第12章【幻海王ケートス戦、瀕死!あるいは完全覚醒!】
道中の通常雑魚は、ミネルバ王女が加わった完璧なバランスパーティに加え、シンの雷切二刀流による「ステータス暴力の通常攻撃」で余裕の瞬殺。
一行は一切の消耗なく、ついに二層最深部のボス部屋へと足を踏み入れたのであった。
水飛沫を上げて現れた第二層の主――漆黒の巨大鯨を前に、アランを失ったシンは覚悟を決めて二振りの刀を抜いた。
(クソッ、アランがいない以上、僕が前に出るしかない!
王女様に怪我でもさせたら一発で国家反逆罪だ。 ここは僕の剣で速攻で決めるしかないッ!
――いや待てよ。
アランがいないから上手くいくかは分からないけど、あいつの攻撃をちょっとだけ喰らって、うまく額にキズを入れて一騎当千を発動させれば……!)
シンは必死の形相で先頭に躍り出た。
家宝の名刀・雷切ともう一振りの刀を構え、ボスの注意を引きつけるために鋭い剣撃を叩き込む!
ステータスの暴力で確実な手応えを得るが、巨鯨はすかさず激しく身悶えし、口から大量の水を吹き上げた。
周囲に濃密な霧が立ち込め、視界が一瞬で遮られる。
(おおっ、こいつ攻撃してこなかったぞ!
今なら、こいつの巨体に自分からちょっとぶつかって額にキズを入れれば……いける!)
シンが内心では下卑た笑みを浮かべながら、文字通りの「必死の形相」で巨鯨に向かって自爆特攻していく。
「シン……ッ! ああ、やはり貴方は私のために躊躇なくその身を……っ!」
猛然と突っ込んでいくシンの背中を見て、ミネルバ王女は激しく胸を熱くさせていた。
気高きシンの背中を前に、彼を守るという決意は揺るがなかった。
「貴方を、絶対に死なせはしない! 『庇護の号令』!!」
聖なる癒しの光がシンを包み込む。
その横でマリンは果敢に二丁拳銃を構えて連射するが、立ち込める霧に弾丸を弾かれる。
「くっ、この霧じゃ当たらないわ……ッ! 弾が逸れる!」
半分の銃撃が虚しく霧へと消える中、頭脳派のカイトは冷静に呪文を唱え、弱点である『炎の星術』の激しい火炎を叩き込む。
ミリアはガタガタ震えながら、大槌を前に構えて防御に徹していた。
その頃シンは、敵から一切攻撃を受けていないにもかかわらず、巨鯨の硬い皮膚に自ら全力のデコピンばりの体当たりをかまし、額を割って血まみれになっていた。
しかし次の瞬間、王女の『庇護の号令』の聖なる光がシンを優しく包み込み、「ピキーン!」と額のキズを跡形もなく元通りに完全回復させた。
(ちょっ、えっ、回復しちゃったァァァ!? これじゃ瀕死偽装が台無しじゃん!! ――でも、仲間を守るために攻撃を受ける(※実際は当たっただけ)という状況はクリアしたはずだから、あとは一騎当千で!)
しかし、ここで巨鯨の本当の反撃が始まる。
周囲の海水を巻き込み、凍てつく冷気の濁流とともに突進してきたのだ。
足元を襲う氷の奔流。
シンたちが巨鯨を迎え撃った瞬間、ダメージを与えるもバキバキと凄まじい音が響いた。
シン達のダメージは庇護の号令の光が癒したものの、前衛3人の足元が完全に凍りついて固定されてしまったのだ。
「な、何ぃっ!? 足が凍りついて一歩も動けん……!
これじゃ『一騎当千の構え』が物理的にできないじゃないか!?」
シンがポージングの危機に冷や汗を流す間も、巨鯨は休まない。
間髪入れずに深海を思わせる不気味な歌声――全体を襲う睡眠の魔力が響き渡った。
足を封じられて動けない前衛のシンとミネルバ王女、さらにお守り代わりに指輪を1つだけ持たされていたマリンまでもが、抗えずにその場にバタリと頽れて爆睡する。
「zzzzzz……zzzzz……zzzzzz……」
「チッ……、やはり指輪1つでは耐えきれずに寝たか」
カイトは死んだ魚の目のまま、忌々しげに舌打ちした。
だが、カイトのゲーム知識と、ミリアへの「3積みの愛」により、カイトとミリアの2人だけは完全にピンピンして起きていた。
「ミリア、列リフレッシュだ! 急げ!」
「は、はいぃっ! カイトさんの3倍の愛(※ただの指輪3個)がある限り、私は絶対に眠りません! 皆さん、起きてくださいぃぃ!!」
ミリアの決死の祈りが前衛を包み込み、3人の睡眠が即座に解除される。
同時に、カイトが素早い手つきで特製の薬品を投げつけ、シンの『足封じ』をも強引に打ち砕いた。
だが、叩き起こされたばかりのシンは、意識混濁の極みにあった。
「え? 何? ここは天国?? 僕いま何が起こってるの!?」
パニックになるシン。
しかし、対峙する巨鯨の後方には、魔力による禍々しい激流が発生し始めるのが見えた。
ミネルバとマリンはまだ足が凍りついて動けない。
絶体絶命のピンチ。
緊迫した空気の中、カイトの鋭い叫びがシンの背中に突き刺さる。
「スメラギ様!! 『一騎当千』で俺たちを救ってくださいーーーっ!」
「ひゃいっ!? ――くっ、よくわからないが『一騎当千』、発動ーーーっ!!」
瞬間、シンの全身から「天井を突き破る極大の白い光柱」が噴き上がった。
凄まじい理力の奔流が『キィィィィィン!!』と鼓膜を震わせる神聖な駆動音となって響き渡る。
光の渦の中心で、ガチガチの硬質なカカシ(置物)と化していくシン。迫る魔力の激流。
「あっ、やっぱり動かない……」
シンが遠い目をしながら諦めの覚悟を決めた、その時であった。
「私を眠らせてハレンチな事をするつもりだったわねぇーこの生臭鯨ァ!!」
目を覚ましたマリンが怒り狂って銃撃をぶっ放す!
