第11章【魂の告白、あるいは決戦の時】
その日の深夜。
女子寮のマリンの部屋に呼び出されたミリアは、豪華な天蓋付きベッドの上で、お揃いのパジャマを前にガタガタと震えていた。
「さあミリア、座りなさい。……で、本題よ」
金髪ロン毛の細身吊り目、学園きってのツンデレ美少女マリンは、ハーブティーのカップを机にドォン! と置き、不敵な笑みを浮かべた。
「ここ最近の貴女、ダンジョン演習中もずっと顔を真っ赤にしてフワフワ浮ついているわ。
……まさか、シンに色目を使っているんじゃないでしょうね!?」
「ひゃぅあッ!? ――あ、あの、すいません、あのっ……! 滅相もないですぅ!
スメラギ様なんて畏れ多すぎて、私が近づいたら不敬罪の波動で消し飛んじゃいますぅ!!」
トレードマークの栗毛のオカッパ頭を激しく振り、全力で否定するミリア。
マリンは
「ふん、ならいいけど」
と髪をかき上げ、自分の薬指にピカピカと輝くアクセサリーをこれみよがしに見せつけた。
「いい? 実は私、今日の昼休みにね、校舎裏でカイトに呼び出されたのよ。
あの陰気な特待生、顔を真っ赤にして『これを持っててくれ』って、この指輪を差し出してきたの。
……フフ、私の美しさが罪深すぎるのね。
ついにあの偏屈な男まで私の魅力に狂わされちゃったみたい!」
マリンの脳内はすでに「庶民の秀才をも虜にする罪な私」というお嬢様妄想でいっぱいだった。
カイトが「一応サブアタッカーのマリンにも1個くらいはお守りを持たせておくか」という極めて事務的な理由で渡したことなど、知る由もない。
しかし、それを聞いたミリアは、ほっと胸をなでおろした。
「あ、カイトさんから聞いてます。
気に入ってくれているようで良かったですぅ……。
カイトさん、昼休みにマリンさんに渡したあとに、放課後の教室で私を呼び出して、お揃いの指輪をくれたんです!」
「はあ!?」
マリンの吊り目が一瞬で跳ね上がった。
「ちょっと、どういうことよそれ!? 二股!?
あの庶民、この私に告白しておきながら、放課後には貴女にも手を出したっていうの!?」
「い、いえ! 違います、違うんですマリンさん! カイトさんは『マリンに渡したのはただの仲間の証(お守り)だ』ってちゃんと言ってました! その上で……その上で私には、『君には絶対に寝てほしくないんだ。だから特別に【3つ】受け取ってくれ』って、顔を近づけて熱く迫られたんですぅぅあぁ!!」
「み、み、みっつぅぅぅ!?」
マリンは驚愕のあまりハーブティーのカップをひっくり返しそうになった。
「指輪を、同時に、みっつ……!? ひとつはただの仲間の証、だけど貴女には『絶対に寝てほしくない(意訳:一生僕のそばで起きていて)』と熱烈に囁いて3つ……!?」
マリンの脳内で、凄まじい身分制の恋愛方程式が組み上がっていく。
(なんてこと……! カイトは特待生になるほどの男。
この学園で、お嬢様である私に『仲間の証(1個)』を渡すことで周囲の目をカモフラージュしつつ、本命である元は同じ庶民だけど、今は聖女候補筆頭になってしまったミリアにだけは、愛の重さの証明として『3倍の指輪(3個)』を贈って本気のプロポーズをしたんだわ……!
知恵を使って、身分違いの恋を隠蔽しながら愛を貫くなんて、カイト……恐ろしい男!!)
「マリンさん……? あの、顔がまた怖いんですけど……」
「ミリア、貴女、愛されているわ!!」
マリンはガタッと立ち上がり、ミリアの両肩をがっしりと掴んだ。
「その3つの指輪、絶対に肌身離さず身につけなさい!
貴女が輝くことは、身分違いの恋に挑むカイトの覚悟に応えることになるのよ!
元は庶民同士の純愛、この私が全面的にバックアップしてあげるわ!」
「ひゃぅあ!? は、はいぃっ!
カイトさんの3倍の愛(※ただのヒーラー睡眠耐性3積み)、死んでも守り抜きますぅぅ!」
カイトは単に冷徹なゲーマー戦術に基づいて、「王女の説得に失敗したので、しかたなく後衛が睡眠するのを防ぐために、パーティの命綱であるヒーラーの睡眠耐性を100%(3積み)にして、マリンには保険で1個送っただけ」というだけなのだが、女子二人のパジャマパーティーを経て、『身分の壁を超えるため、知略を尽くした影の純愛ロマンス』へと完全昇華されてしまったのである。
そして数日後、ついに、第二層アタックの時が来たのである。
第二層『海鳴りの洞穴』の5階、6階、7階、8階と薄暗く濡れた岩場を進み、日々の研修等で、皆のレベルも上がって、前衛、シン(ショーグン、レベル38)ミネルバ(プリンセス、レベル25)、マリン(パイレーツ、レベル23)、後衛、ミリア(モンク、レベル23)、カイト(ゾディアック、レベル24)となっていた。
「――フッ。裂け給え、僕の前に立ち塞がる哀れな有象無象(雑魚)どもよ」
シン・スメラギは、これでもかと角度を計算し尽くした美しいポーズを決めながら、腰の『雷切』ともう一振りの刀をカツンと鞘に収めた。
新加入のミネルバ王女は青い瞳を輝かせて激しく感動していた。
「素晴らしいわ、シン……! 通常の太刀筋だけで、あの堅牢な甲殻を両断するなんて。
これほど圧倒的な力を持ちながら、皆を護るために自ら瀕死の傷を負う背水奥義まで隠し持っているなんて……」
「ふ、ふん! あいつの二刀流が凄いのなんて、最初から分かってたわよ! スメラギ!
次のボス戦では、アンタの連撃すら必要がないくらい、前に出た私の魔銃が敵を撃ち抜いてあげるんだからねっ!」
とマリンが顔を赤くする。
そんな生暖かい空気が漂う中、カイトだけは「スン……」とした虚無の目でシンを眺めていた。
(……いや、当たり前だろ。
なんで適正レベル20前後の2層で、レベル38もあるショーグンの二刀流通常攻撃を見せられて、俺が新鮮に驚かなきゃいけないんだよ。
でもまあ、いいや。
装備調整は完璧。
ボスの全体睡眠『大いなる調べ』を俺とミリアは無効化して、寝てる馬鹿とかを叩き起こせば、あとは誰も寝てない状態で、馬鹿の一騎当千を叩き込めばケートスのHPなんか一瞬で溶ける。
全滅の心配はゼロ!安心したわ)
「さあ、凡俗諸君。
慣らし運転はここまでさ。
次はいよいよ、この海域の主を僕の『静寂』の中で綺麗な刺身にしてあげようじゃないか」
シンはこれ以上ないほどお洒落に刀の柄を叩き、ボスの待つ最深部の玉座へと歩みを進めたのであつた。




