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8話

「…あぁ、なんて美しいのでしょう…」

 漆黒の着物をまとった少女が感嘆の声を漏らした。

 少女の周りには五体の拾惑が囲うようにして立っている。

 周辺では急に現れた拾惑に下校しようとしていた生徒達が慌てふためいている。

「あは…きゃははは!」

 金切り声のような笑い声と共に少女が自らの胸に手を突き刺す。脊髄反射かビクンと身体が飛び跳ねる。グチャグチャと音を立てて自身の内蔵を掻き混ぜる。

「あはは…痛い…痛い痛い痛い!この苦しみも全部全部、あなた達にあげる!…だから…もっと綺麗になって?」

 自らの手で開かれた胸元に黒星の星片が輝いている。

 少女が手を振りあげた瞬間胸元の星片が輝きを増し、周辺で立ち尽くしている生徒達の悲鳴や呻き声が響いた。まるで、その少女の痛みが反射したようにみな胸を抑えて蹲っている。

 そしてその苦しみや恐怖を得た拾惑がさらに肥大化していく。

「さぁ、さぁ!もっと苦しんで…全てを破壊してしまいましょう!」


 ユウキは他の生徒達の避難誘導をしつつ、拾惑へ向かっていた。

 拾惑の近くまで来ると、生徒達が倒れているのが見えた。外傷は見当たらない。恐らく気絶しているだけのようだ。

 辺りを見渡していると、拾惑に囲われている少女が目に入った。

 血塗れの黒色の着物のようなものを気崩したような格好で絶望する生徒達を見て嗤っている。

「なんだよ…あれ……」

 その少女の頭から大きな角のようなものが生えていた。その角から生えたいくつもの目がギョロギョロと視線が彷徨っている。

「…あら?」

 こちらに気づいたのか、ギョロリと目を向けてきた。角の瞳も全てこちらに向き目が合う。背筋を撫でるような不快感があり全身に鳥肌がたつ。

 どこか空虚で、おどけるようにして少女は口を開く。

「おや、惑星祈願(わたくしの力)が届いていない?…でも星片の気配は無い…という事は星黎術者でも無いでしょうし……きゃはは!面白いですね」

 ぐるりと体を回して頭を傾ける。

 それに応じるようにして拾惑達が向きを変えユウキを捉える。

「苦しいのも好きですが…やはり、娯楽も必要です。だから…一緒に遊びましょう!きっと楽しい演目になりますよ?」

 指揮を執るように手を振りあげた。同時に拾惑が足を踏み込んだ。校庭は広く障害物がないのは分が悪い。そう思い体育館倉庫の方へ誘導すべく後ろへ下がった。

 左腕に触れ祈ると、星片の剣を顕現した。

「…剣は──出せた。でもルリがいなければ俺は…一度死んでしまえば終わりだ」

 先日、スオウとルリから聞いたこの星片の力についてを思い出した。



──2日前。

「そう…ズバリ!兄様は私の星片の適合者なのですよ!」

 ルリが目を輝かせながらユウキを指さす。

「…多分、その説明じゃ何も分からないと思うわよ?」

「師匠!…そ、そうでしょうか?こっちの方が端的で分かりやすいと思ったんですけど…」

「まぁ少しややこしいし、私から話すわ──」

 そう言ってスオウはコーヒーを片手に話し出した。

「まず、星片というのは大まかに二種類あって…アリシア様が遺した純星片と、拾惑の始祖である少女…ゼノアシアが遺した反星片があるの。それらは各地に散らばっていて、今でも発掘されていない物が多くあるわ。今私やルリちゃんが宿している星片は純星片。そして拾惑が宿しているもの…それが、反星片よ。」

 ユウキは最初に出会った拾惑の事を思い出した。胸元に黒星があったが、今思えばルリに見せてもらった星片に酷似している。ただ、ルリの純星片と違い反星片の方は真っ黒に染まっていたが。

「この二つの星片に共通するもの…それは、願いを叶えるという事と、それを宿した人間の弱点は星片に依存することよ。純星片は純粋な願いを、反星片は穢れた願いを叶えようとするわ」

「弱点が星片に依存する…というのは、この前俺が戦った時に死ななかったのは星片の印がある左腕を潰されなかったから…という感じですか?」

 その質問を聞いたスオウは困った顔をした。

「う〜ん…大体その理解であっているけど、ユウキ君の場合は少し特殊なのよね。複数人を吸収する反星片と違って純星片というのは一人にしか宿らないのよ。でもユウキ君の場合は、ルリちゃんの星片が半分移ってる…って感じなんだと思うわ。ルリちゃんが近くにいる時はユウキ君の弱点…まぁ要するに命がルリちゃんの星片に移って死んでも再生するようになるって感じね」

「…?まぁ私の近くに入れば安心ってことですね!」

 あまりよく分かっていなさそうなルリを尻目に、ユウキは考えをまとめながらコーヒーを啜った。

「…拾惑っててっきり星片とは全く別物だと思ってたけど…存在自体はほぼ同じもの、なのかな」

───



「あらあら、足を止めると踏み潰されちゃいますよ?」

 少女が扇子を口に当てながら嘲笑するように笑っている。

 そんな少女を見て、ユウキは自身に迷いが生まれていることに気づいた。

 自我を失い拾惑となった者たちと違い、この少女には意識がある。ただルリやスオウと違う所は星片が黒くなっているというだけ。

 本当に殺すべきなのか、話し合って解決できないのか──そんな考えが脳裏を巡る。

 横方面から二体、手を大きく振り下ろそうとする拾惑の腕を剣で落とした。それと同時に拾惑は苦しむような、嘆くような声を漏らす。

 少女だけじゃない。拾惑でさえも、人間だ。

 それも…誰か分からずとも先程まで同じ学校で勉学に励んでいた生徒達。

 そんな事を考えていると、ふと子供の頃父に言われていた言葉を思い出した。

〔──力を持つ者は、一人ではなく大多数を救う方へ考えなければならない。それが、強者の誠意というものだ〕

 何も才能がなく努力しても無駄だったユウキにとって無関係だと思っていた言葉だ。

「…あはは…まさか、こんな時に思い出すとは」

 なぜこんな時に思い出したのか…そう思うと無意識に乾いた笑いが出た。ずっと理解出来ないと思っていたが…まさか、その言葉の意味が少し理解できる日が来るとは、思いもしなかった。

 ずっと昔に諦めた、誰かの役に立ちたいという夢。今なら…この力があれば、きっと叶えられるだろう。

 ユウキは改めて拾惑と少女を観察し直すことにした。

 戦力的には以前戦った個体より力が弱く機敏性に欠けている。五体相手は流石に手こずりそうだがどうにかルリや教会のシスター達が来るまでは耐えることが出来そうだ。

 ただ、少女は未知数だ。現在は傍観していて直接手を出す様子はないが…気をつけるのに越したことはないだろう。

「…おや、なんか思い直しました?さっきまであんな陰気だったのに…きゃはは!その顔を絶望に落とし込めたら…すごく楽しそう!」

「…え?」

 ユウキは顔に出したつもりはなかったのだが…何故か少女に火をつけてしまったようだ。

 扇子に付いている硝子の様なナイフの刃先を自らの唇に当て、再び角の瞳をユウキに向ける。

「あぁ、せっかく遊ぶのですから自己紹介しておきましょう…わたくしは(ヤナギ)(モモ)彼岸(ラジアータ)の執行官が一人。さぁ…一緒に遊びましょう?」

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