8.嫌な予感は外れない『その捌』宝物庫の住人たち、記憶を紡ぐモノたち
流哉の視点で進みます。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、大幅な加筆と修正を行いました(2025/03/09)
神代流哉は、ドワーフ族の少女の背を追っていた。
彼女の小さな背中は、宝物庫の奥深くへと続く迷宮の、頼りない道標のようだった。
職人たちが住みつき、作り上げた町の一角。
祖母が職人街と呼んでいた場所。
響く金槌の音、灼熱を抱え込む炉、蒸発する水の音、立ち上る白煙。
そこは、時の流れから取り残されたような、異質な空間だった。
祖母でさえ、最終的には誰がいたかを全て把握してはいなかったという。
流哉は、町を案内される間、すれ違った人々の多さに、改めてこの場所の異様さを感じていた。
ドワーフだけでなく、人間、そして小さな子供たちの姿もあった。
彼らは、蔵の中で自然発生的に増えていくのだと、少女は言った。
「ここは、これだけのものが暮らしていたんだな」
流哉が呟くと、少女は振り返り、少しだけ誇らしげに言った。
「そうだ。そもそも、私もココの生まれだぞ」
「そうだったのか……知らなかった」
流哉は、素直に驚きを口にした。
彼女が、この宝物庫の住人であることは知っていたが、まさか生まれも育ちもここだとは。
「ツクヨもそうだったけど、主も用事がないとまったく顔を見せないのはどうかと思うぞ?」
少女は、少しだけ不満げに言った。
祖母の神代月夜も、流哉と同様に用事がなければ訪れないというのは、嬉しい共通点だ。
「用事がない時に来ても、お前たちは歓迎しないだろう」
流哉が皮肉交じりに言うと、少女はムッとした表情で言った。
「私は歓迎するぞ」
「そうかい……」
流哉は、曖昧に答えた。
ドワーフという種族の中で、彼女はまだまだ若い。
しかし、ドワーフ族はエルフ族と同様に長寿の一族だ。
古代のドワーフやエルフは、千年以上の時を平気で生きる。
古代の種族に連ならなくても、五百年くらいが平均的だと、祖母から聞いた。
精霊に近いほど、命の限りなど無いに等しい。
「そんな主がここにいるってことは、何か用事があるってことか?」
少女が尋ねると、流哉は頷いた。
「ああ、オレの所有する魔導器を見せてほしいって言われて、探しに来たんだ。
何を見せても良いか迷っている……相談に乗ってほしい」
「主の持ち物って、見せても大丈夫なのか?」
少女が訝しげに尋ねると、流哉は少しだけ困ったように言った。
「それを言われると……いや、普通のモノもあるだろう」
「置物になっているモノの中からか、放置したままになっているゴミから持って行くかのどっちかじゃないか?」
少女の言葉に、流哉は苦笑いを浮かべた。
「ゴミって言うなよ……お前たちからすると、神秘の濃度が薄すぎてゴミに見えるのは仕方ないけれど」
「神の使徒を名乗る男が現れてから、神秘が世界から急速に薄くなっていると、月夜から聞いた。
たとえ神秘が薄くなったとしても、良い物を作るヤツもいる。
結局は濃度の問題じゃない、ヤル気と才能の問題なんだよ」
少女は、厳しいことを言った。
しかし、その言葉には、確かな真実が込められていた。
ゴミのような何の役にも立たないモノしか作れず、それで金銭を巻き上げるクズの職人もいる。
その反面、『時の旅人』のようにとても強力な魔導器を生み出した天才もいた。
ようは職人の腕次第では神秘の濃度云々は関係ないって話しだ。
「オレのコレクションや、祖母さんのコレクションなんてヤバいモノはそもそも見せられないし……かといってゴミを持って行くのはオレのプライドが許さない」
「主のプライドとかはどうでもいいけど、コレクションを見せられないっていうのは同意するよ。
ゴミを見せたら云々っていうのは、『そんなモノしか持ってないのか?』って主が言われるだけだからどうでもいい」
少女の辛辣な言葉に、流哉は再び苦笑いを浮かべた。
祖母から流哉に主人が変わったっていうのもあるが、この場所の連中は現在の主人である流哉の事をどう思っているのか。
宝物庫の中の環境を保っているのは流哉の魔力だというのを少しは考えて欲しい。
常人であれば発狂する前に死に絶える量の魔力をこの宝物庫は所有者へ要求する。
宝物庫の支配者になるには常軌を逸した魔力の保有量と生成量が最低条件。
要するに普通の魔術師には荷が重すぎるっていうどうでもいい話し。
中の住人達からすればその程度の持ち主に力を貸す必要などなく、宝物庫その物もその程度の名ばかり所有者に門を開かない。
まぁ、宝物庫の中を保つのは住人と祖母が結んだ契約に含まれている為、そのことを強く言うことはしない。
契約を守れないのであればその程度の器だということ。
住人たちの協力は得られず、宝物庫は扉を閉める。
流哉の部屋の中から、宝物庫の中へ繋がる三枚の扉は消え失せるだけの話しだ。
幸いなことにそのような事態に陥ることは有り得ない。
宝物庫の維持に回している魔力量は、生成しても使い切れずに垂れ流しになる量をそのまま回しているからだ。
幾つもの制約で使用できる魔力に限りがあるとしても、保有量と宝物庫の維持へ回している量に影響はなく、変化もない。
魔力切れという言葉に縁がない以上、宝物庫から見放されるという最悪の事態は起こり得ない。
「どうせ『もう少しは主の事を考えてくれてもいいのでは』って考えているんだろうけど、私たちは主に十分貢献している」
「それを言われると何も言えないな」
「ただ、どうしてもって言うんなら協力しないこともない」
ドワーフの少女はソッポを向きながら頬を少し朱に染めている。
愛いらしい面もあると付き合いの浅い頃だったら思っていたが、ここの職人連中にそのような面はない。
見た目こそ幼い少女のようだが、実年齢はゆうに百を超えているはずだ。
祖母の事を『月夜』と呼び捨てにするのは、この場所がまだ工房と呼ばれていた頃からいる古い従者たちだけだ。
歳を重ねたモノ達だ、何を考えているかなんて分からない。
反応をそのまま受け止めるほど、流哉は純粋ではない。
今回の話し、どうでしたか。
宝物庫がどのような場所か、それを書く為の話しになっています。
ドワーフの少女がどのような人物なのか、いま少しお待ちください。
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