の夜。 

 自室に戻り、重厚な扉を閉め、鍵をかけた瞬間。 シンはベッドへとダイブし、高級シルクの枕に顔を埋めて激しくのたうち回った。

 「……どういうことだーーーっ!! なぜ何も起きない!?

 敵のすべてを切り刻む無双の技ではなかったのか!

 なぜ、なぜあのハチを前にした時、僕の『雷切』はピキリとも動かなかったのだ……っ!?」

 枕をボカボカと殴りながら、シンは必死に思考を巡らせる。

 ソロゆえに発動確率100%の神速移動と化していた『逃げるが勝ち』に、わずか1ポイントだけでも構築しておいた過去の自分を、これほど褒めちぎりたい夜はなかった。

 「いや、僕の仮説が間違っている可能性もある。

 今すぐ再検証だ。

 僕は天才、僕の直感が間違っているはずがない。

 きっとあのハチが、僕の覇気に恐れをなしてシステムエラーを起こしただけだ。

 フッ、天才すぎるのも問題だね」 

 自室の鏡に向かってポーズを決めると、シンは夜の闇に紛れ、夜間立ち入り禁止の第一階層『清水ノ樹海』へと再び忍び込んだ。

 検証相手には、第1階層の下層を徘徊していた巨大な毒々しいカエル『大跳び宿借り蛙(オオトビヤドカリ)』を選んだ。――この魔獣も強力な徘徊魔獣ではない、攻撃をくらっても大したことはない通常雑魚である。

 「ふっ……。僕のバグチェックの生贄になる栄誉を授けよう」

 シンは再び、誰もいない闇の中で洗練された半身の構えをとる。

 もしや、この技は

 「敵が攻撃してきた瞬間」

を契機に、自動で無双が始まるカウンタータイプの技なのではないか?

 そうであれば、ここでカエルが殴ってきた瞬間にバラバラになるはずだ。

 「スキル発動――『一騎当千』!!」

 『キィィィン!』という鋭い高音とともに、夜の樹海に眩い白光が爆発する。

 そして、その凄まじい光と音に驚いたオオトビヤドカリが、怒りのままに跳躍した。

 巨体がシンの脳天めがけて、押し潰すように落下してくる。 

 (さあ、来給え! 敵の攻撃をトリガーに、我が神速の居合いで――) 

 ドガシャァァァン!!! 

 「ぶふぉっっっ!?」 

 カエルの容赦ないボディプレスが、光り輝くカカシと化していたシンの顔面に直撃した。

  シンは一切の防御もできぬまま、ただ美しいポーズを維持した状態で地面へと叩きつけられ、バウンドした。 

 「……ゲコ?」 オオトビヤドカリが不思議そうに首を傾げる。 

 下敷きになった人間は、凄まじいオーラを放ち、片足を引いた究極の居合いポーズを決めたまま、白目を剥いて地面に転がっている。 

 (な、なぜだぁぁぁーーーっ!!! 敵が攻撃してきたのに、なぜ僕の肉体は反撃を行わない!?  完全に無防備のまま、ただカエルの腹の肉を顔面で受け止めただけではないか!!)

 激痛と屈辱に涙目を浮かべながら、シンは一つの(大いなる誤った)結論に達した。

 (そうか……足りないのだ。僕のレベル28という器で、おまけに『Lv1』の未完成な術理の状態でこの『一騎当千』を御しようとしたのが間違いだったのだ……!

 術理の熟練度が致命的に足りていないから、ただ光り輝くだけの『不完全な神域』になってしまうのだ!)

 もしこれが、仕様(味方が殴らないと発動しない)のせいだと知れば、シンは仲間を探しただろう。

 しかし、彼は孤高の天才、しかも厨二だった。

 己のハッタリを現実にするため、さらにソロでレベルを上げ、この術理を最高位まで極めるという脳筋な方向に誓ってしまったのである。

 (見ていろよ……!

 この一騎当千の術理に全ての成長ポイントを注ぎ込み、【極境(マスター)】であるレベル10まで鍛え上げてやる!

 その時こそ、真のソロ無双が始まるのだ!)

 「ブ、ゲコォォォ!!」

 カエルが調子に乗って、追撃の舌を伸ばしてくる。シンは泥を舐めながらも、咄嗟にスキルの維持を強制解除した。

 「ま、待ち給え、下等生物! 僕は今、ひどく機嫌が悪いんだ! ……スキル『逃げるが勝ち』!!」

 夜の樹海に、カツンと空虚な足音が響く。

 成功率100%の逃走スキルによって、シンは夜の樹海を、東方貴族の洗練された美しいフォームのまま、昼間以上の超トップスピードで涙目で駆け抜けていった。

 「ふはははは! 逃げるのではない! 僕はただ、学園の門限を思い出しただけだーーーっ!!

徘徊魔物=FOEです。

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