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12話

「こんにちは、兄さん」

 ヒスイとの待ち合わせの日、合わせたい人がいると言われ喫茶店にて現れたのはシヨウだった。

「…シヨウ?どうしてお前が…」

「えっと…一応私は席を外すね、また話し終わったら呼んで」

 そう言ってヒスイは立ち去った。

 入れ替わるように目の前にシヨウが座る。こうして面と向かって話すのは何年ぶりだろうかと思いながらシヨウを見た。

 この前は気に留めていなかったが、面と向かい見てみると幼かった頃よりだいぶ大人びてる。

「…元気だったか?」

「はい。変わりありません」

 淡々とした様子でシヨウは答える。若干の居心地の悪さを感じながらも、ユウキは話を続けた。

「その、今日はどうしたんだ?急に話がしたいなんて…」

「…」

 シヨウは黙ったままユウキの頼んだコーヒーを見つめている。

「あー…何かシヨウも頼むか?何でもいいぞ、今日は俺が──」

「母さんを殺したのは、本当に兄さんなんですか?」

 ユウキは眉がピクリと動いた。

「…急にどうしたんだよ、あの時の事はもう片付いたはずだろ」

「いえ…少し気になっただけです。それで、どうなんですか。本当のことを話してください」

 ユウキは一拍おき、自らの呼吸を整えてから答える。

「……お前が知っている通りだ」

 その答えを聞いた瞬間、少しだけシヨウの顔が曇った気がした。

「…何故ですか。何故殺さなければならなかったのか、説明してください」

 シヨウは淡々とした変わらない様子で質問を続ける。だが、ほんの少しだけ声が震えているような気がした。

「そんなの、お前には関係ない」

「…そうですか。…やはり、私にとってあなたは憎むべき存在です。ありがとうございました。これでもう私が迷う事は何もありません」

 そう言うと、シヨウは喫茶店を立ち去った。

 少しすると外で待っていたヒスイが戻ってきた。

 ヒスイはシヨウが去った後とユウキの顔を交互に見て、心配そうに口を開く。

「えっと…大丈夫?何かあった…?」

「…いや、何も無いよ。少し兄妹喧嘩しただけだから」

 ユウキは困ったように笑みを浮かべ答えた。


───


 シヨウと会ってから数時間後。

 ヒスイとの勉強も終わり、ユウキは帰路についていた。

 既に暗くなった空を星を探しながら自宅へ歩いていく。

「……なんで急にあの時の事を…」

 シヨウと話している最中、過去に引き戻されたような感覚がだった。シヨウにとって…ユウキにとっても、決して良いとは言えない思い出。

 ユウキは心のどこかで、あの時の自分とはもう違うと思っていた。そう信じたかった。

「…やっぱ俺、あの時から何も変わってないんだな」

 気づいたら自宅の目の前まで来ていた。

 鍵を開け、ドアノブを回す。いつも開けているはずなのに、何となく扉が重く感じた。

「お帰りなさい、兄様!」

 玄関を開けると白いワンピース姿のルリがいた。

「…不法侵入?」

「いえ!私は妹なのでノーカンです!……多分。…今はそんな事より!」

 そう言ってリビングの方へと向かっていく。

 ユウキは後ろをついて行くと段々美味しそうな匂いが漂ってきた。

「ふ、ふ、ふ…どうですか!私のお手製晩御飯です!」

 ダイニングテーブルには、二人分の食事が置いてあった。焼き魚に味噌汁、ひじきの煮物にきゅうりの浅漬けといったいかにも和食といったラインナップだ。

「おぉ…すごいな、ひとりで全部作ったのか?」

「はい!できる妹は料理も完璧なのですよ!」

 ルリはふふん、と胸を張り上機嫌にユウキを見つめる。

「それにしても…急にどうしたんだ?」

「い、いえ別に…なんも意味は無いですよ!ただやりたくなっただけなので…それより、冷めちゃうので早く食べてください!」

 ルリに急かされ、ユウキは半強制的に椅子に座らせられた。

「…それじゃあ、いただきます」

 可もなく不可もなく…といった家庭的な味付けでユウキは味わいながら食べ進めた。ひと口頬張る事にルリがキラキラとした瞳で見つめてくる。

「…美味いよ、ものすごく美味い」

「本当ですか!…えへへ、それなら頑張った甲斐がありますね…」

 ルリは照れくさそうに頬をかきながら見つめている。

「ルリも食べたらどうだ?せっかくこんなに美味しいんだから、冷めたらもったいないぞ」

「それもそうですね!それでは…いただきます!」

 ルリは食べる最中もずっと幸せを噛み締めるように嬉しそうにしていた。

 ユウキはその姿が、かつてのシヨウと重なって見えた。

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