3話
「師匠!本日の奉仕活動は兄様を連れて行ってもいいでしょうか?」
最後のデザートを食べ終わった後、ルリが口を開いた。
「え、俺?」
正直、ルリの明るく無鉄砲な感じはユウキが苦手とするタイプだった。
「そうね…それじゃあそのついでにルリちゃんから色々と説明頼めるかしら?」
「あ、その…出来ればスオウさんに説明して欲しいというか…」
「はい!私にお任せ下さい!それじゃあ早速…善行しに行きましょう!」
そう言うとルリは勢いよく立ち上がった。
スオウが少し舌を出し、ウィンクで合図をした。どうやら、ユウキに拒否権は無いようだ。
人の多い駅前にユウキとルリは来ていた。
「それじゃあ、早速困ってる人を助けに参りましょうか!兄様!」
「ちょ、ちょっと待って…さっきから思ってたんだけど、なんで俺の事兄様って呼ぶの?」
そう聞くとルリは自信満々な顔で胸を張りながら言った。
「これも、シスター修行の一環です!私の目標は、完璧無敵のシスターになる事なので!見習いの身としてできる限りの事を尽くすのが見習いシスターの務めですから!」
「…もしかして、シスターとシスターって事?それただの同音異義語で大した共通点ないと思うけど……」
「…?そうなんですか?」
よく意味は分からなかった。というか、本人もよく分かっていないようだった。
「でも、やらないよりやった方がいいじゃないですか!私は必ず最強のシスターになってみせます!だからよろしくお願いしますね、兄様!さぁ、行きましょう!」
「ちょ、引っ張らなくてもついて行くから…」
そう言ってルリはユウキの手を握りどこかへ向かっていく。
どうやら、商店街の方へと向かっているようだ。
「そういえば…善行って、一体何するんだ?」
「ふふふ、それはですね、ズバリっ──困っている人を探し当てるのです!」
「……?探し当てる…?」
「はい!これを使います!」
そういうと、L字型の2つの棒を取り出した。確か…ダウジングロッド…だっただろうか。
「……それ、宝探しの時に使うやつじゃん…」
「さぁ、星片よ…私を求めし者の方へと導いてください!……っなるほど!こっちですね!こっちの方に困っている人が──」
そう言った途端、真反対から悲鳴が聞こえた。
「誰か!!その泥棒を捕まえてくれ!!」
雑貨屋の店主が叫びながら走ってこちらに向かってきていた。店主の少し前には、帽子とサングラスにマスクをしたいかにも怪しい男が走って逃げている。
「…さぁ!兄様、行きましょう!!」
「え?ちょっ──?!」
そういうとルリは全速力で泥棒の方へ向かって行った。
「どぉぉりゃぁぁぁ!!!!」
男に頭から突っ込んで行った。
だが軽くいなされ、その後ろに居た店主に追突した。
「避けられてるじゃねぇか?!…くそっ、アイツ…!」
周りの人達の視線がルリに集まっているのを見計らってか、男が人の多い駅の方へと走っていく。
「……このままだと逃げられる…っ!」
人の波に紛れて見失う所を間一髪でユウキは右腕を掴みどうにか引き留めた。
「…っ、離せ!クソガキ!」
「離すもんか…!窃盗犯め!」
抵抗する男が左手を振りあげた。殴られる、そう直感し、痛みに備えるように男の右腕を掴む自身の手に込める力を強くした。
すると、太い木の枝を折ったかのような感触がした。
「っっ?!痛えぇぇ?!」
窃盗犯の男は右腕を抑え、その場に座り込んだ。
「クソガキ……お前…何しやがった……?!」
「え、いや俺は…」
恨めしそうに、目を充血させながら睨みつけてくる。力は込めた…だが、骨折させる程強く握ったつもりはなかった。というか、大体ユウキはそんな力は持っていない。
もしかしたら…昨日の戦った時の力が残っていたのだろうか?
困惑していると、後ろからルリの声が聞こえた。
「泥棒!どこですか?!早く出てきなさい!!…ってあれは…兄様と泥棒!!兄様が捕まえてくださったのですね!」
ルリが走り駆け寄ってくる。
「流石です!やはり救世主の名に恥じませんね!」
「そ、そういうのを大声で言うのは俺が無性に恥ずかしいからやめてくれ…」
ルリは頭のてっぺんに生えたアホ毛をしっぽのようにぶんぶんと回しながらキラキラとした瞳で見ている。犬みたいだな…とユウキは思った。
少し遅れて、先程ルリがぶつかっていた店主が来た。そして窃盗犯の男から盗まれた物を一通り確認し、ユウキの方へ向き直った。
「ありがとうございます、助かりました…ルリちゃんも、ありがとね」
「その…本当にさっきはごめんなさい!!いつも気をつけろって師匠に言われてるのに、何も見ずに突っ走ちゃって…反省しています……」
さっきとはうってかわり、しゅんとした様子で店主へ頭を下げた。
「あはは、大丈夫だよ。ルリちゃんが悪気がないってのは、皆知ってるよ」
誰かが通報していたのだろう、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「……あっ…ごめんなさい!用事を思い出しました!ちょっとここらで失礼します!行きましょう、兄様!」
「ちょ、警察が来るなら事情説明した方がいいんじゃ…」
ルリに手を引っ張られ、住宅街の方へと走って行った。
少し街から離れた丘の上の公園で休憩していた。
ユウキとルリ以外に誰もいない。ユウキは隣のブランコに乗るルリに問いかける。
「ふぅ…疲れた……だいぶ走ったな……なぁ、なんで警察って聞いた瞬間あんなに焦って逃げだしたんだ?」
「…それは、師匠からの言いつけです。私達…教会のシスター達はあまり顔を覚えられたくないんですよ」
「そりゃまた……一体?顔を覚えられたくない…って割には、商店街の人達とは顔見知りっぽかったけど……」
「普通の人は、拾惑について知りません。教会が隠しているからです。それは何故だと思いますか?」
珍しく真面目な雰囲気に少し戸惑いつつも、ルリの問いかけに少し考えてから答えた。
「…拾惑は負の感情から生まれる…だから、二次災害を防ぐため?」
「その通りです。皆の不安が消えなければ無限に生まれてしまいますからね…ですから、拾惑が生まれた時は、それを見た人、関わった人の記憶を消すんです。拾惑によって破壊された建物は隕石が落ちてきた…とか、なんか建物が爆発した…とか、そんな風に誤魔化しているんですよ。でも……その誤魔化しもあくまでその場しのぎのようなもので…だから、少しでもバレないように、私達は目をつけられる訳には行かないんです」
ルリはブランコを漕ぎ、ユウキの方を気にしながら話す。
「昨日のこと…覚えていますか?」
「…あぁ、覚えてるよ。1回死んだ事も…それを助けてくれた事も」
「あの力は、星の力なんです。師匠から星片の起源の話は聞きましたか?」
「星片?」
「その様子だと、まだ説明されていないようですね…こほん、少し昔話をしましょう───」