彼女の才能『我流の連撃術』が荒ぶり、驚異の3連撃を繰り出す――が、依然として立ち込める霧のせいで、またしても1発がミス!
しかしその時、神のシステムが無情にログを刻んだ。
『――トリガー感知。
対象:味方「マリン」の二連撃。
一騎当千、全神経をジャックして強制追撃を開始します』
(あ、動い――というか、速すぎるぅぅぅ、痛いっ! 痛いっ! 勝手に体がァァァーーーッ!?)
シンの白目を剥いた内心の絶叫と同時に、起きたばかりで寝ぼけていた彼の肉体が爆発的に弾けた。 操り人形となったシンの肉体が神速で動き、雷切による4連斬撃の自動追撃を巨鯨にブチ叩き込む!
一撃で瀕死になる巨鯨。
しかし、神の自動プログラムは止まらない。
「シン!、私も加勢しますッ!」
続いてミネルバ王女が剣撃を仕掛けようとするが、足がまだ動かないうえに霧に阻まれて何も出来ない。
完全に動きが止まり、カカシに戻ったシン。
そこへ、皮一枚でかろうじて生き残っている巨鯨の、魔力の激流が迫る。
万事休すかと思われたその瞬間、後衛からカイトの鋭い叫びが響いた。
「これで終わりだ。――燃え尽きろッ!!」
カイトが放った炎の星術が、霧を切り裂き巨鯨の脳天にクリーンヒット!
魔法が命中したその瞬間、神のシステムが再び容赦なくシンの肉体をジャックした。
『――トリガー感知。
対象:味方「カイト」の星術。
一騎当千、全神経をジャックして強制追撃を開始します』
(えっ、またっ!? というか体が勝手にーーーっ! 炎に向かぅぅーー熱いっ! 熱いっ!?)
炎の爆発に自ら突っ込んでいく形になったシンが、目にも留まらぬ速さの無限追撃をボコボコに叩き込む!
ズドォォォォン!!!
壊滅的な一撃を放つ寸前だった巨鯨は、シンの理不尽な強制自動追撃によって細胞レベルでミンチにされ、断末魔を上げる暇すらなく完全消滅した。
「お、おおお……っ!!」
静まり返る部屋で、シンはバキバキに痛む身体のコントロールを取り戻し、ふっと前髪をかき上げて完璧なドヤ顔を作った。
「フッ……。見たかね諸君。
あえての死線を潜り抜け、気絶からの覚醒によって起動する絶対反撃の神域……。
これぞ我が魂の神域だよ」
「シン、貴方って人は、なんて……」
「別に、あんたに見惚れてなんかないんだからね!」
「スメラギ様、素晴らしいですぅーー、カイトさんの(愛の)指輪のおかげで、私やれました!」
と、皆が感動の嵐に包まれていたが、実際は、
「ほぼダメージは回復しており、気絶ではなく、ただの睡眠で、寝ぼけたままカイトの指示通りにカカシになって、仲間の攻撃をトリガーに自動追撃させられただけ」
なのだが、シンの中では、
「またしても死線を超えて発動した最強のソロ技」
として、最悪の勘違いが120%深まってしまうのだった。
(……いや、俺とミリアでカバーして、マリンの連撃と俺の魔法をトリガーに一騎当千が発動しただけだろ。
何が気絶からの覚醒だよ!
ダメージなんか全部姫様の号令で回復してんじゃねーか。
てかミリア、なんでそんな熱い目で俺を見てんの? 怖いんだけど)
皆が感動に酔いしれる中、カイトだけが魚の死んだような目で、シンを見つめていたのである。
それぞれの脳内で全く異なる「大いなる勘違い」を大爆発させながら、シンのパーティは、初の第二層完全踏破を圧倒的ヌルゲーで突破してしまうのであった。




