13話
「──母さん!見てください、学年模試1位取れました!」
「…あら、凄いわね!あなたが頑張ってくれてると、母さん凄く嬉しいわ」
狭い和室の一室で、外出の準備をする母に声をかける。たまに怖い時もあるけれど、頑張りを素直に褒めてくれるのがシヨウは嬉しくてたまらなかった。
「あ、兄さん!見て──」
兄が帰宅した。その姿を見てシヨウは駆け寄ろうとするも、母に遮られた。
「ダメよ。近づいたらダメだって、何度言ったら分かってくれるの?」
「…え、でも…」
母と兄の顔を交互に見る。母は目を合わせることなく支度を続けているが先程とは違い明らかに不機嫌だ。兄は俯き顔は曇っている。
「…ごめんなさい」
また間違えてしまった、とシヨウは後悔した。
シヨウは皆に天才だと言われる。何を学ぶにも吸収が早く、数ヶ月続ければその手の職人にさえ並ぶことが出来る程だ。
しかし、人付き合いは苦手だ。空気が読めず、周りから人が離れていってしまう。
そんな環境にシヨウはずっと孤独を感じていた。
塾の帰り道。既に日は沈み人気も少なくなってきた頃、シヨウは暗闇を一人歩いていた。
「……シヨウ、今帰りか?」
「…っ!兄さん!」
後ろから聞き馴染みのある声がし振り向くと、兄の姿があった。
「その…昨日はごめんな、ちゃんと話聞いてやれなくて。最近ちょっと母さんと喧嘩したんだ、これからはあまり家では話せないかも」
「あ…うん、分かった。その…それ、どうしたの?」
兄の姿は暗がりでも分かるほどに酷く汚れていた。 制服のシャツは破れ、土や泥に塗れていた。
「…俺の事は気にしないでくれ。……少し友達と遊んでたら土手で転んだんだ、それより最近はどうだ?」
「…この前ね、私──」
シヨウは嬉しそうに先日語れなかった話を兄に語り出す。どうでもいい話かもしれない。
だが、それを相槌を打ちながらちゃんと聞いてくれて対等に友達のように接してくれる、シヨウはそんな優しい兄が好きだった。
ある日、シヨウが学校から帰ると部屋は荒れていて、兄の私物が半分程無くなっている。
いつもいるはずの母の姿も見えず、強盗に入られてしまったのかと思いシヨウは焦った。
「ど、どうしよう…誰かに伝えないと…」
屋敷の中に入り、人がいないか探すことにした。
長い廊下に幾つもの部屋が連なっており、まるで迷路のようだ。いくつかの角を曲がった先で、シヨウは何かにぶつかった。
「…おや、シヨウ。なぜ貴方がここに?」
透き通るような白髪の着物の女性が立っていた。
シヨウとは半分しか血が繋がっていない義姉だ。
「あ…ごめんなさい、義姉さん。その…家に帰ってきたら、部屋が荒らされていて…母さんの姿も見えなかったので、もし強盗に入られたんだったらって思って…」
「そう…でも、ここに勝手に入ったらダメでしょう?出会したのが私だったから良いけど…あとは私がどうにかしてあげるから、貴方は…そうね、私の部屋で待っててくれる?」
そう言って義姉は不安げなシヨウを宥めるように頭を撫でてから端の部屋を指した。
「ありがとうございます、義姉さん…」
「ちゃんといい子にして待っていてね」
そう言ってどこかへ去っていった。
その後、義姉の部屋で数時間待った後に久しぶりに会った父に淡々と告げられたのは兄に母が殺されたという事実だけだった。
いや…もしかしたら、他にも話をしていたかもしれない。だが、あまり覚えていない。
ただ最後に父は、何故か微かに安堵したような目をしていたような気がする。
───
シヨウは学校から帰宅した後、少しだけ窓辺の椅子で仮眠をとっていた。久しぶりに昔の記憶を夢に見た。
「…はぁ……」
シヨウは久しぶりに嫌なことを思い出してしまったと言わんばかりにため息をつく。
たまに振り返ることはあれど、鮮明に思い出すことは避けてきたのだが、思わずとも記憶が蘇ってきたのは先日兄にあったのが原因だろう。
シヨウは屋敷にある自室の中からかつて自分が住んでいた小屋を見つめる。
現在は物置小屋となっており、人の立ち入りは少ない。だが当時とは違い辺りの雑草は整えられている。
「シヨウ、仕事の時間です。そろそろ行きますよ」
扉の向こうから白髪の女性──義姉である白妙の声がした。
シヨウは既にまとめていた荷物を手に取り、義姉の方へと向かう。
「お待たせしました、行きましょう──拾惑を殺しに」




