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9話

 唐突に現れた怪物から逃げるように体育館へと避難した生徒や教師達が皆ぐったりと眠っている。

 体育館の舞台にはくたびれたスーツを着た男性がたばこ吸いながら立っていた。

「おうシヨウちゃん、避難誘導は終わったか?」

 裏口から最後に残ったのであろう生徒を連れてきたシヨウに声をかける。

 中等部の生徒は怯えながらシヨウの後ろで震えていたが体育館に入るなり気を失うようにしてシヨウへもたれかかった。その生徒の足元には蔦が伸びていた。

「えぇ。校舎に残っていた生徒や教員はこれで全部です。ですが校庭にいた複数人の生徒達は気絶しているようでした」

「そうか、まぁ外にいる生徒は教会の奴らが何とかしてくれるだろ。38番、お前はあの少年見てどう思った?この状況、一人で収められそうだったか?」

 壇上のすぐ下で膝を抱えて座っているヒスイに声をかけた。頭には四芒星の冠型の制御装置を被っており、赤い光が強く点滅している。

 そして右目の眼孔の奥に黒色の四芒星が輝いており、そこから長い蔦が伸びている。

「……あたしは…知ら…ない…」

 微かに震える唇で声を零した。だが反応は鈍く、虚ろに開かれた左目もどこか遠くを見ているようだった。

「佐倉係長、38番は能力使用時、解離状態になります。ですから恐らく話しかけても無駄かと」

「あー、そうだったか…まったく、星片ってのも不便なものだな」

 いまいち感情の読み取れない表情でじっとたばこを見つめる。

「小言かもしれませんが、ここは禁煙です。勤務中ですし慎んで貰えると」

「すまんな、つい癖で…はぁ、君に怒られると部長と仕事してた時を思い出すよ…あ、そういえばシヨウちゃんはあの少年の妹だったよな?妹からして、どう感じる?」

「…すぐに…死んでしまうと思います。兄は…勘違いをしています。自分自身が強くなった…と。積み重ねがなければ星片による強化があったところで意味などありません」

「実の兄が危機に陥ってるってのに、見ているだけでいいのか?」

「…分かって言っていますよね。教会の者がいるというのに、私達が手出しすることはできません」

 佐倉はあぐらをかいて座り体育館全体を見渡しながら言う。

「家族ってのは大事にした方がいいぞ。自分の中の優先順位は事前にハッキリさせておかないと…後々、後悔するからな」

「…?分かりました。心に留めておきます」


───


「あぁ、痛い…痛い……どうしてお前はそんな無情に切り裂けるのでしょう?」

 機敏性を下げるため、ユウキは拾惑の足を切り落とした。それに応ずるように黒い着物の少女、モモが身体を震わせる。

 少し戦い分かったことがある。それは、モモは辺りの痛覚の情報を共通していると言うことだ。

 モモが傷つけば拾惑や生徒達に痛覚が伝わる。逆も然り、護衛する拾惑を傷つければモモに痛みが伝わる。だが、ユウキにはその痛みが反映されていないようだった。

 辺りの生徒達は未だ気絶しているが、このまま痛みを与え続ければどうなるか分からない。だがユウキとて傷一つつけずに避け切るのは不可能だ、多少の痛みは耐えてもらおう。

 ここはルリやスオウが来るのを待ちつつ、モモの持つ力の全貌を探るのが得策だ。とはいえ──

「さぁ、さぁ!受け身だけではつまらないですよ!お前もそろそろもっと強気に出たらどうです?」

 大きく跳躍し、扇子の刃を振りかぶってくる。

 元より格闘経験がないユウキにとって、動きが鈍く図体が大きく攻撃が当てやすい拾惑と違い、機敏性が優れ動きが複雑なため避け続けるのは至難の業だ。

 扇子に気を取られると足払いに対応できず、足元に気を取られると後ろから迫る拾惑に気づかない。

「…っぐ……ぅ…」

 脇腹にモモの足蹴りが命中した。息が詰まり倒れそうになるのを舌を噛み何とか耐える。

 それに乗じて胸に扇子を刺そうとしてきたのを何とか回避し、隙を見て大きく距離を取った。

「おやぁ…もう限界なんでしょうか?ちょっと期待しすぎちゃったかもしれないですねぇ…。それじゃあ…遊びはこれでおしまいですね」

 扇子を開くと同時、角の瞳をユウキに集中させる。 気味の悪いその瞳と目が合うと、身体が固定されたように動かなくなった。

「…ほぉ、ちゃんと集中すれば力は届きますね。ただ少し耐性が強かっただけですか…それなら良かったです」

 そう言って自らの額に扇子の刃を当てる。

 すると、ユウキには当たっていないはずなのに額に冷たい感触がした。

 視線を逸らそうとしても動かない。息が吸えず、動悸が激しくなるのを感じた。

「さようなら、わたくしの玩具!」


 頭に鋭い痛みが走った。が、それだけだった。

 額からツウっと暖かい血が垂れてくる感触がした。

「…痛い、痛い……何故ですか?あなたには力を強めた…本来なら私と同じように頭が割れているハズなのに…」

 モモは痛みを抑えるように割れた額に手を当てている。

 辺りを見渡すと、白い蝶が舞っていた。

 幻想的なその蝶は、倒れた生徒に止まると淡く輝くと生徒達の傷がみるみる治っていく。

「な、なんですか…これは……!」

 モモは困惑し、後ずさりしていた。拾惑達は蝶が止まるなりその場で意識を失うように倒れ込む。

 ようやく辿り着いたのであろうルリが息を切らしながら駆け寄ってくる。

「っ、兄様!無事ですか?!」

「…ルリ、この蝶は一体──」

 背後から足音がした。

 振り向くと、白いドレスの様な修道服を着た女性が立っていた。

「──ご安心ください、私がいればもう安全です。後はお任せ下さい」

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